第11話


 品評会が終わって数日が過ぎ、お昼の買い出しの時間に二葉はユウと出会った。お互いコンビニでばったり顔を合わせた後に、なんとなく並んで社内の敷地に移動する。


「今日は日差しもええし、外でもええかな」

「そうですね……」


 なんて伝えながら、もしかして一緒に食べるの? と二葉は困惑してしまう。しかし断る理由もなく最初にユウと二人で話したベンチに座って、もそりとコンビニの袋を開けた。隣では、ユウはぱんっと音を開けて勢いよくパンの包み紙を開いている。今日はお弁当じゃないんだな、となんとなく考えたとき、ちょっとだけ動揺して、即座にその気持ちを呑み込むことにした。


 もそもそと卵パンを食べながら会話を探そうとしたが、ユウ相手に無理に話す必要もないような気もした。互いに話したいことを話せばいい。そしたら自然と口から出たのは品評会のことだ。


「品評会、楽しかったですね」

「せやな。店を貸し切りにしてやし、いつもよりもみんな力が入っとった」


 もちろん僕もやけど、とユウはカツサンドを食べている。


「……でも私、余計なことをしたかもしれないとも思うんです。サチさんの桜の刺繍は、サチさんだけの大切な気持ちだったはずなのに」


【自由時間】から帰るとき、サチはひっそりと二葉に「ありがとうございます」と伝えてくれた。けれど、あのときサチが流した涙も本当のことで、その涙の中に一滴の悲しみも混じっていなかったとは思えなかった。


 本当に、何も考えていなかったのだ。【自由時間】の中を桜色に染めたら、きっと綺麗だと、そればかり考えていて。二葉が言い出さなければ、たとえほんの少しだけでもサチが悲しませることはなかったはずなのに。


「少なくとも、僕にはサチさんは喜んどるように見えたけどな。そりゃ、旦那さんのことを思い出したと言ってたから、絶対に寂しい気持ちがなかったっていうと嘘かもしれんけど」

「でも……」

「少なくとも、僕らが想像してひねくれてもしゃあないやろ。ほんまに不安ならサチさんに聞いたらええ」

「……そうですね」


 パンを握りしめながらしょんぼりと頭を垂らす。そうしてしばらくしていると、「僕な」とユウは二葉を見ることなく、じっと前を見ながら話した。


「中一のときに関西からここら辺に引っ越してきたんや。やから実家も近いねん。隣街や」

「じゃあ私と反対ですね」

「反対? 前も言うとったけど、なんのことなん?」

「はい。私は中学二年生のときに、色々……あって、この街から千葉に引っ越したんです。それで就職を機会に戻ってきて……」

「そしたら僕ら同い年やし、ほんまにちょっとだけ重なっとったんやね」


 そうですね、と返答しながらも不思議な縁のように感じた。


「んまあ、というわけで引っ越してきて関西弁やって馬鹿にされるし、かと言ってこっちの言葉に変えるのもしゃくやし。別に今はそんなこだわりがあるわけやなくて、中々変えられんだけやねんけどな」


 一体何を伝えたいんだろう中々意図を読み取れなかったが、じっと続きを待つことにした。


「そんなんやからクラスメートらと遊ぶってこともせんし、部活もしてへんから時間を持て余しとったんよ。そうなると、特にやることもないわけやから妹の世話をすることになってな」


 年の離れた妹がいるから世話焼きだという話を以前アッキーがしていたことを思い出した。お兄ちゃん、という言葉が似合う人だな、と話を聞きながらひっそり思う。


「世話というか、親も共働きやったから帰ったらいつも二人きりやったんや。そしたら自然と一緒にいる時間が増えたんやけど」


 じっとユウの話を聞きながらユウの妹ということは、とても可愛らしいんだろうなぁ……と想像する。同じ黒髪で、髪の長さはこれくらいで……というところまで考えて、あれ、と自分の中で何かがひっかかった。


