第15話 森の異変

 治療士の仕事をしながらもスライムハンドで討伐と採取を行っていた。 

 キャシーさんには奥の手があるのでと仄めかして話して置いたから問題ないだろう。

 ちゃんと街から出ないで稼いでいるので、他の人には知られることはない。

 

 武具のメンテナンスにアンディさんのところにも顔を出すが、出すたびに驚いていた気がする。

 武具なので使っていると消耗もするし歪みなども出て来るのだが、元が木や骨なら回復魔法で治せないかなと試してみたら何となくだが治った気がした。

 それを聞いたアンディさんが骨やトレントの素材を持って来て回復魔法を試させたのには疲れてしまった。

 仕事終わりだったから良かったが、流石の私も魔力切れになるかと思った。

 それで分かったことは素材にも少なからず効果あるとのこと。

 ただ弱い魔物の素材だと気持ち程度の効果しかなかった。

 強い魔物や貴重な素材などのほうが効果は高くなるようだ。

 その結果にアンディさんは喜んでいたが、私は2度と付き合いたくはない。

 

 訓練場のほうは型稽古が殆どであるが、偶にジョージさんがやって来て相手をしてくれている。

 帰って来るたびに強くなっているような気がするが、何処に仕事に行っているのやら。

 そんなに私に負けたのが悔しかったのだろうか。

 本気の組み手をするなら確実に私が負けるのだが、最初のときはジョージさんも手加減していたし私も小手の性能を知らなかっただけなのだが。

 まぁ、ちゃんと仕事してくれるようになったので良かったのかなと思う。


 最近魔の森のゴブリンの数が増えてるとギルドに報告が上がっている。

 ギルドは国とは別の独立組織として活動しているが、ゴブリンなどの常設依頼何かは国やそこの街からお金が出ていたりして完全に独立した組織とは言いづらい。

 依頼主がいてお金を払う人が居るから、依頼を受けられるのであってギルドが基本お金を払っている訳ではない。

 なので常設依頼何かはギルドの持ち出しだったりするのだが、それだけだとギルドが潰れてしまうので街や国が補助金を出したりしている。

 国や街の兵士を使うより冒険者を雇ったほうが安くつくからだ。


 それなのにバカ男爵は街の近くのゴブリン退治の金を出し渋っているらしく、ギルドでも困っているとか。

 この街に協力して欲しいと連絡があったそうだが、この街のギルドは断ったそうだ。

 この街から冒険者を派遣して討伐しても良いのだが、そのお金はこの街から支払われることになる。

 ギルドとしては許容できる範囲を超えているとし、要請を断ったとしている。

 なのでその余波が魔の森のゴブリンが増える原因になっているのだが、被害が出るのは街の住民なのだが大丈夫なのだろうか?

