弐拾 二歳の盗〇

 【水】属性の中級魔法に 【水鏡ミラ・アイユ】というものがある。水面を通して遠方を見る通信魔法だ。

 【水鏡ミラ・アイユ】の目は目印となる杯に盛られた水を使うのが一般的だが、【水球アクル】など魔法で生成した水を媒体とすることもできるらしい。


 【水鏡ミラ・アイユ】を定型魔法として用いる場合の簡易的な魔法陣も魔法書で記憶していたので試しに起動してみる。

 中級というだけあり【水球アクル】よりもいくらか消耗は大きいが、それでも高が知れている。 恐らく通信の質や距離によって消費魔力量も変動すると思われる。

 ちなみに、初回で繋いでみた各コップ間で魔力的なパスは繋がっていないようだ。

 魔力による接続を必要としないのであれば、物理も然ることながら、遮蔽結界のような魔力的な遮蔽をも透過して使用できる。 感知を避け、かつ隠匿も可能と私にとっては一石二鳥だ。


 今回は眼球を生成している【水球アクル】の網膜の部分を【水鏡ミラ・アイユ】の子機として使う。

 自然な眼球の動作は【水球アクル】に織り込み済み。眼球と同じ動作で視界を移動することができる。

 親機は別個【水球アクル】で生成したコンタクトレンズのようなものを装着し、テレビで言うワイプのような具合に子機の視界を再現した。

 取り急ぎ、網膜や眼軸への負荷も無く、視力に悪影響は無さそうである。


 『【水】の魔法総覧』に同様の魔法が無かったので、今回開発した魔法の呼称はそれぞれ以下とする。

 【水眼】……【水球アクル】で生成した【水鏡ミラ・アイユ】子機機能(網膜部分)付きの眼球

 【水膜鏡】……【水球アクル】で生成した【水鏡ミラ・アイユ】親機機能付きのコンタクトレンズ。目への刺激を抑えるため生理食塩水と同じ水質に変質。



 ついでに【水眼】の眼球前面部分の構造をいじってズーム機能も実装できた。

 これは【水膜鏡】にもそのまま転用し、思いがけず有効視野の拡充が実現した。



 余談だが、人体で最も紫外線を吸収しやすい部分がまさに目である。

 紫外線はドーパミンやビタミンDの体内生成など良い側面もあるが、皮膚病のリスクだけでなく疲労の原因物質でもある。 また、日常的な曝露の蓄積は早期の視力低下や慢性の視覚障害に関連するというデータもある。

 必要十分な日光浴ができる現状において、特に目においては敢えて紫外線を吸収するメリットはない。

 物のついでなので【水膜鏡】には強力なUVカット機能も盛り込んでおいた。

 


 いや魔法ちょっとハイテクすぎん?

 捗りすぎて際限がなくなってしまいそうだ。




 聴覚の方は構造が簡単な分スムーズに構築できた。


 対となる二つの【水球アクル】を生成し、それぞれ耳に装着する極小球体の親機と、水人形の鼓膜として機能する子機に分ける。

 【水鏡ミラ・アイユ】の遠隔通信機構の記述部分をそのまま転用し、子機で受けた微細な振動をそのまま親機と共有する記述を盛り込んだ。 親機は振動を骨伝導で本体に伝える。これで音漏れを気にせず聴覚共有が実現した。


 【露耳】……【水球アクル】で生成した【水鏡ミラ・アイユ】由来の遠隔通信機構付き振動共有装置。 親機は極小の水球、子機は鼓膜状の水球。





 ついでと言ってはなんだが、盗撮盗聴ツールが自前で生成から消失までやりたい放題になったので、遮蔽結界コーティングで隠匿した【水眼】と【露耳】を屋敷の至る所に飛ばして遊んでみた。


 

 あかん、愉しすぎる。



 とりあえず今日の収穫は、屋敷の使用人同士でよろしくヤっているカップルを数組見つけたことだ。

 明日見かけたら「ゆうべはお楽しみでしたね」とでも言ってやろうかしら。


 ……なんて、趣味悪いな。 愉しくてテンションが変だわ。 やめとこやめとこ。

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