第53話 滅亡を回避せよ! 1 作戦会議

 少しの時間待機室で待った後声がかかった。

 そしてそのまま謁見の間へ行き王様と会う。

 緊急との事で堅苦しい合図はなしで話は進む。


「まずカエサル王国での一件。大儀たいぎであった」

「おめに預かり光栄でございます」

「しかし死の大地での突然のダンジョン発生。そして報告にあった無効化スキル保有魔物のスタンピード。頭が痛い問題ばかりだ」

「やはり無効化スキルを保有している魔物が確認されているので? 」


 クラウディア隊長が聞くと王様は大きく頷いた。


「厄介きわまりない。最初は弱い魔物とあなどり突撃したもに被害が出た。その後正体がわかるとすぐに守勢しゅせいてんじさせ国内に魔物が入らないようにしているのが現状」

「……軍の者はそれで言うことを聞くので? 」

「最初は反発があった。無論功績を焦り突撃していく馬鹿もいた。しかしその馬鹿共が単なるゴブリンやオークにやられるさまを見てすぐに協力的になった」


 そう言い王様は大きく溜息を吐いた。

 顔がどこか疲れている様子だ。

 だが仕方ない。これは魔物との戦争のようなもの。

 気疲れしない方がおかしい。


「現在カエサル王国と協力し死の大地との境目さかいめで魔物を抑えている」

「何か倒す手段はあるのですか? 」

「根本的な解決にはなっていないが土属性魔法を上から浴びせ生きめにする程度、だな。だがカエサル隊が戻り状況を打破だはできる可能性が出て来た」


 さっきまでの疲れた表情から一転、きりっとした目で俺達を見る。


「何でも君達は無効化スキル保有魔物を倒したことがあるとか」


 王様が言っているのは東区ダンジョンの事だろう。

 だが試練の塔で隊長達も無効化スキル——邪神の神壁を破る手段を得ている。

 よってその言葉は全員に当てはまる。


「ならば君達にたくそう」


 そう言いながら王様は席を立つ。

 そして俺達を見下ろしながら言った。


黒の指揮姫プリンセス・コマンダー『クラウディア・カエサル』。不滅の守護者イモータル・ガーディアン『アダマ・タイト』、戦略級魔導士タクティクス・マギ『エリアエル・マーリン』、救世の戦乙女デッド・オア・アライブ『シグナ・ルーン』をひきいて——出撃せよ」


 こうしてカエサル隊の出撃が決まった。


 ★


 俺達は歩きながら作戦会議室へ向かっている。

 いつもと異なり兵舎へいしゃはがらんとしていた。

 きっと皆出撃したのだろう。


「大変なことになりましたね」


 久しぶりの兵舎でエリアエルが言う。

 それに俺達は大きく頷いた。


きはしないが少々トラブルは勘弁してほしいものだ」

「前回のトラブルの元は隊長だったと記憶していますが? 」

「そんなことはない。元を正せば私を国に帰層など考えたアルメス王国が悪い」

「それは隊長が家出しなければよかったんじゃ? 」


 シグナが言うとクラウディア隊長がにらみつけた。


「言うようになったじゃないか、露出狂」

「ちょ、冗談ですって隊長」

「ふん。まぁ良い」

「確かに隊長は国に何も言わずに出たみたいですが、俺はそのおかげで皆と会えたので良かったと思っていますが」


 そう言うと全員ピタリと止まった。

 ん? 俺変な事言ったか?

