12日目「群論の解説していくよ」

群とは、近代に見いだされた新たな代数学の入門(極めていったら入門どころではないが)である。そこで本誌では、その入門の門をくぐる前のお清めくらいのところまで解説していきたいと思う。


とりあえず、今回は群論の準同型定理の証明までする。この解説全体の目標は、シローの定理を証明することである。


また、この解説では定義の重要度合いを星の数で表している。


まず、群というものを定義しないと話が始まらないので、定義を始める。いくつかの未定義用語が出てくるが、後々解説する。


群(Group)★★★★★

(G,*)が群であるとは、演算*:G x G→Gが単位元(Identity Element)★★★★★を持ち、どんな元に対しても逆元(Inverse Element)★★★★★が存在し、結合法則(Associativity)★★★★★が成り立つことを言う。また、Gを台集合(Underlying Set)といい、Gの濃度を位数(Order)★★★★★という。演算が明らかなとき、群Gとしてもよい。


まず、G x Gは直積である。直積というのは(x,y)の組の集合である。例えば、Rを実数としたときの自身との直積は{(1,1),(1.12321.....,3,1415926......)..............}というように書ける。


次に、*の単位元というのは演算*に対してどんな元xに対しても、x*e=e*x=x

を満たす元eのことである。よく1_Gとかかれる。


その次、逆元というのは、単位元ありきの事物であり、*のaの逆元は、a*x=x*a=eを満たすxと定義される。


最後に、結合法則についてであるが、これは我々が小学生の頃に習った結合の法則と同じである。書き下せばすべてのa、b、bの組に対して、a*(b*c)=(a*b)*cが成り立つことを指す。足し算におきかえてみれば、我々の慣れしたしんだ形になるだろう。



これで、未定義用語の解説は終わった。次に、群の条件をきつくしたアーベル群を定義しよう。

定義すると言っても、演算が可換(Commutative)★★★★★であることを群の定義に付け加えるだけである。つまり、a*b=b*aが成り立つ群が、アーベル群(Abel Group)★★★★★である。アーベル群の時は、演算*が+と書かれることが多い。また単位元は0_G、逆元は-aと書かれることが多い。


