第56話 滅亡を回避せよ! 4 数だけが力ではないのだよ

 二人を抱えてスキルで飛んだ。

 スキルの名前は空駆ける巨体ペガサスボディ

 効果は飛行に加えて体勢安定化、物質軽量化、飛行速度上昇など。まさに飛ぶためのスキルだ。


「アダマ。少し行き過ぎている」

「悪い! 」


 よく見ると予定の位置よりも離れてしまっていた。

 天駆で駆けあがって来るシグナの元に戻り戦場を見下ろす。


 今回の俺達の目的は戦線を少しでも持ち上げること。

 だからあまり最前線から離れる訳にはいけない。

 しかし最前線から距離をとらないとエリアエルの魔法の巻きえになる。

 よってある程度は離れないといけないんだが……。


「では勝利への第一撃を放ちましょう! 」


 そう言いながら俺の腕の中で魔杖ステッキを下に向けた。

 本来ならば中央辺りにどでかいのを一発ぶち込んでも良いのだが、それだと連合軍側に魔物達が押し寄せる可能性が出て来るとか。

 よって展開されていく赤い魔法陣は少し前線に近い。


「打合せだと通常魔法で行くはずだが……大丈夫か? 」


 相手には神壁がある。

 普通の魔法で破れるか心配だ。


雑魚ざこ相手なら高火力で押せば倒せます」

「エリアエルの魔法は高火力ではなく超火力と思うがな」

「……今度隊長に向かって打ちましょうか? 」

「止めてくれ。洒落しゃれにならん」


 背中で隊長が言う。

 そしてエリアエルの準備が終わったようだ。

 下を見ると幾十の赤い魔法陣が描かれていた。


「では行きます。火球豪雨ファイアーボール・レイン


 唱えた瞬間、下から轟音ごうおんが鳴り響き、魔物達は悲鳴を上げることなく蒸発していった。


 エリアエルに聞くところによると『ファイアーボール・レイン』と呼ばれる魔法には幾つかあるらしい。

 ファイアーボール・レインは放たれる火球の大きさ、温度、展開範囲によってそれぞれ異なるらしいが詳しい事は分からない。

 しかし一つだけわかる事がある。

 それは、——この魔法を決して人に向けてはいけないものだということだ。


「……やり過ぎだな」

「そ、そのようなことはありません! それに敵は多いのです。やり過ぎくらいが一番いいのです! 」

「これ隊長達を降ろせるか? 」


 本来の予定はエリアエルの魔法で前線にいる魔物を殲滅せんめつし、そこに隊長達を降ろして敵をぎ払っていく予定だった。

 しかし地面は超温に焼かれてグツグツとあわ立っている。

 危機感のない魔物がそこに足を踏み入れ蒸発していくのも見える。

 ここに隊長を降ろすわけにはいかないな。


「……ま、仕方ない。こうなる可能性も十分に考えられていた」

「隊長は予測してたのですね」

「無論だ。私は君達の隊長なのだから。故に! 」


 なんだ。何か嫌な予感がする!!!


「私も人暴れしようじゃないか! 召喚サモン: 神滅軍隊インバース・アーミー! 」


 隊長が唱えた瞬間、魔法陣が展開される。

 そこからいつもの騎士人形が出てきた。


「お呼びにぃぃぃぃぃぃ……」

 

 ……あわれ騎士人形。

 クラウディア隊長に挨拶しようとして落下した。

 しかし無事に着地できたようだ。


 騎士人形の無事を確かめた隊長は更に騎士人形を召喚していく。

 そして全員が何か言い終わる前に落ちて行った。


「ではアダマ君。私を降ろしてくれ」

「了解しました」


 隊長の声で俺は騎士人形達がいる所に着地する。

 そして隊長が声を張り上げ、スキルを発動させた。


気合いを入れろゲット・ガッツ! 」


 一瞬騎士人形達の体が光り強化されていく。

 隊長の配下軍隊強化スキルの一つだ。

 更に相手を弱体化させるスキルを発動させて準備を終えた。


「さぁ、行くぞ! 」


 こうして殲滅戦が始まった。


 ★


「これならば地獄のスケルトンの方が強かったですね。召雷コール・サンダー


 雷鳴がなったかと思うと正面の魔物が白雷ハクライに打たれて倒されていく。


「しかし人手が足りないな」

「この人数で敵を全滅させるのは無理がありますよ」

「気乗りしないが……ここは私に任せろ。開け、館への門よ! 英霊召喚エインヘリアル


 シグナが剣を天に掲げたかと思うと「ゴン! 」と音が戦場に鳴り響いた。

 何だ!?

 俺が驚いていると上空に巨大な門が出現した。

 そして門はゆっくりと開き——多くの人らしきものが出現した。


「久しいの。シグナの嬢ちゃん」

たまには私達を呼んでって言ったのに呼んでくれないなんて」

「おい爺達。こっちと向うでは時間の流れが違うのを忘れていねぇか? 」


 出て来たのは武装した人達だった。

 しかし体はうっすらと透けている。

 一瞬ゴーストかレイスと思ったが、シグナのスキルで召喚されたから違うだろう。


 そして彼らは俺達を見下ろし、周りを見た。


「なるほど。こいつらを倒せばいいんだな」

「久々に来たんだ。一暴れしようか! 」


 口々に言いながらいつの間にか武器を手に取っていた。

 そして彼らは魔物に向かって行く。


「……なんだ。あいつら」

「……試練の時に戦った奴らだ。スキルを会得えとくした時に召喚できるようになったんだ」


 そう言いながらシグナは迫りくるオーガを切り裂く。

 俺は集団で襲い掛かってくるゴブリン・ファイター達を千手連打ヘカトンケイルで瞬殺しながら呟いた。


「しかしこいつらに恐怖はないのか? 」

「確かに。普通の魔物ならば一旦引いている場面だな」


 魔物達にも一定の知性のようなものはあるようで。

 例えば一方的に魔物達を倒していると他の魔物はその場から逃げ出すことはよくある。

 しかし彼らにそれは見られない。

 引けない何かがあるのか、それとも別の理由か。


 考えつつもオークを回しりで遠くに吹き飛ばす。

 カエサル隊の皆を絶対守護領域イージスの範囲に入れるのを忘れずにひたすら敵を倒していく。


「皆さん。少し衝撃に耐えてください! 」

「おいエリアエル! この場に乗じて何をするつもりだ! 」

「これほどの魔物がいるのです。使える手は幾つでも使うのが定石でしょう」

「だからと言ってエリアエルの魔法は洒落にならない! 」

「大丈夫……だと思います。さぁ行きますよ! 」

「いや待て。誰も了解していない!!! 」


 俺の言葉に耳を貸さすエリアエルは魔法の詠唱をしていく。

 危険を察知したのかシグナや隊長、そして神滅軍隊インバース・アーミーに英霊達までも俺の周りに寄って来た。


「お邪魔するわよ」

「ちょっとあの嬢ちゃんがやろうとしていることは洒落にならん」

「済まぬが我々も貴君きくんの防御範囲に入れてくれ」


 その言葉に無言で全員範囲に入れる。

 定員はないので別にいいが、それほどまでにヤバいのか?!

 と思っているとキラキラ光る黒い魔法陣が上空に展開されていく。


 ……よくはわからないが、ヤバそうな気配はビシビシと感じる。


 これ、俺のスキルで防ぎきれるのか?

 そう思っている間にエリアエルは魔法の準備が出来たようだ。

 魔杖ステッキを敵に向け唱える。


超新星爆発スーパー・ノヴァ!!! 」


 大地がれ——地上の魔物は消滅した。

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