第17話 噂

 エクス城を出るとお昼前だった。冒険者ギルドで馬車を降りた。

 宿舎の部屋にいても鬱々とするだけなので昼間から冒険者ギルドの食堂で昼食を食べながら酒を飲む事にした。

 【無の日】の休日なのに、冒険者はたくさんいる。とても賑やかだ。

 こんな喧騒の中で飯を食べてアルコールが入れば鬱々などとはしてられない。知らない冒険者も良く話しかけてくる。適当に話をしていると気も紛れる。


 俺のテーブルの正面に体格のがっしりした男性が座ってきた。


「お前さん、魔導団の人だったのか」


 うん? 知り合い? 良く覚えていない。


「すいませんが何処かでお会いしましたか?」


「この間、白亜のダンジョンの10階のボス部屋の前で会話しただろ」


 あ、そういえばこんな人だったか。


「これは失礼しました。短い時間だったため気が付きませんでしたよ」


「お前を探していたんだよ。それなのに魔導団の人かぁ……」


「俺を探していた? 何かしましたか?」


「あの日の後、黒髪、黒目のソロ冒険者が話題になったんだ。お前、10階のボスのオークキングを瞬殺しただろ。次にボス部屋に入った奴らが待ち時間がとても短くて吃驚したそうだ。その後、ボス部屋に入ったパーティがお前の装備が残されていないところからオークキングの討伐に成功したようだってな。それに地下1階のポリックの群れをファイアアロー1発で瞬殺して行った冒険者の話が出てきてな。凄腕の魔導師でソロ冒険者だ。パーティメンバーに誘いたくなって当たり前だろ。それが魔導団所属じゃな………」


「それは残念でした。良かったらお酒飲みません? 奢りますよ」


「こんな昼間っから飲むか! 明日のダンジョン探索に堪えるわ!」


「冒険者は身体が資本ですからね」


「それはそうと、東の新ダンジョンの情報は何か持っていないか?」


 知り過ぎているけど喋るわけにはいかないな。


「東の新ダンジョンがどうしたの?」


「騎士団主体で調査に入っていた。1ヶ月経ったところで一般に開放しないで国が管理する事になったじゃないか。あれは実入りの良いダンジョンだから国が独占しようとしているって噂になっている。魔導団の人なら案外何か知らないかなって思ってな」


 なるほど。外から見るとそう見えるか。こういう小さな誤解をしっかりと解いておかないと噂が変な方向に行っても困る。

 サイファ団長案件だな。


「ありがとう。良い情報だったよ。上司に相談して、その噂が根も葉もない噂だって分かるように進言してみる」


 休みの日だけど早速魔導団団長室に行ってみよう。

 暇だしな。アルコールが少し入っているけどまぁ良いでしょ。


 魔導団本部までほろ酔いで歩く。

 風が気持ち良いなぁ。

 魔導団本部に着くと真っ直ぐ団長室に向かった。いつもはプレッシャーを感じる扉も今日は何も感じない。

 ビバ! アルコール!

 ノックをしたら中から返答があった。待ち切れないとばかりに入室する。

 相変わらず休みの日でもサイファ団長は働いているんだな。


「ジョージくんじゃないの? 昨日、何か言い忘れたのかな?」


「すいません。休日中だったため現在アルコールが少々入っております。冒険者ギルドの食堂で飲んでいたのですが、早めに対応したほうが良い案件の情報があったため報告にきました」


「あらあら、ご苦労様。それで何があったの?」


 俺は修練のダンジョンの冒険者の噂について報告した。


「なるほどねぇ。そんな噂が流れているんだ」


「提案なのですが、現在修練のダンジョンは午後は使っておりません。冒険者ギルドに話を通して、冒険者の代表者に午後だけ開放するのはどうですか?地下1〜2階は金にならないし、地下3階は危険過ぎると理解させてやれば良いかと。マップも渡して、国は隠し事をしていないと証明するべきだと思います」


「それは良い考えね。早速冒険者ギルドに提案してみるわ」


「以上、報告でした。それでは失礼いたします」


 帰ろうとした俺にサイファ団長から声がかかった。


「今度時間を作って飲みに行きましょう。私もたまにはリフレッシュしたいわ。付き合ってよね」


「了解です。お誘いお待ちしておきます」


 俺は団長室を出て宿舎の部屋に戻って昼寝した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 昼寝から起きると外は暗くなっていた。

 変な時間に昼寝しちゃったな。眠れるかな?

 朝は鬱々としていたけど、今は少し気楽になっている。

 まぁ問題の先送りともいうがそれでも良いか。人生は楽しくないとね。

 【真剣になるのは良いけど深刻になるな】これを今後の座右の銘にしようかな?

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