第4話 6歳での旅立ち
私は藁にも縋る思いで返事をした。
「必ず抜け出して来ます。
今までのお礼も出来て居ないのに厚かましいですが、是非連れて行って下さい。」
「夜中の3時までにこの店に来な、4時には門が開く。
朝一で街を出れば誰にも気付かれずに街を出れるだろう。
それまでにやれる準備をしてきな、大体の荷物は此方で用意しておくから必要なものを纏めておきなよ。」
「分かりました。
今夜の3時ですね、宜しくお願いします。」
私は急いで街の中を駆けずり回った。
貯めたお金で外套だけは買いストレージにしまう。
たまに買っていた屋台にも行き少し多めに仕入れる。
パン屋にも走り、いつものパンを買う。
水は魔法でどうにかなる。
ストレージを確認していく、干し肉も欲しいがそれを買うと怪しまれそうなので辞めておいた。
私は時間の許す限り森にスライムハンドを飛ばしゴブリン狩りと、果物の採取に精を出した。
これだけ食材が有れば10日は待つだろう。
魔石は途中の街に泊まったときにお金が必要になると困るのでストックしておく。
それから何食わぬ顔で孤児院に戻り仕事は決まらなかったと報告をする。
孤児院も院長も期待はしていなかったのでそうだろうなと言うような顔をしていた。
その後の院長は執務室に戻り私の売り先を探しているようだったが、私にはもう関係ないことだ。
職員の人も仕事を見つけて来ないなら飯を抜きだと、私には冷たかった。
逆に私には都合が良かったので黙って自分の部屋に戻る。
私は今夜この孤児院と街を出る。
向こうの街がどうかは分からないが、この孤児院より酷いところはそうそう無いだろう。
お婆ちゃんもエルフで無ければ信用はしていなかったかも。
エルフはこの街では住みづらい筈だから、エルフは魔法が得意な種族なのだがその見た目が麗しく貴族には奴隷として高値で売れるからだ。
奴隷として捉えようとして返り討ちにあう貴族が殆どだが、中には子供のエルフを攫って来る貴族も居たようだがそのどれもがこの世から居なくなっているようだ。
それなのにこの街に居た理由は知らないが、この街の人族よりは信用できるだろう。
私は部屋に戻り脱出の算段を練る、この部屋も孤児が雑魚寝しているので私はいつもの隅に蹲る。
布団で姿が見えないようにして周りの確認はスライムハンドに任せている。
食事が終わり何人かが部屋に戻って寝支度を始める。
孤児の朝は早く皆んな疲れた顔をしているので、寝るのは早いのだ。
年長者も体力に自信があっても、毎日早くに起きて仕事をしているので寝るとなかなか起きない。
私は皆んなが寝静まるのを待っている。
院長はまだ執務室に居るが、お酒を飲んでいるようでそのまま寝そうな感じだ。
職員も既に部屋に戻り寝ているようだ。
後は時間を見て抜け出すだけ、早過ぎてもダメだし、遅くてもダメだが私のメニューには時間表記もある。
この世界にも時間はあるのだが、それを確認する道具が広まって居ない。
教会の鐘の音で過ごすのが庶民の常識になっている。
1の鐘が6時になってそれから3時間おきに鐘が鳴る。
なので待ち合わせなどは2の鐘の後とかに何処どこに集合など、大雑把な感じだ。
ただ最後に鳴る鐘の音は夕方の6時で終わりなので鐘の音は頼りにならないが、メニューで時間が確認出来るので今回は助かった。
最初は要らない機能は付けるなよと思って居たのだが、大事な機能だったようだ。
私は時間を見て動き出す。
移動はフロートボードに乗って動けば私にもスピードは出せる。
ガリガリで体力も無いが、それはこれから食べて身体を作って行けば良いだけの話だ。
[再生]のスキルもあるので、身体は直ぐに作れると思う。
疲れたらフロートボードで移動すれば魔力を使うが体力は休める筈だから。
部屋の隅に布団を纏め人がいるように細工をする。
少しでも見つかるのが遅れるようにと。
フロートボードに乗って静かに部屋を出る。
誰にも気付かれないように、静かに迅速に孤児院の窓から飛び出した。
そのまま屋根の上を飛び、お婆さんの雑貨屋に向かう。
いつもは正面から入るが、今は裏口に回る。
人目を気にしながらノックするとお婆さんが出て来てくれた。
「時間通りだね、流石だよ。
少しこの部屋で休みな、4時前には裏の馬車に乗り門に向かうからね。
あんたは私の孫として門を通るつもりだからそのつもりで頼むよ。
隣町で息子と落ち合う予定だと話すから話を合わしておくれ。
ただその格好じゃちょっと目立つね…。」
「それは大丈夫です。
少し待って貰えますか。」
私は自分に清掃の魔法を掛ける。
自分でも小綺麗になっと思うが、そのまま私は長い髪を纏めて結いあげ、昼間に買ったフード付きの外套を被る。
白髪が隠れて子供らしくはなったと思うがお婆さんに確認をしてみる。
「これでどうですか?
