第11話 可能性

 「痛いですが少し我慢をして下さいね。

 千切れたところを確認します。

 千切れた指は持って来てますか?

 それもあったら確認しますね。」


 切断されたところを確認するが、潰れて千切れたようで黒ずんでいた。

 現代医学なら元には戻らない傷口なのだが、この世界は魔法があるのだ。

 細胞が残っているなら何とかならないか試してみたい。

 黒ずんでいる切断面に軽く魔法を掛ける。

 死んだ細胞が元に戻ろうとする再生力を高めるのだ。

 黒ずんでいたところが徐々に赤みを帯びて行く。

 神経も回復するので痛みが増すが我慢をして貰う。


 千切れたほうの指にも回復魔法を掛けて再生を施してみる。

 黒ずみが消えたのを確認して千切れた切断面を合わせてみる。

 多少無くなっている部分もあるようだが、何とかなりそうだ。 

 

 私は、そのまま指に回復魔法を掛けてゆく。

 細胞の再生が進んでゆっくりだがくっ付いて行く。

 このまま魔法を掛けて行けば指はくっ付きそうだ。

 暫く魔法を掛け続け指が付いたのを確認する。

 

 「もう大丈夫だと思いますが、指は正常に動きますか?

 手を握ったり開いたりを繰り返して見て下さい。」


 「おぉ、痛く無くなった。

 しかもちゃんと動くぞ、指はもう諦めていたがくっ付くなんて信じられない。

 ありがとう、お嬢ちゃん。

 感謝するよ。」


 「元の指があったから出来たんですが、少し無理やり付けて居ますから2、3日は安静にして下さいね。

 出来れば、4日目の朝にまた診療時に来て下さい。」


 「助かったぜ。

 暫くは仕事は休んで養生させてもらうか。

 4日目の朝に来るから、宜しく頼むぜ。」


 「はい、お大事に。」


 何とか患者を捌いて残りは肩の治療をしている人だけになったのだが、まだ治療中のようだ。


 「済まないがまだ魔力に余裕はあるか?

 私はもう残り少なくなって来たから出来れば治療を変わって貰えないか?」


 「私は大丈夫ですよ。 

 ちょっと失礼しますね。」


 私は治療を変わって、回復魔法を掛けるのと同時に診察もする。

 何でこんなに治療に時間が掛かっていたのか調べるが、肩の傷以外は大丈夫そうだった。

 治療に慣れていなかったのだろうか?

 よく分からないが、この人の治療を早く終わらせよう。


 治療が終わったらさっき居た人は帰ってしまったようだ。

 魔力が切れたら治療は出来ないので仕方が無いのだろうが、余りにも無責任なような気がした。

 そんな事を考えていたらキャシーさんがやって来て説明してくれた。


 「ゴメンなさいね、さっき居た人帰ってしまったからセンちゃん代わりにこの後残ってくれる?

 まだ、若い冒険者なんだけど回復の腕は良いと評判だったからお願いしていたけど、魔力切れになるとは思わなかったのよ。

 いつもはちゃんとやっていたんだけど、緊急事態には対応出来なかったみたいね。

 その点センちゃんは魔力切れも無いし、対応も完璧だったわね。」


 「魔力量は自分では分からないですけど、魔力切れになったことは無いですね。

 それにあの人の対応は危なかったですね、一見肩を怪我した人が危なそうでしたけど、お腹を押さえていた人が1番ヤバかったですね。

 あのまま治療していたら死んでたかも知れませんね。

 でも死人も出ませんでしたし、切断された指をくっ付けられたのは私としても良い経験になりましたね。」


 「本当にセンちゃんって規格外よね。

 普通あんだけの怪我人の治療したら魔力切れになってもおかしく無いのに、まだまだ余裕があるようね。

 しかもサラッと死んでもおかしくなおような怪我を治すし、千切れた指をくっ付けるなんて聞いたこと無いわよ。」


 「お腹の人は外傷は無かったんですけど、内蔵のほうが怪我をしていたので表面上では分かりにくいですからね。

 指のほうは出来そうだとは思っていたんですが、確認することが出来なかったんですよね。

 流石に自分の指でやることは出来ないので成功して良かったですよ。

 それに指をくっ付けられたのも、回復魔法だったからだと思いますよ?

