拾伍 二歳の仙人
一点、辛うじて近しい記述としてあったのが「仙人」というものである。
曰く、魔力を極めし者は自身の魔力と自然を漂う魔力とを一体化させ、あまねく事象を想うがままに操る。魔力とは基礎であり究極であり深淵。「仙人」とは極致にある魔法師を指す称号である。と。
同様の性質を持つ獣は魔物とは区別して「神獣」と呼ばれるという。そちらも気にはなるがさておき。
私は自身の魔力を自然を漂う魔力と溶かし一体化させているが、外の魔力まで好きに使い事象を思うがまま操るような芸当は当然できない。
そもそも駆け出しである私が極致のケースとは同義に語れまい。 一旦は別物として考えよう。
さて。
隠匿してしまえば潜り抜けられるようなセキュリティ、元忍として云わせてもらえば目の粗いザルである。
前世ではあらゆるセンサーを潜り抜けるべく、それすら探知すべく、最先端の技術による熾烈なイタチごっこが繰り広げられていた。
そんな最先端とは程遠い、生身の技量とほんの微かなトリックで掻い潜れるようなセキュリティではあってないようなものだろう。
貴族家――引いては侵入者を弾くセキュリティが必要な場面はいくらでも考え付くが、隠匿という「発想がない」というだけでそれをやらない理由に十分だろうか?
その答えも書庫にあった。
「魔法犯罪学図鑑」—―過去起きた魔法が絡む犯罪の事例集のようなものだ。
読んでみて腑に落ちた。
前世の常識から考えるとあり得なさすぎる発想と手法による犯罪シチュエーションの羅列。まぁ有り体に言ってしまえばド・ファンタジーである。
結局のところ、根本的な原因は魔法への依存にあるように思えた。
紛れるにしろ見つけるにしろ、魔法という便利なシステムがあるからそれに頼りきりになってしまい、より原始的な技巧による隠匿など考えつきもしないのだろう。
現状から見て、私が撒くのは余裕である。
ザルのように思えたが、私以外に対しては必要十分そうである。
つまり私は忍の性と隠匿の技巧を活かして割とやりたい放題やれそうなのだ。
であれば、旨味を堪能しきるまで、敢えてその改善を促す必要はないか。今は。
ともあれ、魔法の練習をするにしてもまずこのセキュリティを掻い潜る手段を考える必要がある。
魔力操作だけなら隠匿が活きるが、魔法として使用し事象に干渉した際の余波がどうなるかは読めない。
また、書によれば構造上魔法の発動を隠すことはできないらしいので、魔法そのものを個別で隠匿するのは難しそうだ。
いっそ私室丸々隠匿する術でもあれば……
機構を紐解く上で疑問に思ったのが、この感知システムは感知できないことを異常と判断するのか否かだ。
あれこれ思案し、思い浮かんだのはレンジでゆで卵器だ。
電子レンジで卵を加熱すると爆発するのは常識だが、アルミ層でマイクロ波を遮断することで卵を直接加熱せず、爆発を防ぐ構造となっている。
同じような理屈で、この私室を一室丸ごと空気中の生の魔力で形作る層で遮断し、感知の及ばない空間を作るとどうだろうか。
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