弐拾弐 二歳の分身

 当然、偵察の合間も水人形の自然な運用に向けた研鑽は怠っていない。


 動作のシンクロ・分離、精巧さと自然さを突き詰め、それを安定させる。

 魔力消費による負荷もこなすため、複数体の水人形の同時操作も試みた。


 さすがに複数体を同時に自然に動かすには相当の集中力を要し影武者としての本分を徹底するには動作補助機構の記述部分で改善が必要に思えた。

 実際に水人形を動かす中でマニュアル操作すべき部分と自動化する余地を可視化して詰めることができた。 使えば使うほど洗練する余地に気付く。 実にやりがいがある。


 前世では忍具ツールの開発部門にはほとんど関わっていなかったが、彼らもこのような気持ちだったのだろうか。

 盛り過ぎでは? と思わず問い詰めたこともあるほど盛りに盛られたハイテクも、今ではその気持ちが分かる。

 ツール自体は無機質だと思っていたが、あれはあれで相当な熱量と愛情が籠っていたんだろうな。

 かくいう私も謹製の水人形には今や明確に愛着がある。 自分の容姿を象った水人形に愛着というと若干ナルシズムを感じるが、心血注ぎこんだ分身なのでまぁ相応だろう。




 偵察の中で得た情報には有用なものもあった。

 

 まず、私の魔力発現については私付のメイドを含むほんの数人の使用人を含め箝口令が敷かれており、意外にも屋敷内では広まっていなかった。

 恐らく五歳になったばかりでまだ魔力が発現していない次姉のスコールに気遣ってのことだろう。 確かに年下の私が姉より使えることでわだかまりが生じては色々とやりづらい。

 遅かれ早かれ気付かれはするだろうが、当面は敢えて明言しないというのであれば、今後の展望を考えれば一先ずの利害は一致する。

 水人形は一応ぼんやり魔力を巡らせた状態での運用も可能にしてあるが、家長が大事にしないスタンスならば一先ずはそれに乗っかり魔力を持たない素体として運用するとしよう。


 父とスコールの面子は立てるが、魔法技能を洗練したいので自重はしない。 落としどころとしてはそんなところか。




 マッピングと脱走の算段がまとまったところで、水人形は一先ずプロトタイプとしての体を成した。


 忍が忍として用いるために編み出した魔法様式なので、肖って【水遁】シリーズと名付けることにする。


 【水遁 水分身:零式】

 【水球アクル】をベースに作成した人体模型。

 基本的な構造は人体と同様。 不随意運動にも対応し、発声も可能。

 基本動作の一部を様式により自動化。

 目は【水眼】により視界共有機能搭載。 ズーム機能付き。

 耳は【露耳】により音声共有機能搭載。

 表皮部は二歳児の体温と柔らかさ、服の質感を再現。

 自分由来の魔力を適量内包させ、全身を緩く巡らせることも可能。

 選択式遮蔽結界で全身をコーティングし、自分由来の魔力を任意で透過させるようにすることも可能。

 

 

 他にも細々とした機能を盛り込んではみたが、当面は特に使い時もなさそうなのでさておき。



 まぁ一先ずは上出来でしょう。


 瓜二つの水人形を見据え、私はこの生を享けて以来最上のにんまり顔をキメた。

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