 光属性は見たことが無いので分かりませんが、水属性とは治療の仕方が違いますからね。」


 「属性によって治療の仕方が違う?と言うの?

 傷を治すのにそんなに違いがあるのかしら?」


 「結果は同じに見えますが、そこまでの工程が違いますね。

 水属性の回復は補充って言ったら良いのかな?

 腰痛や膝の痛みを治すのには向いていると思いますが、傷口を治すのは時間がかかると思います。

 私の回復魔法は再生だと思っています。

 元が残っていれば、再生力を増幅して治すことが出来るので傷口なんかの治療には向いてますね。

 なので、欠損とかは基本治せないですが切れた残りがあるならくっ付けることは出来ました。」


 「そんな事を考えて魔法を使っていたのね?

 どうりで患者を治すスピードが速いと思ってたのよね。

 いつもなら午前中は患者にかかりきりで、午後に少し余裕があれば良いほうなのにセンちゃんは1時間くらいで患者を捌いてしまうから不思議だったのよね。」


 「属性魔法にも良いところがあると思うですが、その特性を理解して魔法を使うことが大事だと思うですよね。 

 私は回復魔法しか使えませんから、色々考えて試して見ますが。

 属性魔法の方は攻撃がメインだと回復は疎かになっているのかも知れませんね?」


 「ありがとう、センちゃん。

 参考にさせて貰うわ、今後ギルドでも治療士を育てることになるかも知れないからね。

 夕方の忙しくなる時間まではゆっくりしててね。」

 

 「はい、ありがとうございます。

 時間があるようなら訓練場にいると思いますので、何かあったら呼んで下さい。」


 キャシーさんと別れて私は訓練場にやって来た。

 身体を動かさないとご飯が食べれないからね。

 身体動かしてもキツイけど。

 1時間くらいは走ってられそうだから頑張りますか。

 

 それからその日の夕方の治療を終え、いつものご飯を食べて少し余裕があったのて少し走ってから休むことにした。

 多少は食べれるようになったのかな?



 そんな生活をしていたら、いつの間にか1ヶ月が経っていた。

 おばちゃんの昼と夜のご飯は卒業出来たが、朝は相変わらず大盛りだ。

 今では30分ぐらいで食べれるようにはなった。

 身体つきもガリガリは卒業して、程よく引き締まった身体になっていると思うが、おばちゃんには子供はもっと太りなとよく言われる。


 訓練場では最近やっとハンスさんに体術を習っている。

 私の左手が無いのを気にしていた。

 そのままの状態では左腕が飾りになってしまうからと言われ、盾を装備しないかと勧められた。

 盾は私のスタイルに合わないなと思っていたら、せめて小手ぐらいは装備しろと言われてしまった。

 この世界では盾を装備している人は余りいない。

 フロートボードが魔法障壁になるので、それで十分対応出来るからだ。

 盾を装備している人は基本武器として使っているから装備しているので、私のように防御に盾を使う人は少ないのだ。

 小手ぐらいなら邪魔にはならないから良いけど、フロートボードで腕を覆うのもしっくりこない。

 そんなことをするくらいなら、スライムハンドを常時出しておいたほうがいい気がする。

 ただ、小手を作るにしても聖樹の木片を加工してくれる人はいるかな?

 魔の森には木の魔物のトレントが居る筈だから、その素材を加工している人がいないか聞いてみようと思う。


 闘技場では最近ジョージさんとよく会う。

 最初の頃は私のランニングを見ているだけだったのが、体術を習い始めてからは私の相手をしてくれている。

 キャシーさん曰く、心配で見に来ているだけだから気にするなと言われた。

 仕方がないので、合法的に幼女に触れるよと体術の訓練に誘ったら怒られてしまった。

 オレにそんな趣味はないと……、言っていたが実際に訓練に付き合ってくれているので何とも言えない。

 

 ディランさんにも訓練場で会えたので直接お礼が言えた。

 ディランさんは回復寄りの水属性魔法使いなので、パーティーでは回復士として参加しているそうだが、魔力に余裕のある時は訓練場で攻撃魔法の練習をしているそうだ。

 水属性は物理的な攻撃力が弱めなので、攻撃が余り得意では無い。

 それをどうにかしたいそうなので、私も一緒に考えて居る。

 少しでもお返しが出来たら良いなと思っている。

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