肆 二歳と今世の理

 言語の質は違うが、日本語ベースの言語観はこの世界の意志疎通においても問題なく使えるようだ。

 文法はまだいい。漢字やカタカナなどがない分覚える文字数は少ないが、その分覚えなければいけない単語数が多くなる。

 難儀に拍車をかけそうなのが、この世界(以下、便宜上「今世」)には前の世界(以下、便宜上「前世」)にはなかったことわりがいくつかありそうな件だ。



 一つ、「魔力」

 前世でも超能力やら霊能力やら、現代科学では解明しようのない特殊な力が働いているとしか考えられない事象は存在した。

 が、それらはあくまでイレギュラー的な存在であった。


 一方、今世では「魔力」というものが普遍的なエネルギーの一つとして広く人間社会に馴染んでいるらしい。

 自然界を漂うものの他、質や量にばらつきこそあるものの人間が内より生み出すもの、何らかの外的要因によって補給或いは付与されるものなど、形は様々である。

 それらの用途は生活において欠かせないインフラの他、まさしく前世で「超常現象」と呼ばれていたような事象の原動力としても扱われる。



一つ、「魔法」。

 「魔力」の運用方法の最たるものであり、今世が前世と決定的に違う要素の一つだ。

 魔力を用いた事象の改変や干渉をパッケージ化し、目的あたりのコスパを最適化したものと一先ず解釈している。

 大雑把に捉えるなら丁度ファンタジーに出てくる魔法のようなものらしい。

 如何せん馴染みがないのでもっと深掘りする必要がある。



一つ、「魔物」。

 いわく、一般的な獣とは明確に区別されている種の生物。

 ありとあらゆる生物は魔力を内包しているが、中でも習性として魔力を用いる生物を魔物と称するらしい。

 要はSF的なモンスター要素のある獣ということだろう。 詳細は図鑑で補完する。






 正直、滅茶苦茶面白そうである。



 魔法という技能について記された書物もマイラの差配によって鋭意読み込み中だ。


 魔法には原初属性と呼ばれる全八つの主属性とそこから派生する多数の副属性があり、それぞれの属性について人により適正があったりなかったりするという。

 多くの一般市民は各属性に関し特別な適性を持たず生まれるが、適性がなければそれぞれの属性魔法を扱えないというわけではなく、学べばある程度までは普通に使えるという。

 魔法の適正は血により遺伝すると考えられており、適性のある血は貴族家に取り込まれるので、必然的に貴族家ではいずれかの属性に適性を持つ子供が生まれやすいと云われている。

 優れたる能力を以って市民を導く、魔法能力の高さは貴族家の特権であり責務でもあるとのことだ。


 適性を持つ者とそうでない者では、当該属性の魔法について地力に大きな差があるとされている。つまり、生まれの時点で持つ者と持たざる者がいることになる。


 一見不公平に見える話だが、肝心なのはそこではない。


 前提として、あらゆる魔法の門は全ての人々に平等に開かれている。

 修めれば使えるしそれを高められる。

 適性の有無による得手不得手はあれど、結局はそれが当人にとってが肝である。 技能スキルとはそういうものだ。


 私にしてみれば、これまで使えなかった、使えればどれほど捗っただろうと垂涎すいぜん留まらぬ魅力的な技能を誰しも学び身に着けられるという境遇は僥倖ぎょうこう以外の何物でもない。

 この世界は恐らく魔法がある分、科学的な発展度合いは前世より遅れている。 故に、現代の最新技術が盛りに盛られた忍の便利ツールが使えないという不便こそあるが、魔法が使えればそれを補って有り余る恩恵に容易に肖れそうなのだ。

 何せ書物を読む限り、魔法とは自然現象に自由意思で干渉できる神がかり的な技能なのだから。





 さて、そんな魅力的な魔法を学ぶに際し、まず前提として前世では全く馴染みのなかった「魔力」というものを理解しなければならない。

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