第8話 診療所

 今日の担当の冒険者はディランさんといい、水属性魔法が得意のようだ。

 大体診療所に居る冒険者は水属性魔法が得意の人が多い。 

 たまに光属性魔法が得意な人がいて、回復魔法が得意な人は居ない。

 この街にはエルフが住んでいるので、エルフの中にはいるようだが、人族の中には居ないようだ。


 「初めまして、センと言います。

 今日は宜しくお願いします。」


 「初めまして、ディランといいます。

 水属性魔法使いだから、参考にならないかも知れないけど宜しくね。

 だけどこんな小ちゃな子が来るとは思わなかったよ。」

 

 「ディランさん今日は宜しくお願いしますね。

 私が査定しますから、最初はセンちゃんに治療させて下さい。

 万が一治療が不十分なときはディランさんが治療のほうをお願いします。」


 「了解だよ。

 もしものときは任せておいて、そんな重症者は来ないと思うけどね。」


 挨拶を交わしているうちに時間になり診療所を開く、既に何人かが並んで待っていた。

 ギルドの診療所は住民はタダで、街に通っている商人や冒険者からはお金を取っている。

 この街はお金は持っている人から取れと言うのが一般らしい。

 魔の森で稼げる冒険者とその素材欲しさにやって来る商人は基本お金を持ってるからね。

 新人の冒険者なんかは治療にお金が掛かると生活出来なくなるが、怪我をしないよう指導しているそうだ。

 怪我をしたら治療費は取るが、その後のフォローはしているみたい。

 多少ひもじい思いはするが授業料だと思って払わせる感じだ。

 

 最初に入って来たのはお婆ちゃんだ。

 お婆ちゃんは娘さんらしき人に付き添われられて入って来た。


 私はお婆ちゃんを支えながら。


 「今日はどうしました?

 痛いところは何処ですか?」


 「腰をやっちまってね、歳だから仕方が無いけどね。

 多少でも良くして貰おうと思ってね。」


 「じゃ、そこに横になって貰いましょうか。

 少し触りますね。」


 私はお婆ちゃんの腰に手を当てて回復魔力を流していく。

 腰に魔力の澱みがあるが、膝にも澱みがあるようだ。

 私は腰を中心に魔力を流し、序でに膝の治療も行った。

 一度全身に魔力を流し澱みが無くなったの確認してお婆ちゃんに話しかける。


 「どうかなお婆ちゃん?

 楽にはなったと思うけど違和感とか無いかな?」


 「もう終わったのかい?

 よっこいしょと、全然痛く無いね。

 なんか膝の調子も良くなった気がするよ。」


 「膝のほうも調子が悪そうだったから治療しといたからね。」


 お婆ちゃんがお礼を言って診療所を後にする。

 次の人は大工さんで、手を怪我して仕事にならないからなんとかしてくれってことで来たようだ。

 私は傷を見て清掃の魔法を使い傷口を綺麗にして回復魔法をかけた。

 傷口がみるみるうちに塞がって行く。


 「まだ痛みはありますか?」


 「おっ、もう終わったのか。

 大丈夫そうだな、ありがとうよ嬢ちゃん。」


 2人目も何とか終わったかな。

 それからも何人かが入って来たが、殆どの人は切り傷や打撲などの怪我なので直ぐに治療出来る範囲だったので良かった。


 「キャシーさん、この子俺より凄くないですか?

 魔力消費も少ないみたいだし、この子が居れば今日の仕事終わると思いますよ。」


 「本当ね、ここまで出来るとは思わなかったわ。

 だってこの子まだ6歳になったばっかりなのよ。

 普通の子は魔法は使えても、使いこなせない子が殆どだからね。

 将来が有望な子が入って来てくれて良かったわ。

 ディランさんは今日はどうする?