多分大丈夫だと思うのですが。」
「ちょっと痩せすぎだが、外套が有れば問題ないだろ。
それで宜しく頼むよ。」
お婆さんからのお墨付きも貰えたので、暫く休憩する。
お婆さんと少し雑談をして時間を潰すと。
そろそろ行くよとお婆さんに声を掛けられ馬車に乗り込んだ。
馬車に揺られて門の前まで行くと、行商人やら護衛の冒険者などが数人並んでいた。
門が開き順番に出て行く行商人達、直ぐに私達の番になるのだが門番に止められた。
「婆ちゃんと子供で何処に行くんだ?
街を出るにしても不用心にも程があるぞ。」
「隣町で息子と落ち合う予定ですよ。
朝一の行商人に着いて行けば魔物に襲われることも無いですしね。」
「そりゃそうだがよ、そんな小さい子供を連れて大丈夫かい?
まぁ、問題ないようだから門は通すけど気をつけなよ婆ちゃん。」
「ありがとうございます。
それでは行商人に追いつきたいので急ぎますね。」
「おぅ、引き留めて悪かったな。
通って良いぞ。」
無事に街から出れた私達はほっと胸を撫で下ろした。
「まぁ、上手く行ったわね。
貴女も寛いて良いわよ。
暫くはこのまま着いて行くけど、隣町まで行くつもりは無いからそのつもりでいてね。」
口調が変わり若々しい声になるお婆さん。
少しビックリしていると、
「私がエルフだって分かってたでしょ?
姿が変えられるなら声も変えられるわよ。
いつも腰を曲げているから腰が痛くなっちゃうわ。」
腰が伸びてシャンとするお婆さんを見ると違和感があるが、それが本当の姿勢なのだろう。
姿までは変わってないのは周りに人の目がまだあるからだ。
暫くゆっくり進み周りに人の目が無くなった頃に馬車が街道を外れゆっくり停まった。
「此処からは魔法で帰るけど、貴女何か移動手段はある?
無ければ私の魔法で送って上げるけど、どうする?」
「魔法で帰るのは飛んで行くってことですか?
着いて行けるか分かりませんが、移動手段は有ります。」
「その歳で魔法を使いこなしているのね、優秀だわ。
ちょっと試してくれる?」
私はフロートボードに乗って移動してみた。
お婆さんは感心したように私の魔法を見ていたようだ。
「それは生活魔法のフロートボードよね?
面白い使い方するわね、それなら着いて来られそうね。」
お婆さんの姿が、ボフンと音がしそうな煙に包まれて姿を現したのは綺麗なエルフだった。
「この姿では初めましてかな、私はエリーよ。
これから宜しくね。」
「初めましてエリーさん。
私には名前が有りませんから好きに呼んで下さい。」
そう、私には名前が無い。
本当の両親につけて貰った名前はあるが、その名前は伝わってはいない。
孤児院では、お前と名前を呼ばれたことはない。
ギルドに登録した名前はあるが、その名前を名乗るつもりもサラサラない。
「そうなの?
それなら街に着くまで自分で名前を考えなさいな。
向こうの街にもギルドはあるから其方で新しく登録し直したらいいわ。」
「はい、ありがとうございます。
それまでには考えておきます。」
エリーさんは馬車を魔法で収納して、馬も魔法でゴーレムを作り出しそれに幻影の魔法を重ねて居たようだ。
ゴーレム馬が土に帰ってゆく。
収納の魔法も人族では使える人はいないようだが、エルフは当たり前に使えるようだ。
収納系のスキルは持っている人もいるようだが、数は少ないみたい。
貴重なスキルなので今までの街では使用を見られないようにしていたが、今度の街では悪人は基本的にいないから大丈夫だと言われたが私には意味が分からなかった。
人が集まって悪人が居ない訳が無いのだから。
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