8日目「算術級数定理とそれの特定の形についての証明」

読者の皆様、ディリクレの算術級数定理についてご存じだろうか。これは、ユークリッドによる素数の無限性を一般化したものである。



ユークリッドの定理

素数は無数に存在する。



ディリクレの算術級数定理(弱い)

素数で、an+bの形をしている(但しa、bは互いに素)なものは無数に存在する。


命題中の素数をan+b型の素数と呼ぶことにする。またan+b型の素数では、a、bが互いに素であるとする。


算術級数定理のよく使われる同値な表現として次のようなものがある。



ディリクレの算術級数定理の言い換え

an+b型の素数は必ず一つは存在する。


無数に存在するというのを、ただ一つ存在すると絞っても同値であるということである。証明は簡単であるため省略するが、存在する→無数に存在する、というところだけ概略を説明しよう。


an+b型の素数pをとって、apn+b型の素数を考える。(ap,b)=1よりこのような素数は存在する。これを利用することで、示せた。


ディリクレの算術級数定理のディリクレによる証明の技法についても、歴史的背景とともに、少し解説しよう。


まず、オイラーによるζ関数を用いた素数の無限性の証明を見てみる。


証明

ζ関数のオイラー積を考える。s>1に対して、ζ(s)=Π(prime) p^s/(p^s-1)が成り立つ。ζ(s)はs>1で収束する。しかしながら、ζ(1)は発散し、そこまでは連続であるはずだから、ζ(s) → ∞ (as s → 1+0)。もし、素数が有限であるとすると、lim(s → 1+0)で右辺は自明に有限の値となる。これは矛盾。よって素数は無限に存在する。


オイラー積を利用した鮮やかな証明であった。他にもζ関数のs=2の値が無理数であることを用いても示せる。が、この方法は一般化がしにくい。

だから、ディリクレの方針はある関数Lを考えてそれのlim(s → 1+0)の極限をとって、次のような級数が発散することを示すことであった。


Σ(prime,p≡b (moda)) 1/p


つまり、ディリクレは、an+b型の素数が逆数和が発散する程度には多いことを示していたのだ。これは、an+b型素数が無数に存在することよりも強い結果である。


これは、解析的整数論の萌芽であり、近代整数論の幕開けであったように感じる。


しかし、算術級数定理を初等的に証明することを考えた人々がいた。この試みは現在すでに達成されていると考えられているが、それは、ディリクレのオリジナルの証明より、はるかに複雑なモノだった。つまり、初等的であるということは簡単であるということではないのである。しかし、a、bの組が特定の形の時にはより簡単な証明が知られている。





a=4、b=3の場合

証明

P=4Πp -1を考える。但し、積は4n+3型素数の、ある有限部分集合Sを渡るとする。注意としてSは空でない。ここでPはS中の素数で割りきることができない。Pは4n+3型の数をしている、合同式による議論により、4n+3型の素因数が奇数個存在する。つまり、Sの元でない4n+3型素数が得られた。


a=6、b=5の場合

証明

P=6Πp -1を考える。但しΠは6n+5型素数の、ある有限部分集合Sを渡るとする。注意としてSは空でない。ここでPはS中の素数で割りきれない。合同式での簡単な議論により、Pの素因数は6n+5型素数を奇数個含む。つまり、Sの元でない6n+5型の素数が得られた。


a=4、b=1の場合

補題

x^2+1型の数の素因数は2か4n+1型の素数である。

証明

x^2+1≡0 (mod p)である。式変形していくとx^2≡-1、x^4≡1 p≠2より-1≡1は成り立たない。すなわち、xはZ/pZのなかで、位数4である。ここで、ラグランジュの定理より、4|(p-1)が成り立つ。よって、定理が示せた。

証明

P=4(Πp)^2 + 1を考える。但し、Πは4n+1型素数の、ある有限部分集合Sを渡るとする。ここで、Sが空でないことに留意しておく。ここで、PはS中の素数で割りきれない。Pの素因数分解を考えると、Pは4n+1型素数を素因数としてもつ。よって、Sの元でない、4n+1型素数を得られた。


長くなりすぎたので、次回に本題に入ろうと思う。次回はb=1とbだけに制約がある場合もある多項式を使えば示せることを解説していきたい。





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