第13話 記念のブレスレット
特別任務26〜29日目
この4日間はスミレさんのレベルを上げるために狂ったようにオーガを倒しまくった。
はっきり言って、それしかやっていない。朝から晩までオーガ討伐。宿舎には寝に帰るだけの状態だ。
まずは全速力で地下1階と地下2階を抜ける。オーガのモンスターハウスに直行。ファイアアローで瞬殺する。
確かめた結果2時間程度でモンスターハウスのオーガが湧く。その2時間は魔力ソナーを広げてオーガを探す。次から次と倒しまくる。
魔石を入れたリュックサックがどんどん膨らむ。
2時間経ったところでもう一度モンスターハウスに突攻し瞬殺。魔石を拾ってダンジョンを出る。
ダンジョンの入り口の脇には騎士が駐在している掘立小屋がある。その掘立小屋で魔石を預かってもらう。
そしてまた地下3階を目指してモンスターハウスのオーガが再度湧くまで周囲でサーチ&デストロイ。モンスターハウスを2回全滅させると大体リュックサックがいっぱいになる。
4時間おきに魔石を預けにいく俺とスミレさん。唖然とする詰所の騎士。
朝の6時から夜の10時まで1日に4回魔石を掘立小屋に預けに来る事になる。最後の夜の10時には冒険者ギルドの職員が魔石を掘立小屋まで取りに来てくれるように頼んである。
そして俺とスミレさんは眠りに帰る。
これだけの事を続けても体力も魔力も充分足りていた。
最後の日は冒険者ギルドで保管してもらっていた4日分の魔石の納品を行った。
何体倒したのか分からん。金もどうでも良い。
ただ自分のギルドカードをみるとレベルが52になっていた。
レベルは高くなると上がりにくくなる。一般的にレベルが10を超えるとかけ出し卒業、20を超えると中堅、30を超えると一流、40を超えると超一流、50を超えると伝説と言われているみたいだ。
遂に伝説レベルまで上がったのか。
身体能力も魔力も以前とは桁違いに感じる。全体的に身体を動かす速さが上がったし反射神経も良くなった。魔力は尽きる感覚が全くない。
果たしてスミレさんのレベルはいくつなんだろ? まぁ聞かないけど。
そういえば俺のギルドランクも気がつけばCランクになっていた。
これ以上は偉業ですか。それか今から15年か。
帰り際にスミレさんから呼び止められる。
「来週からはダンジョンに一緒に行けないから寂しくなるな。明日は【無の日】で休みだ。せっかくだから2人でこの間の店でご飯を食べないか?」
俺は当然のように首を縦に振っていた。
「じゃ、午後の2時に待ち合わせして軽く街をぶらつこう。その後食事だな。宿舎まで迎えに行くから」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
特別任務30日目。
今日は間違いなくスミレさんとデートだよな。
久しぶりに朝に魔力循環と魔力ソナーの併用の練習をした。併用していても魔力ソナーの有効距離は1kmを超えていた。
最近は無意識のうちに魔力循環をしている。身体の硬化作用もあるから安全になるよね。
午後の1時40分、自室で魔力ソナーを広げている。
…………キタ!!
俺は何食わぬ顔で宿舎の外に出る。少し待つと薄い水色のワンピースのスミレさんが歩いてきた。
今日の私服もグッドです。いつもはポニーテールにしている髪型を今日は下ろしている。銀髪が太陽の光りを浴びて輝いている。
本当に俺の嫁にならないかな。今日はチャンスのような気がする。
「今日も外で待っていてくれたのか? 気を使わなくて良いのに」
「私服のスミレさんも素敵ですね。とても似合ってますよ」
顔が赤くなるスミレさん。あまり褒め言葉に慣れていないのかな?
「じょ、冗談はそれくらいにして行くぞ!」
スミレさんが先に歩き出してしまった。慌てて追いかける俺。
「どこに行くんですか?」
「ジョージ君は今度伯爵になるんだろ。式典用の服が必要になるだろ。どうせ忘れていると思ってな。うちのノースコート侯爵家が贔屓にしている洋服屋があるんだ。そこで服を買おう」
式典用の服かぁ。確かに必要だな。全然頭に無かったわ。危ない、危ない。
持つべきものは気の利く嫁(予定)である。
スミレさんが連れて行ってくれた洋服屋は高級品を扱うところだった。店構えからしてオシャレだ。
オーガの魔石納品でお金は余っているから問題はない。
「いらっしゃいませ」
お店に入るなり年配のスラっとした紳士が応対してくれる。
こういう高級店に入るとどうしても緊張してしまう小市民な俺。スミレさんは堂々としている。
「こちらの男性が今度陞爵するため、式典用のスーツをお願いに来たんだ。何種類か似合いそうな色を持ってきてくれ」
「スミレお嬢様が男性を連れてくるとは。それも陞爵で式典用の服をご入用ですか。お若いのになかなか優秀な方のようですな」
「今度から私の上司になる人だ。気合いを入れて作ってくれ」
「了解致しました。腕に
店員の紳士は10種類くらいの布を持ってきてくれた。
「ジョージ君は髪色と瞳が黒だから何色でも似合うな。ただ今後もいろいろな式典に使えるように落ち着いた色のほうが使い回しができて無駄にならないか」
スミレさんは俺の肩から次から次と布を当てて楽しそうだ。スミレさんは紺色が俺に似合うと選んでくれる。差し色は明るめの青だ。
