くノ一、転生する

壱 くノ一令嬢 二歳

 令和の現代においてはファンタジーとして語られる「忍者」

 そのルーツは古く、その職務は幅広く、その実態の多くは謎に包まれている。


 戦国の世においても多岐に渡り活躍したと云われるそれは間諜の一種であり、人々の畏敬がそうさせたのか、しばしば盛られて語られる。



 現実の忍者は令和においても形を変えて存在する。

 もっとも、時代に合わせツールが変わっただけで、その本質は変わっていない。



 私は幼い頃に両親を失い、拾われた縁で秘匿された職であるしのびの一員として生きることになった。


 忍と一言にいっても一枚岩ではない。

 政府、省庁管轄の公忍、個人や特定の組織に仕える私忍、誰に仕えるでもなく気ままに生きる放忍、敵対組織に流れた抜け忍など、生き方は様々である。その中で忍各個人の質もピンからキリまである。


 中でも最も組織として強靭で、諸外国の諜報機関と秘密裏に渡り合うのが防衛省管轄の特務忍者、通称「ボウトク」と呼ばれている超実戦部隊だ。

 正規軍を持たない我が国において存在しないことになっている特殊部隊であるそこは私を拾い育てた師夫が所属していた部隊で、当然私もここで訓練し、実戦経験を積んだ。


 過酷な肉体改造を経て体術、武器術から工学、化学、工作、サバイバルまで満遍なくこなし、生き残り前線に出るほどの人員になると「人の皮を被ったバケモノ」として同僚にすら恐れられる。

 海外任務の際に或る外国人の特殊部隊の会話を盗み聞いた感じ「出会ったときは死ぬときだ。だから誰もその部隊が実在するか分からない」と与太話風に語られていた。

 そう言った彼がオフの時に実は何度か接触している。


 我々、そこまで見境なくはないよ。甘くもないんだけど。






 「りんごなぁい」


 「お嬢様、りんごはさきほどお食べになったので最後です」


 「やぁ!りんご!」



 そんな前世の記憶を思い出したのが、前の世界とはことわりの違う、魔法とやらが存在するよく分からない西洋風な世界のある貴族の三女として生まれた私が二歳になった時の話だ。

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