伍 二歳の魔力
魔法という超常現象を操るためには、まずその原動力である魔力を知覚しなければならない。
辞書で得た知識によれば、魔力自体はありふれたものであり、ありふれたものとして多くの人々が知覚している。
そのあり方から見るに、そこにあって当たり前、概念としては空気のようなものなのだろう。
前世的な化学が適用できる
当然ながら、私たちは空気がそこにあることを「呼吸ができる」以外で知覚するすべはない。物質によっては色味から視認することもできるが、空気として漂う大半を視認する術はない。
では視覚以外で知覚する?……否、魔力に関する書によれば、その明瞭さは適性を含め個人差があれど、魔力は視ることができるとされている。
今の私にはそれが見えていない。
書を読み進めるうち、気になる記述を見つける。
曰く、自身の内より魔力を発生し、知覚し始めるのは通常五歳頃からだという。
何故五歳? 五歳で何がある? 性徴のように身体の中で何かしらの変化が起きる?
人体に関する書物を読んでみたが、身体の構造は前世で見た人体構造そのもの。 魔力を生みだす、貯蔵する、循環させるような特殊な臓器は一見存在しない。
解剖学の本を真顔で読み込む私を見てさすがのマイラもギョッとしていたが、あまりにすらすらと読み進めるから描いてあるものが何か分かっていないとでも思ったのか、特に触れられはしなかった。
一方で魔力に関する書物によると、人体には魔力回廊なる特殊な経路が張り巡らされていたり、臓器とは異なる
物質的ではない、もしくは前世的な人間の感覚では知覚できない次元の何らかと思われるが、それが今世ではありふれたものだという。
え~~……五歳まで待てないな。
こんなに魅力的な技能を前にしてあと三年待てるほど気は長くない。
しかし困った。現状手段らしい手段が思い浮かばない。
下手に前世的な価値観を引き継いだがために、魔力の知覚に支障をきたすかもしれない。とは言え、自然にそれらが覚醒するのを待つには最低三年程度としても余りにも長く感じる。
参ったな……
忍とは基本、現実主義な部隊である。運や神頼みなどあてにせず、あくまで実力で現実的に任務を遂行する。
かと言って、科学的に証明されていないあらゆる事象を否定もしない。
例えば、忍は手法としては用いないが、呪術や占術なるものの実在を疑ってはいない。そうとしか説明できない事象を見てきたからだ。
しかしそれは結果として見ただけで、どんな作用が働いてその結果が生じたか、少なくとも私は解明できていない。幽霊もオーラも見えないし意識を飛ばすような真似もできない。
使えない。故にあてにできない。
そんな夢のような技能が使えるとしたら?この逸る気持ちを押し込めようなど無理な話だ。
さて、そんな現実主義の私だが、任務に際しては欠かさずやっていたルーチンがある。
果たして足掛かりになるか分からないが、まぁやるだけタダなのでやってみよう。
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