第10話 新しい一面
店内に入って二人用の席に案内された俺達は、席に座って各々で夕飯を選び始めた。
「星川さん、決まった?」
「あの、ちょっと迷ってて」
難しそうな表情を浮かべる星川さん。助けてあげたい。本能がそう思わせる。
「どれで迷ってるの?」
「えっと、カルボナーラとミートソースドリアで迷ってるんですけど……。どっちも美味しそうで」
そう言う星川さん。そう言う事ならば、
「俺さ、ちょうどミートソースドリア注文しようと思ってたんだよね。だから、その。星川さんが嫌じゃなかったら、二人で半分ずつ食べない?」
と、小さな嘘を吐いた。本当はグラタンが食べたかった。しかし、グラタンもドリアもチーズが乗っているという点では大した差はない。そう言い聞かせて提案すると、星川さんは俺の嘘に気づいたようで、少し申し訳なさそうに眉をひそめて
「じゃあ、お言葉に甘えて」
そう言って柔らかな笑顔を見せてくれた。なんと可愛らしいのだろう。この笑顔が見れたのだから、さっきの決断は間違いじゃなかった。
その後、注文を済ませて二人でドリンクバーからソフトドリンクを持ってきて、席で小さく乾杯をした。
「あ~、美味しい」
「美味しいですね」
りんごジュースを飲む星川さん。アイスティーとかコーヒーとか、大人っぽいものを飲むんだと思っていたから、ちょっと意外。今日も新しい星川さんを見つけられた。そう思うとすごく嬉しくなった。
「そ、それでさ。聞きたい事って?」
きっと俺が期待しているほど大したことではないとは思いながら、もしかしたら想像通りの大きなことかもしれないという少しの不安を抱えながら言い出す。すると星川さんは持っていたグラスを机の上に置いて、ふぅと小さく息を吐きだした。
「あ、あの。その……」
口ごもる星川さん。机の下にある手元を見つめてモゾモゾしているのがとても愛らしい。
「いいよ、ゆっくりで。言いたくなったら言ってよ」
「は、はい」
そんな星川さんを見て少し格好つけてしまう俺。多分、これを格好いいと思っているのは俺みたいなダサい奴だけなんだろう。そんな風に考えるとすごく空しくなる。
それから会話もまばらなまま、注文していたカルボナーラとドリアが運ばれてきた。
「ごゆっくりどうぞ」
店員さんが去っていくのを待って、二人で手を合わせてからご飯を食べ始めた。
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