23日目「チェビシェフ多項式が大好き」

おそらく、皆さんが高校生以上であれば、三角関数の分野で2倍角の公式や3倍角の公式......を学んだと思われる。その公式の一般化となるものが今回紹介するチェビシェフ多項式だ。この多項式はある漸化式によって定義されており、n項目をTn(x)とおくことにすると、Tn(cos(θ))=cos(nθ)を満たす。早速、Tn(x)について漸化式を立ててみよう。


T0(x)=1であることはcos0=1からわかる。T1(x)=xは定義から明らかである。


cos{(n+2)θ}+cos(nθ)=2cos{(n+1)θ}cosθである。

つまり、cos{(n+2)θ}=2cos{(n+1)θ}cosθ-cos(nθ)である。

これを、Tn(x)の定義で置き換えると、


T(n+2)(x)=2xT(n+1)(x)-Tn(x)


とできる。実際にこの漸化式にx=cosθを代入すると、漸化式も成り立ち、初項と第二項も満たしているので、Tn(x)はチェビシェフの多項式である。


さて、実験をしてみよう。まずは加法定理から素直に4倍角の公式を導いてみよう。


cos(4θ)

=cos(2θ+2θ)

=cos^2(2θ)-sin^2(2θ)

={cos^2(θ)-sin^2(θ)}^2-4cos^2(θ) sin^2(θ)

=cos^4(θ)+sin^4(θ)-2sin^2(θ) cos^2(θ)-4cos^2(θ) sin^2(θ)

=cos^4(θ)+(1-cos^2(θ))^2-6(1-cos^2(θ)) cos^2(θ)

=cos^4(θ)+1-2cos^2(θ)+cos^4(θ)-6cos^2(θ)+6cos^4(θ)

=8cos^4(θ)-8cos^2(θ)+1


次に、チェビシェフの多項式を用いて導いてみる。

T2(x)=2xT1(x)-T0(x)=2x^2-1

T3(x)=2xT2(x)-T1(x)=4x^3-2x-x=4x^3-3x

T4(x)=2xT3(x)-T2(x)=8x^4-6x^2-2x^2+1=8x^4-8x^2+1


T4(cos(θ))=cos(4θ)より、cos(4θ)=8cos^4(θ)-8cos^2(θ)+1。


どうだろうか。素直に導出するよりも、チェビシェフの多項式を使った方が早かったのではないだろうか。また、チェビシェフの多項式の4項目を計算する段階で、2、3倍角の公式も得られている。


ここで、チェビシェフ多項式に成り立つ定理を証明してみよう。


最初に補題を示しておく


補題

deg(f)≠deg(g)ならば、deg(f+g)=max{deg(f),deg(g)}

証明

deg(f)=m、deg(g)=nとする。f=Σ(k=0→m)a_kx^k、g=Σ(k=0→n)b_kx^kと書ける。m>nを仮定して示す。f+g=Σ(k=n+1→m)a_kx^k+Σ(k=0→n)(a_k+b_k)x^kであり、a_mはもちろん0でないのでdeg(f+g)=mが示せた。


deg(cf)=cdef(f)

証明

cが0でないときは明らか。c=0の時は正しいことが簡単にわかる。


deg(xf)=1+deg(f)

証明

fを明示的に表示せよ。


次数

Tn(x)の次数はn

証明

数学的帰納法を用いる。n=1、2の時正しい。n、n+1の時正しいとして、n+2の時を示す。

deg(T(n+2)(x))=deg(2xT(n+1)(x)-Tn(x))=deg(2xT(n+1)(x))=deg(xT(n+1)(x))=n+2

よって示せた。


最高次の係数

Tn(x)の最高次の係数は2^(n-1)。ただし、n≧1とする。

証明

数学的帰納法によって示す。

n=0の時正しい。nの時正しいとして、n+1の時を示す。

T(n+1)(x)=2xT(n)(x)-T(n-1)(x)であり、deg{T(n)(x)}≧deg{Tn(x-1)}であるので、2xT(n)(x)の最高次の係数のみを考えるだけでよいことがわかる。帰納法の仮定より、最高次の係数は2^nと書けるので、証明できた。


チェビシェフ多項式の特殊な広義積分

∫(-1→1)Tm(x)Tn(x)dx/√(1-x^2)=N_nδ_nm N_0=π、N_n=π/2(n≧1)

証明

この積分をIとおく。x=cos(θ)と置換積分を行うと、θ:π→2πと変数の範囲が指定され、I

=-∫(π→2π)cos(mθ)cos(nθ)sin(θ)/|sin(θ)|dθ

=∫(π→2π)cos(mθ)cos(nθ)dθ

=1/2 ∫(π→2π)cos{(m+n)θ}+cos{(m-n)θ}dθ

ここで、m、n∈N∪{0}である点に留意して場合分けを行う。すると、

・m+n=0でなく、m-n=0でもないとき

・m+n=0かつm-n=0でないとき

・m+n=0でなく、m-n=0 のとき

・m+n=0かつm-n=0のとき

と4つに分けられる。


一番目の時は、素直に積分を実行することで、I=0がわかる。

m+n=0であれば、m=n=0が成り立ってしまうので上から二番目は不適。

三番目の時、素直に積分して、I=π/2

四番目のとき、m=n=0が簡単に導ける。代入して、計算すると、I=π


これらの条件をまとめる。

m=nでなければ、I=0より、I=N_mnδ_mnと書ける。先ほど導き出した式より、

N_00=π、N_mm=π/2(m≧1)が導ける。


この積分は手でやるとしたらかなりの計算量である。特殊な形でも、このような積分が簡単にできるというのは素晴らしい。





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