拾漆 二歳の水球

 ブレール家は【水】魔法に長けている。

 ブレールと名を聞けば人々が真っ先に思い浮かべるほどに周知された事実である。


 代々【水】に適性のある血を取り込んできたブレール家は、原初八属性の一つである【水】を主とし、様々な副属性にまで適正を持つ者も多いと云われている。

 

 私はまだ魔力を発現したばかりで鑑定も潜り抜けたので適性に関する検査はなされていないが、前提として【水】の適性はあると考えて物事を進めた。


 

 【水】に適性のある一族に生まれたのは私にとって僥倖ぎょうこうだったと言える。


 原初八属性は【炎】【水】【氷】【雷】【土】【実】【光】【闇】で構成されている。

 それぞれの特性を読むに、敏捷特性のある【雷】と混沌特性のある【闇】はそれぞれ忍の性と一見相性が良さそうではあったが、【水】属性の自由度の高さが私にとっては魅力的だった。


 人体に馴染み深く、空気中も含めどこにでもある。それを自由自在に操り活かすことができればどれほどに心強いか。


 

 ダミーの作成で筆頭に浮かんだのは【水】か【土】による人形の作成である。

 造形という点で長けた二属性だが、【土】では素材を要し、かつ消失時に痕跡が残る。

 片や【水】はどこにでもあり、どうとでも消すことができる。一時の影武者要員としては都合がいい。


 


 まずは水を一個体として顕現する魔法【水球アクル】をベースとして考える。

 


 魔法は魔力の奔流と事象の改変に一定の指向性を持たせることで発動する。

 一般的には様々な条件を指定した魔法陣を組み、そこに魔力を注ぎ込むことで成立する。


 まず魔法陣を組むって何だ?


 書によれば記憶した魔法陣は都度任意にアレンジを加えて起動できるという。


 何が何やらさっぱりだが、とりあえず記憶していた【水球アクル】の魔法陣を思い浮かべ、魔力を練る。

 眼前に薄水色の発光する魔法陣が出現した。何が何やらさっぱりなままだが、ひとまずは思考がトリガーで起動はする、と。

 出現した魔法陣に魔力を流すと、サッカーボール大の水球が現れた。感動して気を抜いた刹那、水球はその場で落下し、床が水浸しになった。

 ……これは課題だな。



 【水球アクル】のような単調な魔法は魔法書に起動魔法陣が記載されたいわゆる「定型魔法」というものに分類される。


 「定型魔法」に何らかの特異なアレンジを加えて発動するものは「変則魔法」。

 いくつかの定型や変則を組み合わせたものを「様式魔法」。

 定型の域を外れ容易に再現できないオリジナリティを突き詰めたものや、何らかの要因によって特定の個人や集団のみが扱える例外を「固有魔法」というらしい。


 魔法は広く研究されているがそれでも解明されていないことが多く、実在したが紐解かれていない謎の魔法があったり、現在においても新しい魔法が開発されていたりと、市井に根付いているだけありホットな題材のようだ。

 直近では例えば遮断結界の多層圧縮などは魔法として様式化すれば楽になりそうではある。


 定型魔法【水球アクル】は【水】属性の初歩中の初歩。空気中から水分を集め、或いは魔力を水分に変換し、水の球を形作る魔法だ。

 定型の魔法陣では水の球を形作り、形状の維持と浮遊に関する記述までが含まれている。

 先の経験から、顕現した後の制御も魔法の使用において肝要なのが分かる。

 

 他、形作る水球のサイズや形などの形状面、温度や水質などの性質面、動作や動線などの作用面をいじることで活用の幅を広げることになる。




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