 そして皆は俺を見上げて少しニヤニヤした。


「確かにそうだな。私が家出したおかげでこの巡り合わせがったのだ」

「……わたしもアダマと会えてよかったと思いますよ」

「だな。ダンジョンでハッスルできるしな」

「「「いや、それは……」」」

「み、皆だって似たようなものじゃないか! 」


 シグナが心外だと言わんばかりに声を上げた。

 クラウディア隊長が、エリアエルが、シグナが口々に言う光景。

 それを見て少しほほゆるむ。


「おやどうしたのだい。アダマ君」

「わたし達の言い争いがそんなに面白いですか? 」

「言い度胸をしているじゃねぇか。今度また斬らしてくれ」

「それは断る! 」


 あ、危ない。

 事あるごとに俺を斬ろうとしてくるシグナ、恐ろしい。


「いやいつものカエサル隊だな、と思っただけです」

「軍ぞくなのに緊張感が無いということかね? 」

「そう言われると少し腹ただしいものがあります」

「よし。一回斬らせろ」

「いやだから斬らせないよ?! 」


 カエサル王国から帰り緊張が途切れたのか欲望に忠実ちゅうじつになるシグナ。

 例えスタンピードを抑えることができたとしてもシグナが犯罪者になりかねない。

 どうにかして見張っておかないと。


「……どうした? 私をまじまじ見て」

「あ、いやすまない。不快だったか? 」

「そのようなことはないぞ。んんっ……ぞくぞくするじゃないか」

「「「うわぁ……」」」


 最近やたらとおとなしいと思っていたが、やはりシグナはシグナだった。

 久しぶりに体をほてらせ興奮する彼女を見て俺達は一斉に引く。


「お、おい。そんなに引くことはないだろ?! 」


 シグナが心外だと言わんばかりに俺達に言うが、俺達とシグナの心の距離は彼女の足の速さのごとく離れて行く。

 手を伸ばし「待て」という彼女を置いて俺達は作戦会議室へ入った。


 ★


 作戦会議室で少し話を詰めている時ノックの音が部屋に響いた。

 どうやら城の人が命令書を持ってきたらしい。

 文官が戻って行くと隊長は中身を確認する。

 そして俺達の方を向いた。


「どうやら私達が帰ってくることを見込んで作戦を考えていたようだ」


 そう言い紙をひらひらとさせる。

 座ったままクラウディア隊長は内容を言う。


「今回は事の重大性をかんがみてダンジョン都市国家連合軍が派遣はけんされている」

「ダンジョン都市国家連合軍? 」

「あぁ。この周辺のダンジョン都市国家からなる一つの軍隊のようなものだ。加盟国のいずれかが脅威にさらされた時派遣されるのだが、今回がその例だな」


 それにごくりと息を飲む。

 本格的に他国も参戦しているのか。

 緊張するな。


「加えて、今回教会から神官兵も派遣されている」

「「「神官兵? 」」」

「聞きなれないとは思うが、要は冒険者パーティーに所属する神官達を思い浮かべてくれればいい。だが今回冒険者パーティーとは異なる点がある様だ」

「異なる点、ですか? 」

「……通常表に出ない高位神官が出てきていることだ。エリアエル」


 それを聞きエリアエルとシグナが驚いたような表情をした。

 詳しく聞きたいが、後にしよう。


「通常神官と言えば回復役だ。時には強化を行う者もいるが例外だろう。しかしながら今回派遣されている神官兵は回復や強化を行う役として派遣されているのではない。その役割は——付与だ」

「「「??? 」」」

「神官兵の中に『神託の巫女』リリシアの名前もある。邪神教団が動くことを予見よけんしていたのだろう。彼らは集まり大勢で詠唱することによりおのれの神聖魔法を他者に付与することができる。それにより通常攻撃が効かない邪神の使徒に傷をつけることができるそうだ」


 私達ほどの火力は出ないが、と隊長は付け加えて続けた。


「それにより魔物達を押し返すことに成功しているようだが……、全くこんな情報を持っているとは。本当に食えない聖職者達だ」


 クラウディア隊長が不機嫌に言う。

 つまり無効化スキルを知って、なおその情報を極秘にしていたということか。

 隊長じゃなくても良い印象は受けないな。


「しかし戦力になっているのは間違いない。これより我がクラウディア隊が出、攻勢に出る! 行くぞ。お前達! 」

「「「はっ! 」」」


 そして俺達は死の大地を目指した。

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