7日目「位相空間の操作によって集合を生み出す話」

クラトフスキという数学者の考えついた定理を解説しよう。この定理は位相空間論的な言葉で述べられるが、実際は代数の問題に帰着できる。それではこの定理の主張を見ていこう。



(X,O)は位相空間を為すとする。このときXの部分集合Aに対して閉包、補集合をとることを繰り返して得られる集合は高々14個である。


Aの閉包というのは、Aを含む閉集合すべての共通部分である。ここで、Aの閉包は閉集合であり、Aを含む最小の閉集合である。また、位相空間の定義の時に使われることもオールド・ファッションな場合ではあり得る。しかしながら、今回の定理に用いる閉包の性質は閉包をとるという操作をbで表すとするとb◦b=bのみである。(但し、◦は写像の合成を表す)


次に、補集合について説明しておこう。Aの補集合というのは全体集合(今回はX)のうち、Aの元でないものの全体である。しかし今回の定理で扱われるのは、c◦c=id(idは集合をそのままの状態で移す恒等写像)のみである。


さて、定理の証明をする前に、準備をしておこう。(X,O)からb、c、idという写像の存在が露わになった。そこに写像の合成という演算(◦で表すことにする)を入れる。そうしてid、b、cから生成されるモノイドM(X,O)をクラトフスキモノイドという。

(モノイドとは、ある集合と、その上に乗った演算に対して、単位元が存在して、すべての集合の元に対して結合法則が成り立つという状態を示す。群をより一般化した存在であると思える。)

(また、生成されるとは、指定された元たちの有限長の文字列を元として含んだ代数構造を作るということである。例えば、クラトフスキモノイドでは、もちろんb、cは元として含まれているが、そのほかにもbcb、cbなども元として含まれる。)

これと、先で説明しておいたb◦b=b、c◦c=id(以降、これを写像の関係式と略する)からは次の補題が導ける。


補題A

M(X,O)にはb、cが交互に連なった文字列しか存在しない。

証明

M(X,O)に含まれる元aについて交互に連なっていない文字列で生成されるとしよう。同じ文字が連なっているということはbb、ccのどちらか一方を文字列中に含んでいるが、結局それらは、写像の関係式より、b、idへと、簡略化されてしまうため交互にしか連なれない。それかidになるしかない。


例えば、bbcccbccbbbccはM(X,O)の元ですが写像の関係式より、bbcccbccbbbcc=bcbbbb=bcbへと簡略化できる。


そして、M(X,O)に、順序関係を定めてみたいと思う。具体的には、次のような順序を定める。


f,gをM(X,O)の元であるとして、f≦gを、Xの任意の部分集合Aに対してもf(A)⊆g(A)が成り立つことと定義する。


実際にこれは順序をなす。(読者への演習問題とする)


位相空間論の基礎を用いると次が成り立つ


補題B

f≦g→bf≦bg

f≦g→cg≦cf

I=cbcとおくと、

If≦f



補題C

bcbcbcb=bcb

証明

cbcbcb=Ibcbであるので、補題Bよりcbcbcb≦bcbである。補題Bよりbを左からかけると、bcbcbcb≦bbcb=bcb。一方でIbについて考えると、Ib≦bであるから、cbcb≦b。また補題Bから、bcbcb≦bb=b。さらに補題Bを用いて、cb≦cbcbcb。人生で最大のお願いなみに補題Bを用いて、bcb≦bcbcbcb。≦は順序なので、bcb=bcbcbcb。


順序の議論が面倒だったが、簡潔に証明できた。ここまで来れば、定理の証明は簡単である。

証明

M(X,O)にはb、cが交互に連なる文字列とidしか存在しないので、8文字以上で記述されるM(X,O)の元には補題C中の文字列が出てきてしまい、bcbにまとまってしまう。よって、後はM(X,O)の元を気合いで書き尽くせばよい。

M(X,O)={id,b,c,bc,cb,bcb,cbc,bcbc,cbcb,bcbcb,cbcbc,bcbcbc,cbcbcb,cbcbcbc}

(bcbcbcbがないと一瞬思ったかもしれないが、補題Cによってbcbと等しいので集合からは除かれる)


この定理は位相空間上で述べられる定理だが、その実、代数的な議論を用いて証明される(というよりも、命題自体代数味が強い)定理だった。とくに証明中に用いられたトリッキーな方法としては、モノイドに順序を設けて、各元の性質を探っていくというモノだと思う。やはり、情報がつけ足されている方が、より証明完了につながりやすいということだろう。いろんなモノに手を出すと収拾がつかなくなるが、位相空間論もいつかいろいろ書いてみたいと思う。








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