第3話 武器の入手
私は森に収穫に行くスライムハンドにスライムの討伐もさせている。
スライムは魔物最弱なのだが、倒すのは面倒な魔物だ。
身体は酸で出来ているので剣などで攻撃すると剣を痛めてしまうし、物理攻撃には耐性もある。
普通は魔法で焼き殺すとかなのだが、魔力も有限なので冒険者はスライムを見ても退治はしない。
森の清掃屋としての価値があるので、異常発生でもしなければスライムは討伐対象外なのだ。
だが、倒して魔石を持って行けば買い取ってはくれる。
私はスライムハンドでスライムの身体の中にある魔石を、そのまま抜いてしまうのでコスパは非常に良い。
それをチマチマと集めて街の雑貨屋に売りに行っている。
この街の雑貨屋にはお婆ちゃんがいるのだが、実際は違う。
魔力視を通して見ると、お婆ちゃんでは無くエルフが化けているのが分かった。
私が魔力視で見ていたことに気づいたエルフは人差し指を唇に当てて「シー。」っとやっていた。
私は僅かに頷いて、魔石を買って貰うように交渉したのだ。
私の見た目に同情したのか分からないが、エルフには魔石を買って貰えたので助かっている。
私もエルフに内緒にして欲しいとお願いして店を出た。
そのお陰で、孤児院には今でもバレてはいない。
お金はストレージに入れて置けば誰にも知られることはないだろう。
孤児院の修理の為に材木問屋や大工さんのところに廃材を貰いに行くのだが、そのときに見つけた廃材の中に変わった物があった。
何となく違和感があり魔力視で見てみたら、魔力が篭っている木材を見つけた。
多分トレントなどの魔物の素材なのだろうが、見習いか新米が間違えて廃材だと勘違いしたのだろう。
大工の親方に持って行っていいか確認したが、見る訳でもなく許可をくれた。
魔物の素材なら端材でもこんな雑には扱わないのだが、私にとっては都合がいいので貰っておいた。
トレントの素材は硬く魔力の通りも良いので、魔法使いが杖として良く使っている素材だ。
杖を使うと魔法の発動が早く正確に出来ることから重宝されているが、私はスライムハンドが魔法触媒の役割をこなしてくれるので必要はないのだが。
硬いトレントの素材で棍棒でも作ろうと思って貰ってきた。
仕事を早めに片付け、隠れて廃材を加工しようとゴリゴリ削っていると廃材が思いのほか魔力の通りが良いことに気づいた。
私はただの棍棒にするには勿体無いと思い、スライムハンドで廃材をナイフの形に加工する。
要は魔剣擬きを作りたいのだ。
持ち手を持って魔力を流せば、刃物の役目を果たしてくれるような物を作りたい。
頑丈なトレントの素材なら、多少雑に扱っても壊れることはないだろう。
魔剣擬きに魔力を通すと素直に魔力が通るので、私は普通の木材を斬りつけてみた。
木材を斬りつけてみると思いのほか切れ味が良かった。
これは思わぬ拾い物をしたかも知れないとちょっと興奮してしまった。
それをストレージに仕舞うと、スライムハンドからも取り出せることが分かった。
これでゴブリンも倒せるようになると私は喜んだのだ。
前にゴブリンを殴り倒そうとしたのだが、時間がかかり過ぎて断念したことがある。
魔剣擬きが有ればゴブリンを倒すのも容易くなるし、魔石を取り出す為の解体にも使える。
この魔剣擬きのお陰で、お金は着々と溜まって行った。
いつもの雑貨屋にゴブリンの魔石とトレントの端材を売りに行ったのだが、魔石は買って貰えたが、流石に端材は買って貰えなかった。
ただ、そのエルフが端材から綺麗な彫刻をした指輪を作ってくれた。
指輪は魔法触媒にもなるから杖の代わりにもなるようだが、必要になったら使いなさいと意味深なことを言われて手渡された。
エルフが言うのだからそのときが来るのだろうが、この綺麗な植物を模った指輪を使うときが来るのだろうか?
