第13話 同じがない彼女
駅までの短い道。夜風に軽く身震いしながら、その道を談笑しながら歩く。
「今日、バイトの前に行った公園。すごく良いところでしたね?」
「そうだね。人も少なかったし、落ち着くにはいいところかも」
すぐそこに見える駅を見つめながら星川さんの言葉に返事をする。そしたら急に、
「なんか、二人だけの秘密の場所みたいでしたね?」
星川さんがそんなことを言って、俺の前に立って満面の笑みを浮かべた。
可愛すぎるだろ……。
満開の桜みたいな笑顔。少し前かがみになって俺を見上げる視線。そして、特別な一言。
「そう、だね。うん、確かにそんな感じだったね」
頭が追いつかず、言葉がたどたどしく溢れる。
「じゃあそこは二人の思い出の公園ってことで!」
「うん。思い出の公園ね」
なんだか小学生の頃に戻ったみたい。近くの森に木の生えてないちょっとした空間を見つけると、そこを秘密基地だと言って毎日そこに集合して遊んだ。そんな無邪気だったころを思い出して、なんか郷愁の念が湧いてきてしまった。
そんな感慨深い気持ちに浸っていると、もう駅についてしまった。
「じゃあ、ここで」
「はい。また、バイトで」
「うん。バイトで、ね?」
「あ、バレちゃいました? また正門の所で待ってようと思ったんですけど」
おどけた笑顔。いくら見ても免疫が出来ない。彼女の笑顔を見る度に色が違くて、どうしても対応が追いつかない。毎回毎回、新しい表情が見られる。同じがない彼女に、今日もまた惹かれている。
「びっくりするの苦手だから、本当にバイト先で。お願い」
「えー。分かりました」
少し残念そうに口を尖らせる星川さん。
「かわいい」
ついに、心に留めていた言葉が溢れだした。
「え?」
星川さんに聞き返されて、俺は恥ずかしくなって
「何でもない。じゃあ、またね」
そう言って手を振った。
「は、はい。またバイトで」
急な別れに星川さんは少し動揺したように返事をして、駅の中に消えて行った。
「はぁ……。何言ってんだ俺」
自分で自分を責めながら、俺は家までの道を一人淋しく辿った。
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