10日目「コーシーの関数方程式」

関数方程式とは、例えばf(x+y)=f(x)+f(y)のように、関数の性質を示した式から、その関数を導き出す数学の一分野である。今回はf(x+y)=f(x)+f(y)を満たすR → Rの関数をある程度の縛りをつけて求めたいと思う。


微分可能性を仮定した場合

実際に微分の形を作っていこう。{f(x+h)-f(x)}/hはh → 0である一定の値に収束するので、それをf'(x)とおく。ここでfに成り立つ性質を使うと、f(h)/hがh → 0でCに収束することがわかる。xがどんな値でも、f'(x)=Cより、積分を使うとf(x)=Cx+Dと表せる。すなわち、f(x)が一次関数であることが必要条件である。しかしC(x+y)+D=Cx+D+Cy+Dが成り立つので、D=0でなければならない。よって、f(x)=Cxが成り立つ。これは、実際に十分条件を満たす。


連続性を仮定した場合

補題A

f(0)=0

f(0+0)=2f(0)。よって、f(0)=0


補題B

f(nx)=nf(x) nは非負整数。

証明

帰納法を用いる。n=0の時正しく、nの時正しいとして、n+1の時を示す。

f((n+1)x)=f(nx)+f(x)=nf(x)+f(x)=(n+1)f(x)

よって正しい。


補題C

f(-x)=-f(x)

証明

f(x+(-x))=0。f(x)+f(-x)=0より、f(-x)=-f(x)


補題D

f(zx)=zf(x) zは整数。

証明

BとCを合わせよ。


補題E

f(m/n)=m/n f(1) 但し、nは正整数、mは整数とする。

証明

f(n *m/n)は補題Bよりnf(m/n)と書ける。またf(n *m/n)=mf(1)と書けるので、等式、nf(m/n)=mf(1)が成り立つことがわかるので、f(m/n)=m/n f(1)が成立する。


ここで、連続性の仮定を用いると、任意の実数xでf(x)=xf(1)が成り立つことを示そう。どんなxに対しても、xに収束するような有理数列{p_n}が存在する。よって、f(p_n)=p_nf(1)より両辺極限をとって、f(x)=xf(1)が示せた。f(1)=Cと置けば、f(x)=Cxである。これは、条件を満たすための必要条件であるので、十分条件を確認すると、これは十分条件も満たす。よってf(x)=Cxと書ける。


全体の連続性を仮定しなくても、ある一点で連続であれば、全体として連続であるといえる。これは、簡単であるので演習問題としよう。


実は、ある区間の単調性、ある区間での有界性、関数の可測性のいずれかが成り立てば、f(x)=Cxがいえる。

逆に、それらの条件を課さなければ、fは無限に存在する(f(x)=Cxを除いて)。そのことは、選択公理を用いた、ある基底の存在によっていえる。その基底はハメル基底とよばれているものであり、ハメル基底の数だけ、fが存在する。ハメル基底は、濃度が連続体濃度であり、カントール集合の部分集合であるようにとれる不思議な基底である。


また、この問題の面白いところは、無限個ある候補が連続性を課すことにより単純な形に集約できるところである。直感を裏から支えてくれる、面白い定理である。




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