第13話 謎の素材

 アンディさんが言うには、どんな素材だろうと加工はしてみせるようだ。

 ただ、扱ったことはないようだが。

 それに小手を作るのに聖樹の木材だけだと強度に不安があるようだ。


 「待たせたな、これが何だか分かるか?」


 見せられたのは白い塊だ。

 私は魔力視を使って塊を見ると莫大な魔力を内包しているようだった。

 

 「少し触っても良いですか?」


 「かまわねぇよ、ちょっとやそっとで傷つきもしねぇから。」

 

 私は白い塊を持ち上げる、意外と軽いことにビックリだが私は塊に魔力を流す。

 聖樹並に魔力の通りが良くてビックリした。

 聖樹以外にもこのような素材があることに驚きだが、はて?これは何の素材だ?

 白い塊なのだが特長が無いのでこれだと断定するものが無いのだが、この魔力量と硬さからもしかしてと思う物は思い浮かぶがまさかとは思う。


 「魔物の素材で色から骨だとは思います。

 断定は出来ませんが、内包する魔力量と硬さから思うにドラゴンの骨ですか?」


 「多分正解だ。

 多分ってのは、オレが見つけたのも露店で安売りしているのを見つけただけだから何とも言えんが、オレはドラゴンの骨だと思っている。

 この魔力量と硬さは他の魔物には無いものだ。

 ドラゴンじゃ無くても余程の大物だとは思うぞ。

 その素材で良ければ、それと聖樹で小手を作ってやっても良いぞ。」


 「これでお願いします。

 いえ、これじゃ無いと嫌です。

 私の小手をこれで作って下さい。」


 「確かに引き受けたぜぇ。

 こんな怪しい素材だと普通の客には出さねぇけどな、オマエさんが納得してくれるなら問題ねぇよなぁ。

 オレも腕が鳴るぜぇ。」


 「出来れば良いですが、これも仕上げて貰ったり出来ますか?」


 私は聖樹で作った魔剣擬きを出してアンディさんに見せた。


 「ほう、自分で作ったのか?

 聖樹の素材なんかでよく作れたな。

 作りは甘いがソコソコの出来だな。

 オマエさんの魔力が良く馴染んで大事にしてるのが分かる一品だ。」


 「私も大工さんの捨て場にあったのを拾ったんですよね。

 エリーさんに見せて聖樹の端材だって教えて貰うまで知らなかったんですよ。

 知っていたらもっと違うもの作ったかも知れないですけどね。」


 「いや、知らずにそれが出来たならそれが本当の姿ってもんだぜ。

 小手の序でに仕上げてやるよ。

 3日で仕上げるがそれまで待てるのか?」


 「普段はギルドの診療所に居ますから問題無いですね。

 小手が出来るまでは型稽古か大人しくランニングでもしてるので大丈夫です。

 3日後の夕方にまた来ますね。」


 「おぅ、楽しみに待ってろ。

 完璧に仕上げておいてやるからよぉ。」


 私はお店を後にしてギルドまで戻って来た。

 明日も診療所の仕事はあるけど、訓練はランニングかハンスさんに型の確認でも頼もうかな。

 小手が出来るまでは、本格的な稽古はお休みしましょう。


 診療所の合間の時間は主に体力作りをメインにして、マルスさんが空いてるときに体術の型を確認して貰っていた。

 ロリコンがウロウロしていたが無視をしておく、小手が出来るまでは型の確認しかしないからね。

 魔物と戦うときはスライムハンドを全開で使うから防御も攻撃も任せるつもり。

 私自身は指輪で攻撃と自衛が出来れば問題ないと思っている。

 体術は人前での戦闘だけだから、防御中心で私は回復魔法士として仕事をすれば良いかなと。


  

 そして3日目の仕事が終わり私はアンディさんのお店に向かった。


 「今晩はアンディさん居ますか。」


 「おぅ、ちょっと待ってろ直ぐに行く。」


 アンディさんが2つの包みを抱えて此方にやって来た。


 「出来上がってるぜぇ、オレが仕上げた中でも中々なものが出来た。

 小手もそうだが、聖樹なんて扱うことが出来ねぇからな。

 確認してくれ。」


 私は1番小さな包みから開けてゆく、出て来たのはナイフだ。

 今までのナイフは魔力を通すことによって刃物になっていたのだが、アンディさんが仕上げたナイフはそのままでも切れそうなくらいに仕上がっていた。


 「これって聖樹の木ですよね?

 何か鉄のように硬くなってませんか?」


 「何だ、知らなかったのか?

