43日目「フーリエの級数展開とディリクレ核その1」

実用上、ほとんどの関数は正弦波と余弦波を重ね合わせることで表現することができるということを昔、フーリエという学者が主張した。これによって生まれたのが、フーリエ級数展開の考え方である。級数展開することで、その関数についてより様々な性質を知ることができるかもしれないし、他の面白い結果を導けるかもしれない。


例えば、テイラー展開について、指数関数をテイラー展開し、変数に複素数を代入することで、指数関数と三角関数の関係について知ることができた。また、ここからいくつかの定理を経由して、三角関数の加法定理などを導くことができた。


・周期Tの関数のフーリエ級数

周期Tの関数fが周期Tの三角関数の線形結合で書けたとする。すると、

f(x)=A+Σ(n=1→∞) a(n)cos(2πnx/T)+b(n)sin(2πnx/T)

と書くことができることがわかる。ちなみに、cos(2πnx/T)は周期Tの余弦波であり、nが大きくなるほど、どんどん波長は短くなっていく。ここで、次の定理を用いて、係数がどのように計算されるのか確認していこう。


三角関数の直交性

1, ∫(0→T) cos(2πmx/T)sin(2πnx/T)dx=0


2, ∫(0→T) cos(2πmx/T)cos(2πnx/T)dx

=0 (m≠n)

=T/2 (m=n)


3, ∫(0→T) sin(2πmx/T)sin(2πnx/T)dx

=0 (m≠n)

=T/2 (m=n)

[証明]

これらの証明は実際簡単にすることができる。まず、三角関数の積は積分するのが難しそうであることが直感的にわかるので、積を和に変換するために積和の公式を用いる。

・積和の公式

cosの加法定理を考える。

cos(x+y)=cosx cosy -sinx siny

cos(x-y)=cosx cosy +sinx siny

となっている。よって、sin同士の積とcos同士の積を、両辺引き算することによって導ける。実際に計算してみると、

cos(x+y)+cos(x-y)=2cosx cosy

cos(x-y)-cos(x+y)=2sinx siny


と変形でき、両辺を2で割り算することで、積を和に変換できた。


sinの加法定理を使ってみると、

sin(x+y)=sinx cosy +siny cosx

sin(x-y)=sinx cosy- siny cosx

また足し算引き算すれば積を和にできることに気付けると思う。今回は足し算してみる。

sin(x+y)+sin(x-y)=2 sinx cosy

両辺を2で割ってみると積和の公式が示せた。


この公式を使って1,2,3の積分を実行してみよう。

1, ∫(0→T) cos(2πmx/T)sin(2πnx/T)dx=1/2 ∫(0→T) sin{2π(m+n)/T}dx+sin{2π(n-m)x/T}dx=1/2 ∫(0→T) sin{2π(n-m)x/T}dx (sin{2π(m+n)/Tは0からTで積分されれば0になる)

ここで、これを積分すると[-T/{2π(n-m)} cos{2π(n-m)x/T}](0→T)となる、n=mとしたとき、この値は定義されない。つまり、n=mの場合とn≠mの時で場合分けをしなければならないと言うことである。

n=mの時、被積分関数は0になるため、値は0

n≠mの時、[-T/{2π(n-m)} cos{2π(n-m)x/T}](0→T)はやはり0になってしまう。

すなわちnとmがどのような関係にあってもこの積分は0になってしまうことがわかった。


2, ∫(0→T) cos(2πmx/T)cos(2πnx/T)dx=1/2 ∫(0→T) cos(2π(m+n)x/T)+cos(2π(m-n)x/T)dx=1/2 ∫(0→T) cos(2π(m-n)x/T)dx

これを積分すると、またm-nが分母にくるので、m=nの場合とm≠nの場合に分ける。

m=nの時

1/2 ∫(0→T) cos(2π(m-n)x/T)dx=T/2

m≠nの時

1/2 ∫(0→T) cos(2π(m-n)x/T)dx=0


3, も同様に計算すれば良い


さて、これらの道具を揃えたことにより、興味深い考察をすることができる様になる。

f(x)=A+Σ(n=1→∞) a(n)cos(2πnx/T)+b(n)sin(2πnx/T)

とフーリエ級数にfが展開されたとする。この時、a(k)の値を出してみたい。この時、cos(2πkx/T)の項だけ残したい。すると、自然にf(x)cos(2πkx/T)を0からTの区間で積分すると良さそうであることがわかる。実際に積分してみると、直交性の公式より、

∫(0→T)f(x)cos(2πkx/T)dx=∫(0→T) a(k)cos(2πkx/T)cos(2πkx/T)dx=a(k) T/2(*)

a(k)=の形に変更すると、a(k)=2/T ∫(0→T)f(x)cos(2πkx/T)dxがわかる。

b(k)も同様に積分することで、b(k)=2/T ∫(0→T)f(x)sin(2πkx/T)dxとなることがわかる。

Aは∫(0→T) f(x)dxを計算することで、三角関数の周期性などにより、AT=∫(0→T) f(x)dxとなり、A=1/T ∫(0→T) f(x)dxと変形できる。


ここで次のように定数項を変更する。2A=a(0)となるa(0)をとる。すると、次の様にフーリエ級数展開は変形できる。


f(x)=a(0)/2+Σ(n=1→∞) a(n)cos(2πnx/T)+b(n)sin(2πnx/T)


そして、この時、a(n)のnに0を代入したものがしっかりとa(0)と等しくなる。


a(n)=2/T ∫(0→T)f(x)cos(2πnx/T)dx

b(n)=2/T ∫(0→T)f(x)sin(2πnx/T)dx



この様な議論を経ることで、次のような結論に達することができる。


フーリエ級数展開の結論

関数f(x)について、この関数は三角関数たちの重ね合わせにより表現することができて、

f(x)=a(0)/2+Σ(n=1→∞) a(n)cos(2πnx/T)+b(n)sin(2πnx/T)


a(n)=2/T ∫(0→T)f(x)cos(2πnx/T)dx

b(n)=2/T ∫(0→T)f(x)sin(2πnx/T)dx


しかし、この時、議論には大きな飛躍が存在する。例えば、(*)のところでやったような、極限と積分を勝手に入れ替えたところなどである。すなわち、この級数がfに収束してくれるかどうかはいまだにわかっていないのである。


では、フーリエ級数はどの様に定めれば良いのだろうか。答えは簡単で、結論を定義にしてしまえば良いのである。収束性などのむずかしい話は後回しにして、fのフーリエ級数展開というものを先に定めてしまえばよい。


フーリエ級数展開の定義

関数f(x)について、この関数のフーリエ級数展開F(f)を次の様に定める。

F(f)=a(0)/2+Σ(n=1→∞) a(n)cos(2πnx/T)+b(n)sin(2πnx/T)


a(n)=2/T ∫(0→T)f(x)cos(2πnx/T)dx

b(n)=2/T ∫(0→T)f(x)sin(2πnx/T)dx


次回は、区分的に滑らかであることや区分的に連続であることの定義をして、ディリクレ核と呼ばれる、フーリエ級数展開の収束性を議論する上でかなり重要な概念を導出、確認してみよう。

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