単位元の一意性

Gを群とする。Gには単位元が唯一存在する。

証明

Gに単位元e、e'が存在するとする。e=e'を示そう。

ee'=e、ee'=e'。よって、e=e'。


逆元の一意性

Gを群とする。a∈Gの逆元はGの中にただ一つ存在する。

証明

aの逆元をb、cとする。b=cを示そう。bac=c、bac=bより、b=c。


単位元の判定

Gを群とする。このとき、xe=xをみたすか、ex=xを満たせばeは単位元である。

証明

ex=xのとき、xe=xが成り立つことを示そう。xex=xx。xの逆元をかけるとxe=x。

逆向きも同様に成り立つ。


逆元の判定

Gを群とする。このとき、ax=eかxa=eを満たせばxはaの逆元である。

証明

ax=eならば、xa=eを示そう。axa=a。aの逆元をかけると、xa=eより示せた。

逆向きも同じように示せる。


積の逆元の定理

(ab)^-1=b^-1a^-1

証明

abb^-1a^-1=eより。


逆元の逆元は元の元

(a^-1)^-1

証明

aa^-1=eより。


群が定義し終わったので、次は同値関係を定義しておこう。


同値関係(Equivalence Relation)★★★★★

X上の同値関係とは

x、y∈Xに対して

x~y⇄y~x

x~x

x~y、y~z→x~z

が成り立つような二項関係~のことである。


二項関係とは、Xの自身との直積の部分集合のことである。x~yを(x,y)がその部分集合に含まれることとして定義する。


例を出してみよう。

例えば=というのは二項関係である。特にこれは同値関係である。

x=y⇄y=x

x=x

x=y、y=z→x=z

を満たすため。

A高校をクラスで分けるのは、二項関係であり、同値関係である。学校の生徒の集合をAで表し、~をA上の二項関係とする

x~yをyのクラスはxで同じであることを表すとすると、

x~x

x~y⇄y~x

x~y、y=z→x~z

が成り立つ。すなわち、~は同値関係。


また、同値関係から同値類というものを考えることができる。


同値類(Equivalence Class)★★★★★

xの同値類は、[x]={y∈X|x~y}


と、定義される。すなわち、xと同値なXの元をすべて取ってきたものだ。

同値類にはいくつかの定理が成り立つ。定理たちは、商集合という概念のためのものだ



同値類に成り立つ定理

x~yでないことと、[x]∩[y]=∅は同値。

証明

x~yでないとする。仮に[x]∩[y]≠∅とすると、a∈[x]、a∈[y]となる元aが存在する。

x~a、y~aより、x~yが示せた。よって矛盾する。

[x]∩[y]=∅とする。仮にx~yが成り立つとすると、後述する定理より、[x]=[y]となる。つまり、[x]=∅が導ける。しかし、x~xより、これは矛盾。


x~yであることと、[x]=[y]は同値

証明

x~yとする。z∈[x]の時、z∈[y]を示せば、対称性より示される。z∈[x]は、x~zと同値である。また仮定よりx~yであるので、結局、y~zが成り立つ。よって示せた。

[x]=[y]とする。このとき、x∈[y]であるので、確かに成り立っている。


商集合(Quotient Set)★★★★

XをX上の同値関係~で分解する。X/~={[x]|x∈X}をXの~による商集合という


自然な写像(Natural Projection)★★★

π:X→X/~と定義すると、これは全射写像となる。これをXの~における自然な射影

x→[x]

という。


ここまでできたら、次のステップに進もう。これからは、群と同値関係だけを使って、さまざまなものを定義して、抽象的な定理を示していこう。

まずは基本の概念、部分群と正規部分群だ。


部分群(Subgroup)★★★★★

HがGの部分群であるとは、HがGと同じ演算で群を成し、かつ、HがGの部分集合であることを指し、この解説のときはこれをH≦Gと表す。


正規部分群(Normal Subgroup)★★★★★

HがGの正規部分群であるとは、H≦Gかつ、gHg^-1={ghg^-1|h∈H}としたとき、gHg^-1=Hとなることを指す。またこれをH◁Gと表す。これは人類共通の記号である。


今後も使うので、gH={gh|h∈H}、Hg={hg|h∈H}と定義しておく。


正規なときに成り立つ等式

H◁Gとする。このときgh=h'gとなるh'∈Hがg、hに対して存在する。

証明

gHg^-1=Hとなるので、ghg^-1∈H、つまりある元h'∈Hが存在して、ghg^-1=h'、gh=h'gとかける。


部分群判定定理

HはGの部分集合とする。このとき、HがGの部分群となる必要十分条件は、どんな、g∈H、g'∈Hでもg^-1g'∈Hとなることである。

証明

g=g'とすると、e_G∈Hより単位元が存在する。g∈H、e_G∈Hとすると、g^-1∈Hより逆元が存在する。g^-1∈H、g'∈Hとすると、gg'∈Hより、演算が閉じている。結合法則は言うまでもなく成り立っていて、命題の十分条件は示せた。必要条件の方は、自明。


なぜ、正規部分群を考えたのだろうか。それは正規部分群でないといけないことがあるからである。しかし、正規部分群を使って、群を作り出す話はもう少し後にやるので、いまはこんな風に定義したらいいことがあるとでも思ってもらってよい。


次に、gによって生成される群について紹介する。


gにより生成される群(Group generated by g)★★★★

<g>={g^k|k∈Z}をgによって生成される群という。


実際に群を成していることは簡単に確認できる。また<g>の位数をgの位数という。

この概念により次の重要な群が定義される。


巡回群(Cyclic Group)★★★★★

∃g∈G[<g>=G]となることを、Gは巡回群であるという。


巡回群は非常に簡単な群のクラスであり、応用上で非常に重要な群である。

また、記述上便利な群として、自明な群が存在する。


自明な群

単位元のみで作られる群。一つしか元が存在しない。


次に、群の上に同値関係を定めてみよう。同値関係を定めると、いろいろな関係が見えてくる。具体的にはGの部分群Hを用いて次のように定める。


左剰余関係★★★★★

G上の同値関係~をGの部分群Hを使って次のように定める。g~g'⇄g^-1g'∈H


これが同値関係の条件を満たすことは簡単にわかる。


左剰余類★★★★★

上で定義した同値関係の同値類を左剰余類という。これは、gHという形で表すことができる。gH={gh|h∈H}なので、g'∈gHとすると、gh=g'となるhが存在する。よって、h=g^-1g'となるので、g^-1g'∈Hより、g~g'が導ける。この議論は逆向きにもたどれるので、gHと書くことができる。