 このまま依頼を受けに行っても良いわよ。

 今日の日当はちゃんと払うから。」


 「そうですね、ここに居てもやる事なさそうですし依頼でも受けて来ようかな。

 日当はその子に払って下さい、僕は補助のお金で良いですよ。

 今日の日当を貰えば少しはまともな服も買えるでしょ。」


 「ごめんね、ディランさん。

 この埋め合わせは今度するから、良い依頼があったら今度紹介するわね。」


 「ありがとうございます、キャシーさん。

 そのときは宜しくお願いしますね。」


 ディランさんが出て行ったのを気づかないまま私は治療を続けていた。

 診療所開始から1時間くらいしたら患者さんが居なくなっていた。

 私は受付に行きキャシーさんを探す。

 受付の奥で仕事をしているキャシーさんを見つけて声を掛ける。


 「キャシーさん、取り敢えず朝来ていた方は終わったのですが試験はどうなりました?」


 「ゴメンね、センちゃん一生懸命だったから声掛けなかったけど、勿論合格よ。

 問題ないようだからシフトに入れるけどセンちゃん都合の悪い日とかあるのかな?」


 「今のところ毎日でも大丈夫ですけど、他の人がシフトに入っているのならそちら優先で構いませんよ。」


 「了解ね、センちゃん中心にシフト組み直すから後で確認してね。

 診療所は日曜日はお休みだからセンちゃんもお休みね。

 明日は違う人がシフトに入っているけど、補助要員で入っても大丈夫だけど、どうする?」


 「明日仕事が無いなら休みにして貰っても良いですか?

 ちょっとお買い物したいので明日は遠慮しときます。

 それとギルドには資料室とかありますか?

 患者さんが居ない間に資料室か訓練場に行きたいのですが大丈夫ですかね。」


 「あぁ、そうねセンちゃんも女の子なんだからお洋服はもう少し気を使ったほうが良いかな?

 資料室はギルドの2階にあるから自由に使って貰って良いけど、何処か行くときは受付に居場所だけはハッキリさせといてね。」


 「分かりました。

 これから資料室に行きますので、何かあったら呼んで下さい。」


 私はキャシーさんに断りを入れ、資料室に向かった。

 資料室には、魔の森で取れる薬草の種類やどの様な魔物がいるのかなど、色々な資料があった。

 中にはスキルの資料何かもあり、どのスキルがどの仕事に役立つのかも書いてある本もあった。

 私は大まかに書いてある地図と採取の為の資料を見ながら自分のマップに情報を書き込んでいく。

 メニューのマップは行ったことがある場所しか写らないのだが、私の思考と連動してマップに注意事項を書き込むことが出来た。

 前は何処どこで果物が取れたとか、書き込んでいて季節になるとそこにスライムハンドを飛ばし採取していた。

 今回は事前知識もないまま、闇雲に探しても効率が悪いと思い資料室にやって来たのだ。

 思いのほか充実している資料にホクホク顔だが、資料室には私の他に誰も居ない。

 皆んながベテランと言うわけでもないのに、誰も居ないとは…。

 凄い冒険者しか居ないのか、バカしか居ないのか分からないが、私が稼げるのなら問題ない。

 ひと通り資料を見終わったので受付に戻るが患者は来ていなかった。

 今日は患者が少ない日なのかも知れない。

 受付が暇なうちにゴブリンの魔石でも売っておこうかな、明日の買い物の為に少しでも軍資金を調達しておかないとね。

 

 「キャシーさん、ゴブリンの魔石の買取お願いしたいのですが大丈夫ですか?」


 「大丈夫ですよ。

 ゴブリンは常設依頼になってますからいつでも買取ります。

 センちゃんはゴブリンを倒せるの?

 普通は危ないから余りお勧めしないんだけどね。」


 「(バカ)男爵の街の近くの森にもゴブリンは良く出て居て、エリーさんに内緒で買って貰っていたので助かってたんですよね。

 孤児院ではお金を稼げなかったので。」


 「エリーさんあの街でそんな事もしていたのね。

 ゴブリンの魔石は1つ銅貨5枚で買取るわよ。」


 この世界のお金は硬貨しかなく、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨の種類がある。

 物価が違うので比較は出来ないが、銅貨が100円くらいだと思えば良い筈だ。

 宿代が1泊大銅貨3枚で夕食付きらしいので、ゴブリン6匹倒すとその日は暮らせるようだ。

 ゴブリンは基本3匹から6匹ぐらいで行動しているので、そんなに難しい数では無いが複数を相手にできなければ辛い相手だ。

 

 私は20個の魔石を取り出し売りに出す。

 

 「全部、大銅貨で下さい。」


 「了解ね。

 大銅貨10枚、これならセンちゃんは普通の依頼も受けられそうね。

 治療士の依頼がないときは仕方がないから、良さそうな依頼を用意して上げたいけれど。」


 「ありがとうございます。

 そのときはお願いしますね。

 私はこれから訓練場に居ますので、患者が来たら教えて下さい。」


 「分かったわ、訓練も良いけど魔力は切らさないようにね。」


 「はーい、了解ですよ。」


 

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