第55話 滅亡を回避せよ! 3 アダマ 飛ぶ

「我々は独自に動くが構わないな? 」

「好きにしてくれ」


 疲れた表情の司令官がそう言い俺達は部屋を出た。

 ここはアルメス王国と死の大地の境界きょうかい線で魔物との戦いの真っただ中である。

 しかし現在一般兵士は休憩中。

 彼らが休んでいる間、魔法使いと神官が防壁を張っているらしい。


「軍の作戦は聞いているな? 」


 隊長が歩きながらそう言うと俺達は一斉に頷いた。


 現在最前線であるここでは剣士と盾役の波状攻撃のような事が行われている。

 まず何重にも強化さた盾役が魔物を受け止める。

 そしてタイミングを見て剣士が敵を倒し、後退させ、盾役が受け止める。これを何十何百と繰り返しているようだ。

 魔法使いはというとその間に魔力を溜めて神官と共に防壁を張る。

 防壁を張っている間に前衛が休むと言った感じだ。


「単純で危なっかしい作戦だ」

「しかしこれしか方法がなかったのですよね? 」

「そうだ。幾ら城壁があるとはいえ破壊されたら国はすぐそこ。よって城壁にダメージを負わせるわけにはいかないのだよ」


 そう言いながら俺達は砦を出る。

 視界が開けるとそこには様々な服を着た軍関係者が見える。

 様々な国から集めたからであろう。所属を示すマークが違う。

 しかし俺達アルメス王国も独立ダンジョン攻略部隊と正規軍では軍服や所属のマークが異なる。

 それを考えると独立ダンジョン攻略部隊はダンジョン都市国家連合軍の縮小バージョンと言ってもおかしくないだろう。


「しかし隊長。俺の竜鱗ドラゴンスケイルの事は話さなくてよかったので? 」


 前線に向かうため俺は移動しようとしている兵達を横に歩きながらクラウディア隊長に小声で聞いた。


「構わないだろう。まず信じないだろうしな」


 隊長は俺の方を振り返り小さく返してくる。

 確かに信じられないよな。うろこのような物がでて彼らを守ると言われても。

 これが知れ渡ったスキルならば信じてもらえるのだろうが、そうではない。

 信じてもらえないのならば言わないのも一つということか。


「それにもし君の防壁が破られた場合を考えると話すことはデメリットにもなる」

「そうですか? 」


 俺が聞くと隊長は周りを見て俺に言う。


「確かに彼らは一流の軍人だろう。今まで耐え抜いていることを考えても、例え君の防壁が破られたとしても生き残る可能性は高い。しかし君の防壁を事前に知らされ信じた場合、破られたことでパニックにおちいる可能性がある」

「パニック? ですか」

「あぁ。しくも我がカエサル隊は英雄部隊と呼ばれるほどに名を上げた。その盾役大黒柱である君のスキルが破られたのだぞ? 慌てていらない被害を出しかねない」

「そういうものなのでしょうか? 」

「そういうものだ」


 隊長は答えながらも先に進む。

 そして——。


「さぁついたぞ。ここが私達の——戦場だ」


 ★


 蒼白い防壁が徐々に消えていく。

 それに応じて緊張が走る。

 前を向くと盾役の男性陣が大盾を構えて進んでいた。


 本当の盾役はあれの事を言うんだよな。

 少なくとも体一つで敵陣に突っ込む人の事を示す言葉じゃないな。


「緊張しているのですか? アダマ」

「おいおい何ビビってんだ。今までに比べれば雑魚ざこだろ」

「確かにそうだがな」

「おい! 油断するなよ。ここからは何が起こってもおかしくない! 」


 茶化ちゃかしてくるエリアエルとシグナに一喝いっかつするクラウディア隊長。

 しかし持つむちが彼女の緊迫感を全て台無しにしている。


「防壁が解けるぞ! 総員、盾を構え! 」

「アダマ。あれは気にするな。私達には私達の役割がある」

「分かっていますよ」

「ならば良い」


 そう言いながら隊長は背中から俺の首に手を回した。

 足も回しておんぶ状態になる。


「わたしは飛行フライの魔法が使えませんからね」


 そう言いながらエリアエルは俺に近付いてきた。

 隊長をおんぶした状態で彼女をお姫様抱っこする。


「くそっ。天駆を覚えなければ私もっ! 」

「いや出来れば自分で飛んでほしい」


 重くはないが女性二人を支えるという戦場にはふさわしくない奇妙な格好になってしまった俺。

 周りがざわめく。

 俺は羞恥しゅうちで死にそうだ。


「じゃぁアダマ君。作戦通りだ。任せたよ! 」

「わかりました! 」


 隊長の声で俺はスキル『空駆ける巨体ペガサスボディ』を発動させた。


 ★


「おや? あそこで乳繰ちちくり合っているのはクラウディアじゃないかい」

「ほ、本当ですね。ひぃ! 人がぁ! 」

「……いい加減君も人見知りを治したまえ」

「む、無理ですぅ」


 カエサル隊から少し離れた場所にスミス隊はいた。


 彼らの役割はこの戦場における物資の手入れと記録。

 スミスは盾や剣の修理、ヒステリカは記録となる。

 他にも隊員はいるが薬の調合などでこの場にいない。

 と言うよりも生産職である彼女達が、少し離れているからと言っても前線に出ることがおかしい。


 ならば何故ここにいるのかと言うとヒステリカの記録の為だ。そしてスミスは彼女の付き添いをしている。

 研究職とは言え二人共独立ダンジョン攻略部隊に所属している。その戦闘力は一般兵のそれを大きく上回る。

 アルメス王国の独立ダンジョン攻略部隊と言えば奇人変人の集まりで有名。

 彼女達の行動を予測できるものなどいない。

 

 ヒステリカは前を向き集中する。

 即座に紙にペンを走らせ歴史を記す。


 極度きょくどの人見知りで極度の歴史オタクなヒステリカ。

 何時もならば本を読み文献ぶんけんあさる程度なのだが、邪神のダンジョンの発生と言う歴史的な出来事が起こり「記す側」となった。


 常人ならば戦場の気に当てられてまともな思考すらできない状況での記録。

 様々な声が飛び交う中彼女は拾い上げ、記載していく。


 異常な集中力。

 これが彼女をスミス隊の一員としている力の一つだった。

 

「ヒステリカは使い物にならないが……、本当にあいつら何をやっているんだ? 」


 顔を上げ一人の大男にくっつくクラウディアを見てそう呟いた。

 少しかがんだかと思うと少女を抱えている。


 そして——。


「飛んだ?! 」


 そう、飛んだのである。

 人間二人を抱えて飛んだのである。


 それに続くかのようにもう一人の隊員も飛ぶ。

 恐らくスキルの一つだろうとスミスは予測するが、彼らの次の行動に大笑いした。


「はははははっ! これはやられた。確かに常套じょうとう手段ではあるが、こんな所でそれをやるかい! いやそれでこそ『独立ダンジョン攻略部隊』だ!!! 」


 こうしてアダマ達の伝説が始まった。

 ヒステリカが残すその一ページを誰かが読むときっと空想だと笑うだろう。


———

 後書き


 こここまで読んでいただきありがとうございます!!!


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