第10話 矛盾
放課後。誰もいない静かな教室でぼんやり窓の外を見ていると、忘れ物でもしたのか影山がいつものようにゆったりとした足取りで教室に戻ってきた。
「忘れ物?」
「まぁ、そう」
影山はそう言うと、自分の席を通り過ぎて私の席の前にピタリと立ち止まった。
「え、なに?」
訝しんで聞くと、影山はいつも通りの静かな落ち着いたトーンで
「ひとりぼっちになるな」
そう言った。お腹の底を響かせるような声。スッと心に入ってきたものの、その言葉を気持ちは受け入れなかった。
「なに言ってんの? こないだはさ――」
聞き返そうとした時、そこに影山の姿はなくて。彼は音もなく廊下を歩いて行った。
「マジでなんなの……。一人で何も出来ない奴はとか、一人になるなとか」
影山のことが本当に分からない。
入学早々は『ひとりでなんも出来ない奴の言うこと、聞く気ないから』なんて冷たい一言を言い放ったくせに、今日はそれと正反対の『ひとりぼっちになるな』って。「意味わかんない」
机に項垂れる。こういう時、前までならこんな私を見た海音や楓が話を聞きに来てくれたし、仲のいい友達に相談することも、憂さ晴らしにみんなでカラオケなんてことも出来た。けれど、今の私にはそんな頼れる元はいない。私を気に掛けてくれる友人もいない。第一、私が影山なんていう人間を好きだと知れたら私だけの問題じゃなくなってしまう。誰かに話したい。けれど、誰にも話せない。この相対するモヤモヤした気持ちをひとりで抱えて、それからの日々をまた静かに過ごした。
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