第12話 不変

 それから一週間後。私は学校に復帰した。明日こそと意気込んだあの日。どうやら気合を入れ過ぎてしまったらしく、熱は上がる一方であっという間に一週間という時間が流れていた。

 久々の登校。教室に入るとすぐ、心配した様子で楓と海音が話しかけに来てくれた。

「奈々未~。久しぶり。さみしかったよ」

「奈々未が学校を休むなんて珍しかったから、なんか変な感じだったわ」

「ごめん。ちょっと、熱が引かなくて。でも、もう大丈夫。めっちゃ元気!」

張り切って笑顔を見せると、二人は柔らかく笑って楽しそうに話している柳君と藤田君の方に歩いて行った。

 仲良さげに話している四人の方から視線を外して。ちらりと影山の方を見る。影山は今まで通り、無表情で小説と向かい合っている。戻ったら何かが変わってるんじゃないかと思ったりした日もあったから、何も変わってなくてすこぶる安心した。それに、私も変わってない。ちょっと違ったのは、海音たちと少しだけど話したこと。その後は今まで通りに、一人で授業までの時間をボーっと過ごした。

 そして、授業が始まった。一限の数学。この時、事件が発生した。まぁ、前から授業はテキトーに聞き流していたけど話にはついていけた。しかし、一週間も学校を休んでは、耳に入ってくる単語が何一つ理解できない。学生における一週間の休みと言うのはとてつもない枷になるということを実感した。

「はぁ……」

一時限目を終えた時点で私の頭はパンク寸前。項垂れるように机に突っ伏して短い休憩を取った後、スマホを見ようと引き出しに手を入れると、指先に紙のような柔らかな何かが触れた。気になって引き出しの中を覗き込んでみると、中には何冊かのノートが重ねられて入っていた。

「なにコレ……」

スマホを引き出しの中に残したまま、そのノートを取り出す。一番上にあったピンク色のノート。表紙を開くと、そこには現代文の内容がきれいに板書されていた。

「誰が書いてくれたんだろう」

この角ばった文字は海音や楓ではなさそう。かといって藤田君や柳君はノートを取っておいてくれるタイプじゃない。そんなことを考えながら一番下の科学のノートを開いてパラパラ捲っていると、一番最後のページに大きな文字で


 になるな


そうはっきり書かれていた。こんなことを書いてくるのはあいつしかいない。そう思って影山の方に視線を向けるけど、この時間も変わらず小説の世界にのめり込んでいる。

 ため息が零れる。

 また正反対のこと書いて……。うっすら浮かぶ苛立ちを掻き消すようにして、彼が私の為にノートをとっておいてくれた、その喜びの気持ちが湧き上がってくる。そんなフワフワした気持ちを振りほどくように首をふるふると振って頭をリセットする。そうすると、一つの疑問がふわりと浮かび上がってきた。

「どうして私の為に?」

ふと零すと、その疑問は明確な形を成して心に再び入り込んで来た。今すぐ聞きに行こうと思ったけど、読書の邪魔をするのは影山の機嫌を損ねると思って、私は放課後まで前まで通りに一人の時間を過ごした。

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