「うちの妹はな……」


 それはそうとして、ユウはここまで説明してぴたりと言葉を止めた。どうしたんだろう、と顔を見ると、とにかく渋い顔をしている。


「怪獣やったんや……」


 この人は何を言っているのだろうか。


「あの、妹さんというからには、きちんとした人間の女の子ですよね?」

「い、いや、人種的にはもちろんそうやで!? そうなんやけどな!? こっちは中一で向こうは小学校低学年やぞ。五歳差や! 性別も年も違うから話すこともわけわからんし、暴れまわるわ、癇癪起こすわ、もう最悪やったわ。怪獣や、怪獣やなかったら、元気な猿や!」

「…………」


 ずいぶんな言い様である。きっと色んな確執があったのだな、と考えることにした。


「あかん、こんな猿相手にしてられへん! とある日僕は家を飛び出したんや。友達もおらへんから行くとこもなくて彷徨っとったら、変な大人に会ったんよ。その人に、僕は編み物を教えてもろた。一本の糸がするする形になっていくって、わけわからん。けど、なんかすごいように思ったんや。そんで、家に帰って妹に見せてみてん」


 ぽつり、ぽつりと説明をするユウの声を聞きながら、二葉は想像した。

 慣れない制服を着ているから詰め襟が苦しそうな、頬にぽつりとほくろのある男の子。遠いところから引っ越してきて、遊ぶ場所もわからなくてがしゃがしゃと自転車に乗って、気づいたら遠出をしてしまい、今度は妹が心配になって必死に家に帰っていく……。


「帰ったら、どこに行っとったんやーって妹にうるさく言われたからな、説明するのもめんどくなって、とりあえず見せたろってな。かぎ針と糸を母親が持ってたのは知っとったから。買ったはええけど、結局使わんでタンスの奥に入っとったやつや。そんで、妹に見せてみたらやで。怪獣がもうきらっきらに目を光らせとって、もっと何か作ってや! ってな」

「……可愛いお話ですね」

「ちゃうねん。これはびっくりしたって話や。同じ言葉を話しとっても、怪獣やから言葉が通じんと思っとったのに、うわっ、こいつ、話通じたんか! って。そらもうびびったわ。ちゃんと話してみんと相手のことなんて、なーんにもわからんねんなって」


 ビルの街並みの中に挟まれた青い空の隙間をすいっと白い飛行機雲が飛んでいく。それを見上げながら、「僕が思うんは、そんだけや」と、ぽつりと呟く。


「そもそも、僕らも桜のテーマについてはええやんって言うたことやし、佳苗さんが一人で責任感じる必要ないんやけどな……そういや、佳苗さんのことも、あれやな。最初はほんまようわからん子やって思ったけどな。いつもおっかなびっくりやし、声も小さいし。でも最近は声も大きくなってきたら、ちょっと安心すんな」

「な、なな、なっ!?」


 あわあわと卵パンを握りしめる二葉を見て、ユウはケタケタと笑った。そして最初の自分が、なんと失礼な態度を取っていたのか、と今更ながらに後悔した。

 そして、改めて――ユウを優しい人だと感じた。


 ペンギンのあみぐるみをくれたとき、ユウは自分が手芸をすることを秘密にするための『賄賂』と説明したが、本音はただ二葉を心配してくれていただけなのだろう。彼の妹とのことだって、知らないとほっぽりだして、それで終わってもよかったのに。

 でも、彼はそうしなかった。


「……ようわからん子って思っとったけど、今はおもろい子やなって感じ取るよ。僕が編み物をするのは、自分のためや。妹がおもろい言うたってのは後付の理由や。僕は楽しいから、自分が作りたいとか、使いたいものを作っとるだけやから」


 いつの間にか、ユウはじっと二葉を見下ろしていた。


「でも、佳苗さんは違うんやな。サチさんのこともやけど、あのかぎ針も亡くなったお父さんのやって言うとったやんか。僕はようわからんけど、色々あるんやろ。佳苗さんは人のために手芸をして、それを自分のためやと思うんやね」