 聖樹の木に魔力を注ぐと鉄のように硬くなるんだ。

 それをオレたちは魔木鉄と呼んでいるが、それは一般だとエルダートレントなどの素材が変化することを言うがな。

 これは聖樹からなったもんだから、魔木銀と言っても過言じゃ無いくらいに成長してたぜぇ。」


 「もしかして端材も変化してますか?」

 

 「端材も変化してたが、ナイフ程では無かったな。

 それでもそこらの鉄なんかよりはよっぽど硬いぜぇ。」


 魔剣擬きを改めて確認する。

 木目が綺麗な燻銀のような輝きがあるナイフが出来てた。

 持ってみると木特有の軽さとしなやかさがあるのだが、叩くと金属のような音がする不思議な素材。

 ナイフは木目が綺麗に出ていて指輪よりも銀色に近い輝きをしている。


 「ありがとうございます。

 これだけでもアンディさんの店に来た甲斐がありました。」


 「だがそれはついでだろぉ、本命はコレだからなぁ。

 コイツを見てもらわなきゃ何も始まらねぇよぉ。」


 次の包みを開けて中を見る。

 中には真っ白な縁取りをしたシンプルな燻銀の小手が出て来たが、普通の小手と違って手首の前まで覆うような作りになっている私専用の小手になっていた。

 左手が無い私にとっては有難い作りになっている。


 「ちょっと左腕に当てて魔力を流して見てくれるかぁ。

 合わせてみて問題ないようならベルトを付けるからよぉ。」


 私は左腕に小手を当てて魔力を流してみる。

 驚くほどにピッタリで吸い付くような感覚があるみたい……?

 と言うか吸い付いている。

 私はその状態で左腕をブンブンと振り回すが小手が取れる感じがしない。

 だが外そうと意識するとちゃんと取れるのだが、意識しないと取れないようになっている。

 

 「この装備呪われてませんか?」


 私は疑問に思ってアンディさんに聞いてみた。

 外せるから呪われてはいないと思いたいが、そんな装備をする趣味はない。


 「ほうぉ、装備に気に入られるとはなぁ。

 魔物素材の武具には稀に意志が宿ると言われている。

 オマエさんはその小手に気に入られたんだなぁ。

 ベルト付けなくて良くなったなぁ、オマエさんが外そうとしなければ外れないなら良かったじゃぁねぇか。」


 何でこの装備に気に入られたかは分からないけど、私にとって不都合はない。

 なら問題は無い、ってことで良いのかな?


 「こんな素敵な装備ありがとうございます。

 大切にしますね、それで料金はいくらぐらいになりますか?」


 「そうだな2つで合わせて金貨2枚で良いぜぇ。」


 「何でそんなに安いんですか? 

 ナイフの仕上げだけでももっとすると思うんですけど?」


 「ナイフは本当に仕上げただけだ、大した手間でもなかったよ。

 小手に関しちゃぁ出所不明な素材だからなそんなに金は取れねぇよ。

 どちらかと言えば、持ち込みで貴重な素材に触れたオレが金を払いてぇくれだぜぇ。」


 「それならお言葉に甘えてさせて貰いますね。

 それじゃ金貨2枚です。」


 「嬢ちゃんには悪いが、月に一度はメンテナンスに来てくれねぇか?

 必要ないかもしれんが、オレがその装備の経過を見てぇんだ。」


 「そんなことならお安い御用ですよ。

 成人するまでは街から出られませんからね。

 定期的にお店に来ますね。

 将来的には身体の防具もお願いしますから。

 此方こそ宜しくお願いしますね。」


 ギルドに戻り早速訓練場に行く私。

 この時間は冒険者も少ないから広々と使える。

 ハンスさんも仕事は終わっている時間なのでもう居ない。

 私は小手を付けて(と言うか外していない)型稽古を始める。

 型に沿って構えると左腕の小手から何かしらの意思を感じる。

 我を活かせ、そこはそうでないと指導して貰っている感じだ。

 とても不思議な感覚だが、嫌ではない。

 一心不乱に稽古に励んでいたら首根っこを掴まれ宙ぶらりんの仔猫のような状況になった。

 そのまま上を向くと笑顔の食堂のおばちゃんが和やかな笑顔で見つめてくる。

 

 「アンタ、どんだけ身体動かすんだい?

 やっと多少は見れる身体になったってのに、コレじゃ直ぐにガリガリに戻っちまうよ。

 アンタは暫くは食堂に来な、また私のスペシャルメニューを食べさせてやるからね。

 嬉しいだろ、私の愛情たっぷりなご飯が食べれるんだからね。」

 

 私は無言で頷いておいた。

 笑顔が怖いと思ったのは初めてだったかもしれない。

 

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