第5話 魔法射撃場での試し撃ち

特別任務4日目

 魔道具の懐中時計をみると朝の7時を指している。特に魔物が寄ってくることはなかった。これで一応階段の安全性の調査は終了である。


 スミレさんとダンジョンを出ると快晴だった。鳥の鳴き声が聞こえる。スミレさんと朝帰りと言ってもダンジョンだしな。当然何もなかった……。

 そのまま2人で冒険者ギルドに向かう。魔石を納品して食堂で朝ご飯を食べることになった。


「今日はこのまま仕事は休みだ。また明日からダンジョン調査の開始だな。ジョージ君は明日から盾を持ってくるようにしてくれ」


 業務指示を告げるスミレさんは眠そうだ。俺もやはり徹夜は眠い。宿舎に帰って寝る事にしよう。


 ギルドカードを確認するとレベルが5になっていた。直接戦闘しなくてもレベルは上がるんだな。それに連れて身体能力も上がっているような気がする。ダンジョン調査では結構歩くのにあまり疲れが出ていない。


「レベルは上がっているかい?」


「レベル5になっていますね」


「そうだろうな。ダンジョン内では倒した魔物からエネルギーを吸収して身体能力と魔力が上がると考えられている。倒した魔物からそんなに離れていなければエネルギーの吸収はできるからな。今回は2人パーティだから吸収量も多いはずだ」


 そっか。まるで俺はスミレさんの寄生虫だな。


「せっかくだ。明日からはジョージ君の体内魔法の練習をしようか。体内魔法を使えるようになれば身体能力の著しい向上効果が望めるからな。ダンジョンでの安全性が増す」


 体内魔法か。帝国高等学校の魔導科ではほとんど習わなかったな。デスクワークにはいらないけどダンジョン調査では安全性が高まるか。必要は最良の成長か……。


 スミレさんとは冒険者ギルドの前で別れた。スミレさんは実家に住んでいる。おやすみなさいと言って俺は寄宿舎に寝に帰った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


特別任務5日目

 朝から東の新ダンジョンの外でスミレさんから体内魔法の指導を受ける。


「体内魔法と体外魔法の違いは、自分の魔力を内に使うか外に使うかの差だ。君の魔力ソナーは自分の魔力を外に広げて使う体外魔法だ。体内魔法はその魔力を自分の身体の中で循環させる事だ。朝と晩に1時間ほど瞑想しながら練習を重ねてみてくれ。普通は体内魔法と体外魔法の切り替えが上手くできないんだけどな。ただジョージ君の場合は魔力制御が格段に優れている。その切り替えもできるようになると思うんだ」


 なるほど。体内魔法と体外魔法の切り替えか。うん?


「スミレさん、体内魔法と体外魔法は同時に使う事はできないんですか?」


「どうだろうな。理論的には可能と言われているけど、現実的ではないと思う。そこまでの魔力制御は誰にもできないだろう。簡単にできるなら、騎士は身体能力向上をしながら魔法を撃てるようになるから。ジョージ君がトライしてみるかい?」


 スミレさんの問い掛けに俺はゴニョゴニョ言って誤魔化す。その後、瞑想のやり方を教わりダンジョン調査を開始した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ダンジョンの地下2階に降りる。ダンジョンの装いはレンガ作りの地下1階と変わらない。早速魔力ソナーを開始する。


「スミレさん。20m先の壁のくぼみに魔力反応が2つあります。隠れているみたいです」


「了解した。隠れているならゴブリンあたりか。奴ら少しは知能があるからな」


 スミレさんが身体能力向上を発揮して魔力反応がある場所に駆けていく。


「フギャ! ギャギャ!」


 人のものではない甲高い声が聞こえ静かになる。どうやら先程の声は断末魔だったようだ。

 近くに行くと身長が120㎝ほどの魔物の死骸が転がっている。額に小さな角があり、肌は緑色で痩せ気味だ。

 小鬼。

 いわゆるゴブリンである。武器は持っていなかった。


 開放されているダンジョンのゴブリンの場合には、死んだ冒険者の武器を持つ場合があるみたいだが、ここは無垢むくのダンジョン。そのため武器を持ってないのかな?


