第4話 再来
来店するお客さんの数も少なくなってきた。時刻は夜八時。俺と星川さんはここで上がりだ。
「お疲れさまでした」
星川さんの着替えが終わるのを待った後に休憩室で着替えを終えてコンビニを出る。
溜め息。幸せな時間がもう終わってしまったという喪失感。意思とは関係なくまた溜め息が零れる。
「どうしたんですか、北野先輩」
「え?」
美しい声に振り返ると、さっきコンビニを出たはずの星川さんが柔らかい笑顔を浮かべて立っていた。
「ど、どうして星川さんがここに? もう帰ったんじゃなかったの」
事態を飲み込むことが出来ずに聞き返すと、星川さんは子供みたいに屈託のない笑顔に表情を変えて、
「今日は北野先輩を待ってみました」
そう可愛らしく言い放った。星川さんが、俺を待ってた――。更に状況を飲み込むことが出来ずに、俺の頭はオーバーヒート寸前。ショートしかけた思考回路に追い打ちをかけるように星川さんは言葉を続ける。
「一緒に帰りませんか?」
「え、あ、えっと。それは……」
その一言で完全に断線した。身体がぶわっと熱くなって熱暴走を起こし始めた。言葉を紡ぐことが出来ず、視界も狭くなってきた気がした。
「嫌、でしたか?」
星川さんが切なそうに目を伏せる。狭まった視界の中央で、その表情だけがゆらりと揺れている。
「い、嫌じゃない。全然、むしろ嬉しいというかなんというか。だから、その……」
突然、再稼働した俺の思考回路。口から溢れ出る言葉はあまりにも早口で、最後の方なんかは独り言のように非力にこぼれた。
「一緒に、帰ろう」
「はい」
嬉しそうに口角を持ち上げる星川さん。またショートしてしまいそうな回路を、夜の涼しい風でなんとか冷やしながら、俺たちは二人で帰り道を辿った。
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