第54話 滅亡を回避せよ! 2 リリシアサイド

 死の大地。アルメス王国側の戦況。


 荒廃こうはいした土地をくさんばかりにいる魔物達をダンジョン都市国家連合軍が抑え込んでいる。

 屈強な男達が巨大な盾を前に構えて抑え込み神官達が神聖魔法を付与した兵士達が切り刻む。


「ギギ! 」


 最前列を倒した後兵士達はすぐに退却し入れ替わるように盾役が再度前に出る。

 一瞬でもタイミングがズレれば兵士は魔物の餌となり戦線が崩壊するような状況での攻防。

 それを何十何百と繰り返し今彼らはここにいた。


「準備出来たぞ! 」

「よし。防壁を張れ! 」


 ダンジョン都市国家連合軍の誰かが言った。

 同時に各国の魔法使い達が魔杖をかかげて詠唱を始める。

 魔法の詠唱の間をうかのように高位神官達の詠唱が割り込む。

 そして魔法が発動した。


 蒼白い防壁が辺りを包む。

 多くの魔法使い達が力を合わせ、通常では考えられないほどの範囲に魔法防壁を張った。

 加えて神官達が使った技術は『術式介入』と呼ばれるものである。


 通常ならば魔法名のみで発動する魔法。

 しかしわざわざ、——本来省略されるべきではない——詠唱を行ったのは彼らの魔法に神聖魔法を差し込むためであった。


 結果は上々。

 蒼白い防壁が張られて一気に緊張が解けた。

 これで一旦は安全圏が出来たと言っても過言ではない。


 魔物達が防壁に阻まれ動けない事を確認した前衛は安堵する。

 そして彼らは休息をとるために一旦砦の中へ入った。

 

 血の臭いただよう戦場の様子を砦の頂上から見る一つの影がある。

 白い法衣に身をまとった彼女は長い金髪と金色の瞳をしている少女。

 この戦場には似つかわしくないその可憐かれんな姿に誰しもくぎ付けになるだろう。


「リリシア様。万が一がございますので、せめてアルメス王国内へ」


 彼女の護衛だろうか。腰に長剣ロングソードを携えた女性が彼女に帰還するように求める。

 しかし彼女から反応がない。

 反応しないのではない。反応できないのだ。

 

 (これが戦場……)


 神託の巫女『リリシア』は初めて見る戦場に顔を青ざめていた。


 リリシアは持って生まれた人物である。

 幼いころから修道女シスターとして大事に育てられた。

 それは彼女が保有しているスキルが関係する。


 彼女が持つスキルは『神聖魔法: 上級』と彼女の代名詞でもある『神託』だ。


 教会でもまれにしか発生しない神託持ちとの事もあり特別視されうやまわれている。

 彼女の発言権も絶大だ。

 当初彼女を利用して自身の地位を上げようとした両親よりもはるかに強い。

 少し言葉を放てばそれは「神の意思」ととらえられることもあった。

 彼女もまた孤独なのだ。


 しかしある時彼女に「本当の神託」が降りた。

 いわく、「近い時期、この世界は滅びるだろう」と。

 それに過敏に反応したのは司祭達だった。

 彼女の言葉をどうとらえるかでめたが、結局の所各国首脳陣に伝えるにとどまった。


 そしてこのダンジョンスタンピードである。


 『言葉には責任が伴う』


 これを良く知っているリリシアはパニックになる世界を見て自分を責めた。

 もう少し言いようがあったのではないか。もう少し解釈の仕方を換えればパニックにならずに済んだのではないか、と。


 結果的に彼女が受けた神託は正解なのだが、言葉の責任を感じた彼女は初めて戦場へ出た。


「リリシア様」

「……大丈夫です。一旦砦に戻りましょう」


 そして彼女は下へ向かった。


 ★


 リリシアとその女護衛は砦の階段を下りていく。

 すると兵士の声が彼女に届く。


「――でよう。俺達の国にはカエサル隊ってのがいるんだ」

「あぁ。最近有名なやつらだよな? 」

「そうそう」


 と声がどんどんと大きくなる。

 リリシアは彼らが疲れているのではないかと心配したが、どうやらまだ元気なようだ。

 少しホッとしながらも更に一階に近付く。


「そういやこの前も試練の塔を攻略してたな」

「……お前アルメス王国のやつだったよな。カエサルって言えば、カエサル王国じゃねぇのか? 」

「俺もこの前知ったんだが、そのカエサル王国の第一王女が隊長らしい」

「……待て。カエサル王国の第一王女と言えば、あの人喰らいマンイーターか?! 」

「確かにそうだが今は陛下より黒の指揮姫プリンセス・コマンダーさずかっている。下手に人喰らいマンイーターって口にすると、この戦いが終わってもお前と会えないかもしれないからやめておけ」

「おおこわっ! 」


 リリシアが彼らの前に姿を現す。

 すると一人の兵士がおどけたような顔をしていた。

 そしてその場にいる数名の兵士達はリリシアに気が付いたのだろう。

 全員顔が硬直し、動かなくなった。


「あ、あの。私の事はお気になさらず……」

「い、いえ。流石にそれは——「やぁやぁ脳筋諸君。研究の時間だ! 」……」


 オロオロするリリシアに兵士が頭を下げようとしたら「バン! 」と扉が開く音が聞こえて二人の女性の声が聞こえた。

 その場にいる者が唖然あぜんとする中その女性は兵士に近寄る。


「さぁインタビューの時間だ。ヒステリカ。歴史を刻む時間だ! 」

「げ?! スミス隊マッド! 」

「敵のっ! 敵の強さはどうでしたか! 戦況は! 」


 リリシアは兵士に猛突進して話を聞こうとするヒステリカを少しうらやましく思った。

 あれほどまでに自由に言葉をつむげたらどれだけ楽しいのか、と。


「おいそこの君。君も戦いに参戦していたのかい? 」

「貴様! リリシア様に——「み、見ているだけでした」。リリシア様?! 」

「ほう。それは重要だ。肌で感じる敵の強さを知るのも良いが、上から見る戦況の変化・敵の脅威度の把握はあくはとても貴重だ。是非話を聞かせてくれたまえ」


 女性が聞く。しかし護衛が止める。


「リリシア様。このような明らかに怪しいやからに話をしなくてもかまいません! 」

「怪しいとは言ってくれるじゃないか。これでもアルメス王国独立ダンジョン攻略部隊『スミス隊』の隊長なんだが」


 スミスが護衛に反論する。

 しかし彼女は本気で止めようとする護衛の言葉に不快感を感じていないようで、形式上身分を明かしているだけに見える。


 護衛がスミスを睨む中リリシアは口を開いた。


「わ、私が見たことでよければ」

「リリシア様?! 」

「協力感謝するよ。さぁ! あのヘンテコ魔物を攻略しようじゃないか!!! 」


 リリシアはスミスにすべてを話す。

 するとスミスは急に考え込んでその場を離れた。


 スミス達はこの軍の司令官の元へ向かいリリシアが見たものを伝えた。

 そして彼女の提案の元再度陣形は変えられ、作戦は組み直されていく。


 しかしその作戦は圧倒的強者の登場によって必要のないものとなるが。

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