 ギルドとしては商人や冒険者に注意喚起するくらいしか出来ないそうだ。

 その街の問題はその街で解決するしか無いのだから。

 最悪はバカの街からギルドは撤退するしかないらしい。

 依頼が無ければ冒険者はその街から離れるだけなのだから、噂を聞いた商人や富裕層なんかは冒険者と一緒に街を離れている人までいるそうだから。

 街を離れられない貧困層や私のような孤児はどうしようもないのが辛いところだが、私にはどうにも出来ないのが歯痒く思う。

 私に出来ることと言えば、此方に流れて来るゴブリンを討伐することぐらいだが焼け石に水だろうけど…。


 稼ぎどきだと思ってゴブリンは狩っておこう。

 そのうちバカが金を払えば落ち着いて来ると思うが、暫くはこの状況が続くと思う。

 ゴブリンが増えたことによって夕方の診療所も最近は忙しくなって来た。

 私にとっては稼げるので有難いのだが、街にとっては有り難くはないことだろう。


 この街は何故か自給自足が出来ている街だ。

 畑や水田など街には無いのだが、野菜や小麦、米も市場や商店で取り扱っている。

 仕入れているところを見たことは無いが、安定して購入することが出来る。

 それを目当てに来ている商人が居るくらいだし。

 肉は魔の森から冒険者が狩ってくるので、食で困ることは無い街だ。

 なのでゴブリンが魔の森から溢れても、この街は街に立て籠もりゴブリンをやり過ごす。

 そもそも街の結界をゴブリン程度なら壊せないので、結界内からゴブリンを殲滅する安全なお仕事に早変わりするらしい。


 ギルドでは今回はそこまでは行かないと見ているようだが、今後のバカの動向次第では分からないようだ。

 鬼畜王は、帝国が攻めて来そうなので早々にゴブリンのことは解決して欲しいのでバカに討伐を命令するとギルドでは見ている。

 ギルドは、そうなったときにバガが慌ててギルドに命令して来たら料金をふっかけて請求するつもりのようだ。


 この街は鬼畜王の直轄領になっている。

 管理はバカの管轄だが、バカはこの街には入れないようだ。

 何でも結界に阻まれるらしい。

 その代わりに代官が居るのだが、ご先祖様の初代男爵に任命されたエルフがこの街の代官を務めているようだ。

 それから代官は代替わりをしていないみたい。

 エルフはヤッパリ長生きさんですね。

 鬼畜王はお金が入れば問題ないと思っているようだが、バカは自分の利益にする為に代わりの代官を送って来たようだが、街に入れずに帰って行くようだ。

 街にも入れないのに代官は無理だよね。

 なのでこの街はほぼ独立した街になっている。

 名目上は鬼畜王のものだけど。


 初代男爵様は優秀な方だったみたいだけど、長い間に腐敗していったようだ。


 鬼畜の直轄領なのにこの街には国の兵士は居ない。

 兵士が来ても街には入れないようだけどね。

 なのでこの街の防衛は冒険者に頼っている。

 代官の私兵のエルフや獣人の兵士はいるが、国に雇われている訳ではないらしい。

 その兵士も門兵や街の見回りなどが主な仕事で、魔物の討伐は主に冒険者が担っている。

 それを分かっているこの街の代官は、ギルドに金払いが良いので冒険者も安心して仕事を受けられる。

 

 この街は妖精の街だが、冒険者の街でもある。

 魔の森が近いので、元から景気は良かったがゴブリンのお陰で冒険者も賑わっている。

 このような事態は数年おきによくあるそうだ。

 ゴブリン討伐で金が無くなったバカはギルドに金を出し渋り、ゴブリンが溢れたら討伐するを繰り返しているようなのだ。

 初めからゴブリン討伐にお金を出していれば、そのほうが安くつく筈なのにバカはヤッパリバカなのだ。


 街の外が危険になって来ると商人の護衛依頼が値上がりして来る。

 新人や駆け出しでは対処しきれなくなって来るからだ。

 こういう時に護衛が出来れば冒険者として一人前と認められるようになる。

 それが出来ない冒険者は何をしているかというと、街の近くでゴブリン狩りをしている。

 ゴブリンが街の近くまで来ているときに、複数の魔物との戦闘に慣れる為だ。

 街の結界にまで辿り着ければ安全なので、良い訓練場になっているようだ。

 訓練場のハンスさんもこういうときは街の外で指導している。


 この世界にレベルを確認する術はない。

 だが、レベルのようなものはあると思われている。

 此方の住人はそれを格と読んでいる。

 格が上がると、明らかに身体能力が上がるからである。

 格が上がると身体能力の他に身体も丈夫になり、怪我も病気にもなりにくくなる。


 なのでこのゴブリンが多い時期に、格を上げようと新人は頑張るのだ。

 この街の代官はギルドに護衛の依頼を出して子供や格の低い街の住人の格上げをしたりなんかするようだ。

 なのでこの街の住人は比較的レベルは高い。

 そのお陰なのか、怪我人はいるが病人は余り見たことがない気がする。


 私も自分の格を上げる為に、スライムハンドを魔の森まで飛ばしている。

 森の浅瀬にはゴブリンがウジャウジャいるからね。

 

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