弐拾壱 二歳の偵察

 水人形を実際に歩かせる前に、未だ全貌を把握できていない屋敷・敷地の構造を偵察すべく、あちらこちらに【水眼】を飛ばした。


 忍の最新ツールの中には偵察から自爆まで多岐に渡る機能が盛り込まれた静音ドローンや、全身プロペラのステルス手裏剣ドローンなどもあった。

 任務においては「時代もここまで進歩したか」と感心しつつその利便性に肖っていたというのに、【水眼】はもはやそれらとは比較にならない別次元のものだった。


 まず、各個体を携帯する必要がない。

 必要な時に必要な分生成して飛ばし、不要になったら水蒸気として霧散させれば痕跡も残らない。


 忍のツールは電源事情も相当に突き詰められたものだったが、機械という構造上、不測の事態による機能不全のリスクは免れなかった。

 【水眼】は自身の魔力をベースとし、体外魔力を取り込んで随時補給しつつ省エネでの運用が可能であり、現状その動作を阻害するリスクは看破され撃ち落とされる他に思い浮かばない。


 しかし姿形も自由に変えられる上、遮蔽結界と魔力操作に拠る光の完全透過で二重の隠匿を実装し、看破のリスクもカバーできている。



 無論、魔法に触りたての私でこの出来なのだから、この世界の熟練の魔法師たちはこれくらいは難なくやってのけるだろう。

 ここまできたからにはさらに性能を突き詰め、いずれは完全無欠の偵察機を魔法で開発してやりたい。




 「よし、ひと段落」



 「お絵描きしたい」と紙とペンを強請り、自室に引き籠って小一時間。 一先ずは屋敷の構造を粗方描き上げた。

 「禁書庫」やセキュリティの厳しそうな一部の区画などがまださらえていないが、タイミングを見て追記していくことにしよう。


 大まかにどのエリアに何があり、誰がどこを通過し得るかの情報も簡単に書き留める。

 次第に普段屋敷で見かけるだけだった人間が何者で、普段どこで何をしているかまで見えてくる。



 分かった範囲で屋敷に常駐か、定期的に出入りする人間をリストアップする。

 とりあえずは一週間かけて粗方記録し頭に入れた。

 これに並行して屋敷外の敷地の散策も行った。


 

 ここまですると、自ずと穴場が見えてきた。




 ……訂正、この屋敷は穴場だらけだ。


 

 恐らくセキュリティを感知網の俯瞰的な監視に頼り切っている影響で、局所局所の死角が多い。 何らの隠蔽工作を用いずとも、視線と意識を掻い潜るだけでお手軽に脱走できそうですらあるほどには人的監視が緩い。


 まぁいざ異物が検出されたら、父を含め警備にあたる魔法師はその後で動いても間に合うくらいには魔法を有用に使いこなすのだろう。

 


 だが恐らく、屋敷の外……もっと言えば敷地外に出てしまえばもはややりたい放題だ。

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