第5話 帰り道
「一緒に帰るって言っても私、北野先輩の家知りませんでした」
「そうだよね。僕も星川さんの家知らないや」
二人して互いの家の場所も知らないのに、一緒に帰るという始末。なんだかおかしくなって、二人して笑ってしまう。
「じゃあ僕が星川さんの最寄りまで送るよ」
「いや、そんなの悪いですよ。私が送ります」
「いや、女の子一人でこの時間は」
「大丈夫です。むしろ送らせてください」
「いやいや。ここは僕が」
「いや、私が」
このまま永遠に続きそうな押し問答に終止符を打ってくれたのは、俺の住んでいるアパートの少し黒ずんだ白い外壁だった。
「あ、着いた」
「え、ここが北野先輩のお家なんですか?」
星川さんは俺の住んでいるアパートを見上げて興味深そうにそう言う。
「うん。駅近な割に家賃が安かったからいいなと思って」
「そうなんですね。北野先輩のお部屋ってどんな感じなんですか?」
家の外壁から俺の残念な顔面に視線を移した星川さんは、目をキラキラさせながら聞いてくる。
「どんなって聞かれるとどんなのだろう。まぁシンプルだよ。物も少ないし」
「そうなんですね」
簡素な返事の星川さん。聞いたのはいいけど特に面白味のない回答だったから、この反応は致し方ないだろう。
「じゃあ、ここでバイバイですね」
「そうだね。じゃあ、またバイトで」
「はい。さよなら」
切れかけの白熱灯に照らされた星川さんの横顔がどこか淋しそうに見えたのは、きっと俺の気のせいなんだろう。そうやって昂った心を落ち着かせて俺はまた、物の少ない部屋に入り、一晩さみしい時間を過ごした。
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