第9話 孤独

 それから私は、彼に好かれるために出来るだけで行動した。楓や海音、柳君や藤田君との関係を完全に断って、自分の意志で周りから孤立し、移動教室や登下校、休日や休み時間も、最低限の人としか関わらないような日々を過ごしている。

「藤田。ノート貸して」

「またかよ。授業、ちゃんと受けろよな」

「サンキュ」

昼休みに入って、教室の前の方で柳君と藤田君が楽しそうに話している。

「楓~。またダメだったぁ」

「ドンマイ」

「なにがダメだったのかな……」

「まぁ、後で話聞くから。放課後、いつものカフェ行こう」

「うん……」

海音は楓に恋愛相談をしているように見える。こないだ、隣のクラスの高橋君に告白をしてるとこを見たけど、そのことなのかな?

 自分でひとりぼっちを望んでその望みをしっかり叶えた癖に、教室の端の方でみんなの会話を聞いていると、どうしても寂しくなってくる。私もみんなと話したい。放課後にカフェにも行きたいし、映画もみたい。勉強苦手だからノートも借りなきゃだし、一緒に勉強とかもしたい……。


 ひとりぼっちってこんなに苦しいんだ。


 影山の方を見て強くそう思う。誰にも相談できないし、何かを共有するという特別な楽しみもない。放課後も、休日も、親の顔くらいしか見ることがなくてとにかく暇。暇だからSNSを見ると、そこはみんなの楽しそうな笑顔で溢れかえっている。今の自分が惨めに思えてきて、すぐにアプリを閉じてスマホを投げる。

 そんな退屈で味気ない日々を、影山はずっとしてきたんだ。そう思うと、尊敬に近い気持ちが奥底から沸き上がってきた。

「はぁ……」

ため息を吐いたとき、教室の前の扉が開いて数学科の池田先生が入ってきた。

「じゃあ、授業始めるぞ」

一気に淋しい気持ちを、さらに鬱々としたものに置き換えてくるその言葉を聞いて、そこからつまらない数字や文字式が飛び交う時間が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る