 色んな楽しみ方があるんやなぁとにっかり白い歯を見せる彼の言葉は、いつかの日に二葉自身も考えたことだ。


 ――みんな、色んな理由があって手芸をしている。

 サチは死んでしまった夫との時間を大切にするため、桜の刺繍をしている。

 アッキーはアクセサリーを作ることが趣味以外に、お仕事という実益も含めて。

 でもみんな、最終的な理由は手芸が好きだから。


「あー、手芸、楽しいなあ。はよ、水曜日にならんかなあ」


 いつの間にかパンを食べ終えたユウは、ベンチに持たれながら腕をのびっとさせた。そうですね、と二葉もくすりと微笑んで頷いた。こちらも食べたゴミの袋をまとめた後に、水筒の蓋を開けて温かいお茶をそそぎ、ほうっと一息ついた。

 ざわざわと頭の上から聞こえる風に揺れる木々の音や、水筒の蓋で両手を温かくさせている今の時間が、ちょっとだけ愛しかった。


「水城さん、いつもありがとうございます」

「……おー」


 いきなり彼はぐでっとしてやる気のない返事になった。どうしたのだろうか、と瞬いたが、まあいいか、と考えた。このまあいいか、とは、ユウだからこそ感じたもののような気がした。他の人なら怖くてどうしても確認したくなる。でも聞くこともできなくておろおろしてしまっていたはずだ。ユウなら何か理由があるか、もしくはなんの理由もなくてただの自分の思い違いだと流すことができる。


 優しくて、落ち着く。いい人だなあ……というところまで考えて、まだ若干の寒さがあるにもかかわらず、だらだらと冷や汗が止まらない。彼女がいる相手なのだから距離を置こうと誓ったはずが、すっかり忘れていた。


 なので、せめて自分を傷つけたいような気持ちで「きょ、今日はお弁当じゃないんですね……」と口元をひくつかせながら問いかけた。つまり、彼女さんの手作りじゃないんですね、という意味である。なんだかものすごく辛くなった。


「あー……今日は、寝坊してもうたんや。お花を作ることが楽しすぎてやな。趣味のために生活を切り取ってしもうた。後悔や。でもこの背徳感すら楽し感じるとこが、僕はもうあかんのや……」

「え? 今なんて?」

「お花を作ることが楽しすぎて? 僕の家はもうすっかりお花畑やで。こないだのテーマでハマってしもてん」

「いえそこではなく。いえそこも気になりますが! もしかして、お弁当、自分で作ってるんですか?」


 驚いて問いかけた後で、ユウならたしかに作ってそうだ、と二葉は深く納得した。あれ、そもそもなんで彼女が作ってるって思いこんでいたんだっけ……と記憶を遡らせる。お弁当を入れていた袋がとにかく可愛かった。

 そのときはわからなかったが、今考えるとあれはかぎ針編みだ。カラフルだが優しい色合いで作られていて、クマさんマークがついていた。


「そうや。僕やで。おかげで妹の分も作られへんかったからどやされたわ。怪獣、再びや」

「あ、あの、お、お弁当袋が、とにかく可愛らしかったんですが、そ、それは」

「ええやろ。僕が作ってん。作ったら使いたくなるやろ? 汚したないから汁物は入れへんようにって必死やで!」


 段々と思い出してくる。ユウは彼女持ちだと囁かれている理由は、持ち物のところどころに可愛らしさがあふれているからである。こうして話すとのほほんとした青年だが、方言が出ないようになるべく口数を減らした彼はクールなイケメンだと評判だ。そんな彼が、まさか自分で作って自分で使っているとは誰も思わないわけで……。


 ちょっとずつ見えてきた真実に、いやまさか、と二葉は首を振った。今までそうだと考えていたのに、違うとなると混乱してくる。そうだ、と最後の可能性に飛びついた。


「あの、か、彼女さん! 付き合ってる彼女さんと、一緒にアパートの一階で、歩いてましたよね!?」

「付きおうとる彼女さん……? アパートの一階……?」

「ですから、あの、大学生の、おっとりしてる感じで黒髪で、髪は長くて……」

 必死に身振り手振りで説明していると、おや? という違和感が胸の中を過ぎ去っていく。この姿、先程想像した何かと少し似ているような……?