私は改めてお礼を言い、雑貨屋を後にした。
ただ見つかると取られてしまうので、暫くはストレージの肥やしになるのだろうが。
そのような生活を2年ほど過ごし私は5歳になっていた。
食事はまだ制限してるのでガリガリではあるが、鍛えてはいたのでスレンダーと言えばスレンダーなのだが骨張っていて見ていて気持ちのいい物では無いと思う。
5歳になってか、成長が遅いながらも身体には女性特有の特徴が見えて来た。
顔は多少整い、女の子特有の高い声と僅かながらも身体は丸味を帯びてきたようにも思う。
スライム細胞のせいなのか、油断すると直ぐに太ろうとする。
院長の人身売買に引っ掛かるのは、見た目が良い女の子が多いのは分かりきっていた。
まだ売りに出されても困るので、私は目立たないよう隠密と隠蔽を使い院長からは隠れて過ごしていた。
表向きは正式な身元引き受けなのだが、孤児院を出て戻って来た女の子は1人も居ない。
引き取り手がなく冒険者になった男の子や、働きに出てそのまま住み込みの仕事に就いた女の子などはたまに顔を見せるが、院長経由の女の子で顔を見せた子は1人も居ない。
スライムハンド経由で院長の不正の証拠は握っているが、私にその子達を助ける力はない。
私が生き延びるだけで精一杯なのだから。
ただ見た目のいい子は院長から優遇されていて、私のような身素晴らしい子をバカにしていたので大して心も痛まない。
孤児なんて鬼畜の国では底辺なのだから、搾取されて終わりなのだが私は生き残ってみせると心に誓った。
それから1年が経ち私は6歳になった。
ガリガリながらも女の子らしくなって来たように思う。
まだ院長には目を付けられてないが、それも時間の問題だろう。
私は働きに出て居ないので、何処かのモルモットとして売られるか物好きな貴族に売られるかも知れない。
ただ孤児院では6歳になったら冒険者ギルドに登録することになっている。
ギルドは6歳から登録出来るようになり、街の中のお手伝いを受けれるようになる。
それは貧しい家庭もあるので、その子達の為にあるような制度だが孤児は身分証明の意味合いもある。
孤児はこの街で身元を保証してくれる人が居ないので、代わりにギルドが保証してくれるのだが仕事をくれる訳ではない。
ただ、私はこの身分証が欲しかったのだ。
これが有れば街の出入りが可能になるのだ。
身分証が無ければこの街から出てまた入る際に入れて貰えない場合がある。
最悪は身元が無いとして、奴隷商に売られる可能性もある。
それだけこの国は鬼畜なのだ。
そのお金は見つけた門兵の小遣いになるから、あっちも必死になるのも頷けるのだが、やられるほうは溜まったものでは無い。
私はギルド証を持って雑貨屋に行く。
今日は魔石を売りに行くわけでは無い。
お婆ちゃんに仕事が無いか聞きに行くのだ。
仕事をしている間は売りに出されることが少ないが、お金を孤児院に入れなければ行けないけど。
お婆ちゃんの雑貨屋の前に来たらいつもの看板が無くなっていた。
私は不思議に思いながらも雑貨屋の中に入って行く。
いつもは所狭しと物が置いてあるのだが、商品が無くなりがらんとした部屋があるだけだった。
不安になりながらも私は声を掛けることにした。
「こんにちは、お婆さんはいますか?」
改めて考えてみたら私はお婆さんの名前も知らなかったのだが、聞いたところでまともな名前を教えて貰えるとは思わなかった。
だってお婆さんはエルフなのだから。
「誰だいこんなときに、雑貨屋は店仕舞いだよ。
忙しいから返っておくれ。」
奥からお婆さんの声がして此方を覗いて来た。
お婆さんが私を確認するとやれやれと仕方なさそうに店まで出て来てくれた。
「アンタには悪いけど、店仕舞いするからもう魔石は買ってやれないよ。」
「いえ、今日はギルド証を作ったので仕事を貰えないか聞きに来たのですが、それも遅かったようですね。
失礼しました、今まで大変お世話になりました。
ありがとうございます。」
「ほう、タイミングが良いのか悪いのか。
6歳になったんだね、誕生日おめでとう。
この街に帝国が攻めて来そうなんでね、私ゃ街を移るつもりなんだよ。
この街も帝国に支配されたほうが住み易くなるかも知れないが、今回はそんなことにはならないだろうよ。
だがその皺寄せは住民が背負うことになるだろうがね。
だからその前に私ゃ街を出るつもりさ。
此処から10日ほど移動した辺境の街にだけどね、仕事は紹介してやれないが街を出たいなら今夜孤児院を抜け出してこの店に来な。
辺境の街まで連れて行ってやってもいいよ。
アンタに、この街を出る覚悟があるのなら。」
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