 ゴブリンの魔力反応は大きく分けて3種類だった。接近戦をしかける個体、ファイアボールを撃ってくる個体、統率している個体に分かれる。


 スミレさんが盾を持ってくるように言った理由がわかった。ファイアボールをたまに俺目掛けて撃ってくる。まぁゴブリンのファイアボールだから俺よりショボいけど。簡単に盾で防ぐ事ができた。スミレさんは余裕で避けているけどね。


 地下2階の調査も問題無く進んでいく。夕方になりキリの良いところでダンジョンを出た。明日は休みで週明けからまたダンジョン調査。冒険者ギルドの食堂で晩御飯を食べ、宿舎に帰る。


 早速、体内魔法の練習だ。

 椅子に座り自分の魔力に集中する。魔力ソナーの時は身体の外に魔力を広げるが、今回は身体の内側で魔力が循環するように意識する。

 30秒ほどで安定してきた。案外簡単だな。


 椅子から立ち上がると魔力の循環が乱れる。なるほど少しコツがいるのか。部屋の中を歩きながら魔力循環を開始する。5分ほどでできるようになった。

 これで身体能力向上しているのかな? 試しに外を走ってみるか。


 宿舎の隣りの修練場に出る。軽く走ってみる。少し魔力循環が崩れた。慣れるまで集中力が必要だな。


 うん。大丈夫だ。慣れた。

 もう一度走ってみると身体が軽い。通常の2〜3倍の速さにはなっているみたいだ。


 力と肉体の硬化はどうかな? 近くにあった岩を軽く殴ってみる。

 痛くない。

 今度はもう少し強く殴る。やっぱり痛くない。

 これなら思い切り殴れるかな。よし試しにやってみるか。

 ドキドキしながら岩を思い切り殴る。パキッと音がして岩がひび割れた。


 こりゃ凄い。騎士が強いわけだ。俺も剣術でも習った方が良いかな。必要性は感じないけど。どれ部屋に戻ってスミレさんに言われたとおり1時間の瞑想をやるか。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


特別任務6日目

 今日は魔導団は休みの日である。俺も特別任務は休みだ。朝から体内魔法の練習のため瞑想を始める。


 10分ほど経ってから暇になってくる。そうだな、どうせなら体外魔法との併用にチャレンジしてみようか。魔力を体内で循環させながら体外に魔力を広げようとする。


 うむ、こりゃ、なかなか、おぉ! ありゃりゃ……。


 体外に魔力を広げようと集中すると体内循環が疎かになってしまう。集中しなくても体内循環ができるようにならないとダメかな。そんな事できるのか。まぁ暇だから頑張ってみるか。まずは体内循環の精微なコントロールだな。


【ぐ〜!】


 お腹が鳴った。気が付いたら昼過ぎまで瞑想していた。集中すると止まらなくなるのが悪い癖だな。宿舎の食堂に昼ご飯を食べに行くか。

 体内循環を中断し、魔力ソナーを開始する。最近ダンジョン内で魔力ソナーを常時展開しているので癖になっている。


 2つ隣りの部屋から男性と女性の魔力をとらえた。

 男性の魔力は知っている。3年先輩のイケメンだ。女性のほうはわからない。街でひっかけてきたのか。2つの魔力が交り合っている。

 それにしても独身男性宿舎の部屋に女性を連れ込むなんてすげぇな。完全に規則違反じゃん。まぁ先輩が規則違反しようが俺には関係ないか。食堂にでも行こう。


 お昼ご飯を食べて修練場にある魔法射撃場に行く事にした。胸ポケットからギルドカードを出す。

 レベル6の表示。

 魔法射撃場で魔法の威力が上がっているのか確認しにきた。少しワクワクしている自分がいる。


 3ヶ月に1回行われる魔導記録会では最底辺の俺だ。次回からは少しは成績が上がるかな。

 魔法射撃場には誰もいなかった。魔法射撃場は30m先に的が設置されている。


 この的は魔道具になっており、指定の場所で魔法の詠唱を始めると作動し始める。そのまま的に魔法を当てると、詠唱速度、魔法精度、魔法威力が数値となって出てくる。

 数字で自分の実力が出てしまうため、言い訳が効かない無慈悲の魔道具である。


 指定の位置に着き、精神を落ち着かせた。丁寧に呪文の詠唱を始める。


【火の変化、千変万化たる身をつぶてにして穿うがて、ファイアボール!】


 俺の右手に直径20㎝ほどの火の球ができる。

 ファイアボールは一直線に的に撃ち出され、的の中心に当たった。

 今まで俺のファイアボールは直径5㎝ほどの火の球だった。それが20㎝になっていた。

 俺のファイアボールの記録が出た。


詠唱速度 C

魔法精度 S

魔法威力 3,652


 詠唱速度は平均だ。魔法精度はS判定になっている!? S判定なんてあるの! 初めてみた!

 いつもはA判定だった。ただ魔法威力の伸びが半端ない。今までは400〜500くらい。7倍以上の威力だ。


 ダンジョンでの身体能力と魔力が増加って恐ろしいな。取り敢えず自分の成長を感じて部屋に戻る。2つ隣りの部屋の先輩はまだ盛り上がっていた。俺は魔力ソナーを切り、魔力の体内循環を開始した。

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