「それは妹の茉莉や! 僕が一人暮らしする言うたら、遊び呆けたいからってくっついてきよってん! どんな勘違いや!」

「うわああ……」


 思わず両手を口に当てつつ漏れてしまった言葉にどんな意味があるのかもう自分にだってわからない。思い込みは恐ろしい。そして考えてみると付き合っている相手がいるのなら、こうしてほいほい二人きりにならないだろう。疑っていた自分が恥ずかしくて、申し訳なくもあった。


「なんか、ものすごく不愉快やわ。もやもやするわ」


 珍しくとげとげしたユウの言葉に対して、ただただ二葉はしおれるしかなかった。二葉には血の繋がった兄弟はいないので想像することしかできないが、嫌に感じる人もいるだろう。「本当にすみません……」と謝ることしかできない。


「顔、上げてや。別に怒ってるわけやないから」


 と、ユウは言いつつも声に覇気はない。お互いになんだかぼろぼろになっている。しょんぼりと顔を上げると、相手も同じような顔をしていた。しかしみるみるうちにユウの眉が吊り上がっていく。どうしたどうした、と二葉は恐れを通り越して心配してしまった。大丈夫だろうか?


「この際言わせてもらうわ。こないだから僕のこと、水城さんってなんやねん。仕事のときはわかるで、それ以外の話やで」

「あ……。そうですよね、【自由時間】じゃ、あだ名で呼ぶというルールがあるのに、すみませんでした……」

「いや……そういうことじゃ……ん? そうなんか?」


 彼女がいるのなら、馴れ馴れしく呼ぶことに抵抗があって無理に呼び名を変えていたのだが、ルールに抵触する行為をしていたことに懺悔の念を持つべきだ。


「ユウさん、すみません」と、二葉はいつもはしょげた眉をきりっと吊り上げる。

「……敬語もいらへん。僕ら同期やで。なんか変やん」

「それは、たしかに……。気を付けます。ううん、気をつける」


 相手を怒らせたくなくてなるべく丁寧に接しているつもりだが、逆にそれは失礼だ、とはたと気づく。逆撫でしないようにと猫なで声を出しているようなものだ。


「あと、やな」

「うん」


 どんな言葉も、真摯に受け止めるべく二葉は背筋を伸ばした。しかし中々言葉はなく、ユウははくはくと口を動かすばかりだ。とりあえず待ち続けると、ユウはがしりと二葉の両肩を掴み、「首が、寒そうやねん……」と擦り切れそうなほどに声を震わせて二葉を見下ろす。


「え、く、くび、が……?」

「寒そうやねん。ずっと思っとってん。佳苗さんコートもうっすいし手袋もせぇへんし、首がすうすうしとるし! もう見てて耐えられへん……! マフラー、編んでもええか? なあ、編んでもええか!?」