濃度に関する定理

|gH|=|H|

証明

gHとHの間に全単射を構成する。f:H→gHと定めると、fは単射であることがGが

h→gh

群であることよりわかり、fが全射であることはgHの定義よりわかる。


左剰余集合(Left Residue Set)★★★★★

G/HをHの左剰余関係によるGの商集合と定義する。



左指数(Left Index)★★★★★

左剰余群の位数を[G:H]とかき、これを指数という。


いままでは左剰余関係を元に様々な概念を定義してきたが、右剰余関係でも同様な概念を定義することができる。同じようなことがなりたつので、証明は読者に任せる。


ラグランジュの定理

|G|=|H|[G:H]

証明

GのHによる剰余類分解により、Gのどんな元もgHの中に入る。

つまり、各剰余類の位数の和がGの位数である。

[G:H]はG/Hの左剰余類の個数であり、|gH|=|H|より、|G|=|H|[G:H]である。


この定理の重要なところは|G|によって、持てる部分集合の位数が定まることである。例えば、|G|=4であれば、可能な部分群の位数は、1、2、4の何れかである。


ここで、正規部分群が活躍するパートが来る。われわれは、左剰余関係を考えることによって、群の商集合を考えて、さらにラグランジュの定理などを証明したが、さらに左剰余集合には、自然な演算が入る。つまり、既存の群から、新たな群を作れる可能性があるということだ。


左剰余群(Left Residue Group)★★★★★

Gを群とする。H◁Gとし、G/Hにたいして、aHbH=abHという演算を入れる(abはGの演算)とG/Hは群となる。

証明

演算のwell-defined性を証明する。aH=a'H、bH=b'Hとして、abH=a'b'Hを示す。

ah=a'h'より、a'=ahとなるh∈Hが存在する。同様に、bh=b'h'より、b'=bh'となるh'∈Hが存在する。gHは同値類よりgH=g'Hを示す際、一つでも両方の集合に含まれる元が存在すればよい。a'b'=ahbh'=abh''h'∈abH、h''∈H。但し最後の変形はH◁Gを用いた。つまり、a'b'∈abH、a'b'e=a'b'よりa'b'∈a'b'Hより、演算のwell-definednessが示せた。

この演算でG/Hが群をなすことを示せばよいが、簡単なので省略する。


準同型定理を記述するための最終ステップとして、準同型写像とその核、像を定義する。


準同型写像と同型写像(Homomorphism&Isomorphism)

G、G'がそれぞれ演算*、◦で群を成しているとする。このとき、準同型写像を、f:G→G'、f(a*b)=f(a)◦f(b)を満たすような写像として定義する。またこのときのfが全射ならこの写像を全射準同型、fが単射なら単射準同型、fが全単射ならば、同型写像と呼ぶ。


準同型写像の基本性質

fをG、G'間の準同型写像とする。このとき、

f(e_G)=e_G'

f(a^-1)=f(a)^-1

証明

f(a e_G)=f(a)f(e_G')。f(a e_G)=f(a)。よって、f(a)f(e_G)=f(a)。f(e_G)は単位元であることがわかった。

また、f(aa^-1)=f(a)f(a^-1)、f(aa^-1)=f(e_G)=e_G'よりe_G'=f(a)f(a^-1)が示せたので移項すればf(a^-1)=f(a)^-1が示せる。


準同型写像の核(Kernel of Homomorphism)

fをG、G'間の準同型写像とする。このとき、Kerfをf(x)=e_G'となるようなx全体と定義する。つまり、Kerf={x∈G|f(x)=e_G'}とする。このとき、Kerfをfの核と呼ぶ。


