最強の冒険者編⑤
なんか、大きいおっさんがこちらを睨んでいる。
「や、やぁ、ジーク支部長。調子はどう?」
アレスは引きつった笑みを浮かべながら声をかける。
アレスが声をかけたにもかかわらず未だに無言でアレスを睨んでいるこの男こそ、冒険者ギルド、グラシア支部をまとめ上げる支部長、ジークである。
ジーク支部長はしばらく無言でアレスを睨み続けると、おもむろに口を開いた。
「アレス。やってくれたな。」
ジーク支部長は短い言葉を発してさらに、アレスを睨みつける。
「支部長違うんだよ。お、俺はたまたまクラン会の前に長期の依頼を受けてしまってたんだよ。だからしょうがない。決してさぼったわけじゃ。」
アレスはジークの怒りから逃れるため、言い訳を始めた。だが、そんな言い訳をジークが許すはずもなく、ジークはアレスへの怒りをより一層深めた。
「アレス、てめえがクラン会をサボったせいでこっちは言われたい放題だったぞ。所属している冒険者を制御できていないやら管理能力が低いやら。」
ジークは抑えきれない怒りを全く隠すことなく発していた。アレスはジークの怒りを鎮めるため落ち着かせようとする。
「支部長落ち着いて、サボったことは謝る。でも管理能力が低いのは今更じゃないか。」
アレスの余計な一言により、さらにジークの怒りが増す。
「ぶち殺すぞ。アレス!」
今にも暴れだしそうなジークを落ち着かせることは不可能だと悟ったアレスは、
「そもそも僕をクラン会に指名した支部長が悪いんだろ。」
逆ギレした。
「てか、最初は断っただろ。それをこの指名を断ることは許さんとか言って無理矢理受けさせたのは支部長だろうが。僕は悪く」
そこまで言ったところで頭上から拳が降ってきた。ついにジークの怒りが頂点に達し、特大のげんこつを振るってきたのだ。アレスはとっさにその拳をよけると臨戦態勢をとる。ジークが振るったげんこつは容易くギルドの床を貫いていた。現在は引退しているが、ジークは元冒険者だ。Sランクまで上り詰めたその拳は直撃すれば常人なら簡単に死ぬ。
「あーあ、良いのかギルド壊して。また怒られるよ。」
もはや、ジークは言葉を返すことなくアレスに向け拳を振り下ろす。
「当たったらしゃれにならないんだからやめようよ。」
ジークの拳をなんなく避けながらアレスは軽口をたたく。
アレスのその様子が気に食わなかったのか、さらに拳を振るう。
「きりがないな。」
そうつぶやいたアレスは、このままじゃ事態が収まらないと察してジークを止めようとする。
「仕方ない。」
普通にやっても止まらないと確信したアレスはジークの拳に合わせ、回し蹴りを放つ。アレスの足とジークの拳がぶつかり、両者が弾かれる。拳が弾かれたことで少し正気に戻ったジークは目の前のアレスを見つめる。
「少しは落ち着いたかい?支部長。」
目の前のアレスを睨みながら、ジークはこの男がどんな人間なのかを思い返す。
アレスは現役時代のジークよりも上のランク、この国にたった二人、世界にも5人しかいない、世界最強と呼ばれるSSランク冒険者なのだ。
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5話です。
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