「じ、自転車に乗るときはもうちょっと温かい服を着てるよ。マフラーは……そろそろ暖かくなるだろうし、今はいいかな」

「なんでや! なんでなんや! お願いや! 僕にマフラーを編ませてや!」

「私本当に寒さに強くて……。使わないものを貰うのは悪いし、はっきり断らないと逆に申し訳ないよね。ごめんね、いらないよ」


 うわー! とユウはむせび泣いた。二葉は大変申し訳なくなった。自分が暑がりなばかりに……。でも本当にそろそろ暖かくなるので諦めてほしい。


「ああ、おかしいな。僕、編み物はいっつも自分のためやのに……作りたくて作って、人にあげることはあっても、他の人のために作りたいなんて初めてや……なんでや……」


 なんでなんや、と苦しそうだが、寒がりは大変だな、と二葉は憐れむ気持ちでいつの間にかベンチの上で丸まっているユウを見下ろした。


「もう、諦めようよ、お昼休みも終わりそうだし」

「なんでなんやあ……」


 と、ぐすぐすしつつもさすがに無理を通す気はないらしく、なんとか諦めてくれたようで安心した。しかしすぐにはっとして、二葉は別の事実に気づいた。


 ユウの彼女だと思っていた女性は彼の妹だった。怪獣、というのはさておき、おっとりとした愛らしい雰囲気の彼女は、二葉のお隣さんである。最近は部屋に表札もしていないし、引っ越しの挨拶のときも不在だったから名前も知らない仲で、顔を合わせたときに頭を下げ合うくらいだ。その彼女が、ユウの妹。以前に彼は家族と住んでいる、と言っていた。と、いうことは……。


 考えてみればユウは二葉の部屋番号を知らないように気を使っていた。そして逆に、二葉もユウの部屋番号を知らない。


「……ユウさんって、もしかして三階に住んでらっしゃいます?」

「やから敬語はいらんて。三階の角やけど。いきなりなんなん」

「多分私、その隣に住んでます」

「おんんっ!?」


 ユウは初めて聞くような謎の叫びを上げた。むしろ口から飛び出た、と表現すべきかもしれない。そんなことあるわけないやろ……と小さく呟く彼の気持ちはわかるし、むしろまったくの同感である。やっぱり気の所為じゃ、いやでも私の部屋番号は……間違いなく隣やんけ……なんてことを互いに粛々と報告し合い、「とりあえず仕事、行こか……」「行きましょう……」と結論付け、二人で力なく立ち上がった。






 仕事が終わって自室に戻ると、なんだか変な気分だな、と部屋の壁を見つめた。この隣の部屋には……と考えて、いや、と首を振る。「あんまり深く考えるのは、やめよう」と自分に言い聞かせるように呟くしかない。


 会社の荷物を片付け、部屋着に着替え晩ごはんを食べた。テレビを点けるのはニュースを確認するためだけにちょっとだけ。お風呂に入って、湯上がり後にお湯を沸かす。カップにほんのちょっとのゆずジャムを入れて、お湯を注ぐ。


 ほんわりとした温かさを両手に感じた。もちろん使っているコースターは品評会に向けて作ったものだ。作品は次の品評会まで置いたままにする人もいれば、好きなタイミングで持って帰る人もいるらしく、せっかくだからとクマのあみぐるみはそのままにして、コースターは持って帰った。


 最近、こんなちょっと時間がすごく好きだ。

 壁の時計に目を向けると、まだそれほど遅い時間じゃない。どうしようかな、と考えた。

 数秒ののち、ふう、と息を吸って、ゆっくりと吐く。スマホの充電は大丈夫だ。番号は覚えているから、数字をタップする指はスムーズだった。


 けれども最後の最後で少しだけ指が動かなくなってしまった。やっぱりやめとこう、と自分の中で声が聞こえる。スマホの画面を消そうとしたとき、ふとカウンターの上にそっと飾っていた透明な蓋付きのプラスチックのカップが目に入った。中には花びらの形に切られたピンクの和紙が、きゅっと詰め込まれている。

 ……うん。と頷いた。電話はすぐに繋がった。


「鳩美さん? 今、大丈夫?」


 彼女からの電話は受け取るばかりで、こちらからかけるのは初めてだ。どきどきと心臓がぎゅっと締め付けられているような気分だった。少し、いや、すごく緊張した。電話向こうの叔母の声は変わらず元気だ。彼女のそういうところに、いつも二葉は救われている。


「あの、ちょっと……お願いが、あるんだけど」


 どうしても硬い声になってしまう。もう一度ゆっくりと息を吸い込み、二葉は鳩美にいくつかの疑問を尋ねた。すぐに返事が来たから、うん、うん、と頷いて、改めてお願いをする。


「えっ。そうな、の……?」


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