スーツの形は見本を着てスリムに見えるシルエットタイプを選択。出来上がりは2週間。
俺は支払いをしようとしたがスミレさんが既に払っていた。
「この4日間、ジョージ君は私のレベル上げのためにオーガ討伐を頑張ってくれた。そのお礼だよ」
なんて男前な発言。
こういう時は遠慮をしないほうが相手も喜んでくれる。ただし相当喜ぶ必要はあるが。
「スミレさん、ありがとうございます。陞爵の式典では緊張すると思いますが、このスーツを着ればスミレさんを思い出して安心できそうです。大切に着させていただきます」
「まだまだスーツに合うアクセサリーの小物も必要だぞ。この後にお店を回ろう」
洋服屋を出てアクセサリー店に向かう。
式典用のアクセサリーなど分からないから全てスミレさんに任せた。
俺はアクセサリー店に入って、あるアイディアが浮かんだ。
「今日でスミレさんと受けた特別任務が1ヶ月になります。2人で1か月間パーティを組んだ記念にお揃いのアクセサリーを買いませんか?」
「それは良いな。私もこの1ヶ月はたくさんの思い出ができたよ。記念品を買うのは嬉しいな」
2人で選んだ結果、お揃いのシルバーのブレスレットを購入する。
俺のブレスレットにはスミレさんの瞳の色である翠色の石を埋め込んだ。スミレさんのブレスレットにも俺の瞳の色の黒の色を入れてある。
ブレスレットの裏には「J&S」とイニシャルを刻印してもらった。
もうこれって恋人同士と言っても過言じゃないような……。
少し時間が早かったが以前行った飲食店に向かった。
今回も個室に案内される。
今日はダンジョン調査の打ち上げという事でシャンパンで乾杯をした。シャンパンの炭酸が乾いた喉に心地良い。
いつもと違って髪を下ろしているスミレさんが大人っぽく感じる。
食事をしながらダンジョン調査での他愛の無い思い出話をしていく。
「ジョージ君。そういえばダンジョンの階段で夜を過ごした時の会話を覚えているかい?」
「何かやりたい事がないのかって奴ですか?」
「そうだ。私はやりたい事と将来の夢を聞いたな。あの時のジョージ君と比べて今の君は才能を開花させた。やりたい事があれば大体の事ができるだろう。もう一度聞くが、今はやりたい事はないのか?」
「俺は出世欲が皆無ですからね。あ、でも先週の休みの日にソロで白亜のダンジョンに行って来たんです。ソロで寂しい思いがありましたが、気の合う仲間と冒険者をしてダンジョン探索なんてのも少し憧れましたね」
「ダンジョン探索か。それは楽しそうだな。ジョージ君がダンジョン探索をするのならば到達階数の更新をしそうだな」
「でも今は現実味がない話ですね。俺はエクス帝国に囲われるわけですから。魔導団と騎士団の能力の底上げは俺にしかできません。軍隊の戦力増強は国の安定に直結しますからね」
「愛する人と温かい家庭を作りたいという夢はどうなんだ?」
「どうとは?」
「愛する人が身分違いだって言っていたろ。今度ジョージは伯爵になるんだ。伯爵なら、上は公爵令嬢とだって結婚できるぞ。下は君さえ問題無ければ平民とだって結婚できる。まぁ皇帝陛下の娘の皇女はまだ身分違いだけどな」
「あれは例えばって言ったじゃないですか」
「その例えが君の事なんだろ? それくらいは恋愛に
アルコールも入って、いつもより気楽に話しやすい。
伯爵になれば侯爵令嬢のスミレさんとも身分違いではない。年齢はスミレさんが一つ上の21歳。
これは今が告白するチャンスなのか? 今が人生の岐路なのか? スミレさんとの今の関係を考えると全く脈が無いという感じではない。
でもアルコールの力を借りて告白するのは間違っていると思う。告白するなら正式に伯爵に陞爵されて
「まぁその辺はおいおいですね。それよりスミレさんのやりたい事と将来の夢はなんですか?」
「何か上手く誤魔化されたな。まぁ良い。私のやりたい事か。やりたい事は自分を磨く事だな。今より強くなりたいな。魔導団に転籍になったので体外魔法を訓練しようと思うんだ。少しでも遠距離攻撃ができれば戦闘に有利に働くからな。ただ身体能力向上と攻撃魔法をスムーズに切り替えができないと駄目だけどな」
体内魔法と体外魔法の切り替えか。俺は簡単にできたけど一般的には厳しいのかな? 魔力制御の訓練が効果的かも。
「もしかしたら魔力制御の訓練が切り替えには効果的かもしれませんね。俺の場合は魔力ソナーを使いまくっていました。それのおかげで魔力制御が得意になりました」
「魔力ソナーを使いまくっていた? 日常生活に必要か? でも魔力ソナーを伸ばす訓練は集中力がすり減るから辛いんだろ?」
う〜ん。俺の場合はスミレさんの魔力を感じるために魔力ソナーの有効範囲を伸ばしていった。俺は全く辛いと感じた事がなかったな。
正に俺の座右の銘である【欲望は成長の糧である】を忠実に行っただけである
「少しずつでも良いんで魔力ソナーの有効範囲を広げる訓練が良いですよ。あとはスミレさんの将来の夢はなんですか?」
「これはやりたい事と繋がるんだが、私は民を守りたいんだ。皆んな幸せに暮してほしい。その為にその民を守る力が欲しいんだよ」
そう言ったスミレさんの翠色の瞳はキラキラしていた。
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