また、核を定義することにより、準同型写像の単射性の判定定理が記述できる。


核による単射の判定法

準同型写像f:G→G'について、fが単射であることと、Kerfが自明な群であることは同値

証明

fが単射ならば、Kerfが自明であることは自明であるので、逆向きを示す。

f(x)=f(y)ならばx=yを示せばよい。f(x)=f(y)ならば、f(x)^-1f(y)=e_G'。

f(x^-1)f(y)=f(x^-1y)=e_G'よりx^-1y∈Kerfがわかる。ここで、Kerfが自明であることを使えば、x^-1y=e_Gよりx=y。


準同型写像の像(Image of Homomorphism)

fをG、G'間の準同型写像とする。Imfをf(x)となるxが存在するg'∈G'と定義する。

つまり、Imf={f(x)∈G'|x∈G}と定義する。これを、fの像と呼ぶ。


核定理

fをG、G'間の準同型写像とする。Kerf◁G

証明

KerfがGの部分群であることを示す。部分群の判定定理を使う。x∈Kerf、y∈Kerfのとき、x^-1y∈Kerfを示せばよい。f(x^-1y)=f(x^-1)f(y)=f(x)^-1f(y)=e_G'e_G'=e_G'よりそれが示せた。

gKerfg^-1=Kerfを示す。f(gKerfg^-1)=f(g)f(Kerf)f(g^-1)=f(g)e_G'f(g)^-1=e_G'よりKerfの正規性が示せた。


像定理

fをG、G'間の準同型写像とする。Imf≦G'

証明

x、y∈Imfとして、x^-1y∈Imfを示そう。f(u)=x、f(v)=yとなるu、v∈Gが存在する。f(u^-1)=x^-1であり、f(u^-1)f(v)=f(u^-1v)∈Imfより、示せた。


同型(Isomorphism)

同型写像f:G→G'が存在したとき、GとG'は同型であるといい、G≅G'と表す。


同型が同値関係を成すこと

≅は次の三条件を満たす。

・G≅G

・G≅G'⇄G'≅G

・G≅G'、G'≅G''→G≅G''

証明

一つ目の条件はid:G→Gを作ると示せる。

二つ目の条件は同型写像f:G→G'の逆写像g:G'→Gが同型写像であることを示せば示せる。実際に示そう。f(x)=y、f(x')=y'とする。g(y)=x、g(y')=x'が同型写像であることを示そう。全単射であることは、fの全単射性からわかるので、準同型であることを示そう。g(y)g(y')=xx'、g(yy')=g(f(xx'))=xx'より、g(y)g(y')=g(yy')が示せた。

三つ目の条件は、同型写像f:G→G'、g:G'→G''の合成g◦fが同型写像になっていればよい。g◦f(xy)=g◦(f(x)f(y))=g◦f(x)g◦f(y)より、準同型であることは示せた。全単射であることも、fとgの全単射性からいえる。


いままでの概念の総まとめ的な定理が以下に述べる第一準同型定理である。


第一準同型定理(Fundamental Theorem on Homomorphisms)

Gを群として、f:G→G'を準同型写像とする。このとき、G/Kerf≅Imfである。

証明

Φ:G/kerf→Imfと定める。このとき、Φがwell-definedであることをまず示す。

gKerf→f(g)

gKerf=g'Kerfならば、f(g)=f(g')であることを示す。g=g'k(k∈Kerf)となるkが存在することが簡単にわかる。f(g)=f(g'k)=f(g')f(k)=f(g')。よってΦのwell-definednessが示せた。

ここから、Φの全単射性を示していく。Φが全射であることは明らか故、単射であることを示そう。Φ(x)=Φ(y)ならばx=yであることを示そう。Φ(gKerf)=Φ(g'Kerf)ならば、gKerf=g'Kerfを示せばいい。

f(g)=f(g')よりf(gg'^-1)=e_G'であるので、gg'^-1∈Kerf。g∈g'Kerfであり、gKerfは同値類故、gKerf=g'Kerf。ここまでの議論により、Φは全単射。

最後に準同型性を示そう。 Φ(gKerf*g'Kerf)=Φ(gg'Kerf)=f(gg')=f(g)f(g')=Φ(gKerf)Φ(g'Kerf)より示せた。


この定理は非常に基本的であり、かつ様々な定理の証明の目に見えるところで活躍する。たとえば、有限アーベル群の構造定理の証明、ケーリーの定理の証明等々。応用はまた次の群論を解説する回で紹介させていただく。


(ここの定理が足りないだろってところもあるかもしれませんが、そういうときはコメントで教えてください。)





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