拾壱 二歳のアドバンテージ

 翌日からは読書のテーマが専ら魔法分野に偏ることになった。


 超常現象はすぐ手の届くところにある。

 そう感じてしまうともはや逸る気持ちが収まらなくなっていた。



 まずは先より試している基礎魔力運用について。

 これは体外と体内の大きく二系統に分かれているようだ。


 体外における魔力運用は、自分以外(第三者、或いは有機物、無機物など)に対し魔力を以って干渉すること。

 体系化された魔法と比べ原始的であり、作用は小さいが柔軟性はあるとされている。


 体内における魔力運用は、おおまかに言えば人間の潜在能力の底上げである。

 筋力や瞬発力、持久力などの運動能力向上、視覚や聴覚、思考力などの機能向上、ケガや病気に対する治癒力の向上など。

 以前流し読みした医学書には記述がなかったが、治癒力向上の項を読むに、自然治癒力だけでなくも向上している様子が見られる。


 字面だけ読むととんだチートである体内における魔力運用。

 実際に使ってみるとやはり、前世でのニュートラルな身体の運用とはレベルが違う。


 一方、それでも魔力運用だけでできることには限りがあるらしい。

 具体的には、素体(各個人の肉体)の限度を超えることはできないということ。

 要は、各個人の持つ筋肉量と運用する魔力の質や効率により、出せるパフォーマンスには個人差で限界がある。

 ゲーム風に言えば種族値的なものだろうか。素体で劣れば、センスで劣れば魔力運用をどれだけ頑張っても劣るということだ。


 まぁそれは致し方ない。体格により得手不得手があるのは生き物の性だ。

 であれば、可能な限り健康的に身体作りに励み、かつ魔力運用を限度に限りなく近いレベルで悠々こなせるように鍛錬をするのみ。


 幸いにも忍としての鍛錬の中で自身の体格と構造に最適化した動きは板についている。

 前世の最新の研究では運動神経は努力の比重が大きいとされている。一流のアスリートをも凌ぐと自負している身体運用のノウハウを持つ私は素体の育成において大きなアドバンテージを持っている。



 次いで、魔力運用や魔法にも関わる重要な要素である基礎魔力量。

 魔力は自然界に膨大に漂ってはいるが、その全てを一個人が任意に扱えるわけではなく、人を含め大多数の生物は基本的には自身に内在し生みだせる魔力量に依存することになる。

 こと魔力を扱うにあたっては魔力量が物を言うということだ。


 素体の方は遺伝に拠る差などは致し方ないとして、魔力量の方は努力のしがいがある。

 明確にそうと書かれているわけではないが、各書籍の記述を読むに、恐らく魔力は消耗・回復のサイクルをこなせばこなすほどに絶対量が増える。


 魔力の消耗は一定程度であれば休息で自然と回復するが、一線を超えれば最悪命に係わることもあるという。命は助かったとしても魔力を人並みに扱えなくなるような障害が残るケースもあるとされている。

 好ましいのは安全マージンをとった上で可能な限り消耗と回復を繰り返すこと。

 あぁ、父が連れてきた魔法師の言も今なら意味が分かる。二歳からそれができる私は魔力量の育成において同世代よりアドバンテージがあるということか。

 そして父が芳しくない顔をしたのは、その過程で万が一がある可能性を危惧したのかな?


 忍としてこなしてきた過酷な修練の中で、普通に超えられる一般人的な限界、ギリ超えても何とかなる限界、超えたら後戻りが出来ない本当の限界の感覚は何となく体感で分かる。

 ゲームのように数値で分かれば手っ取り早いが、今の私にそれを知覚する術はないので、肌感覚でこなしていくしかない。


 忍は死線に敏感である。まぁ問題ないだろう。

 そうして二歳児の人知れぬスパルタトレーニングが幕を開けた。

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