第57話 滅亡を回避せよ! 5 スミス隊隊長の実力

 久しぶりに体に痛みを覚えた。


「いててててて!!! 」


 痛みと同時にエリアエルの魔法で巻き上がった砂塵が俺達に吹き付ける。

 視界を失い音のみとなる。

 俺達のはるか後方から悲鳴のような声が聞こえてくるが今はそれ所じゃない。


「大丈夫か! 」

「私は大丈夫だ」

「ったくエリアエルめ! 」

 

 クラウディア隊長とシグナが大きな声で「大丈夫」と伝えて来る。

 吹き付けてくる砂塵さじんが収まるまで痛みに耐える。

 徐々に痛みが引き、完全になくなった頃に砂塵が収まり目を開けた。


「……全滅じゃないか」

「どうですか! これが私の力です! 」


 エリアエルが小さな胸を張って威張いばって来る。

 だが俺は彼女に言いたい。


「物凄く痛かったのだが? 」

「……ここは戦場。何が起こっても仕方ありません」

「仕方なくないわ! これ俺がいないと仲間ごと全滅していたぞ! 」

「ア、アダマありきの魔法です。その辺は考慮して放っているので大丈夫です! 」


 は、反省してねぇ。

 これまで俺の耐性スキルは痛みを感じさせなかったんだぞ?

 それを遥かに上回る火力の魔法とか勘弁かんべんしてくれ。


「……助かったぞ、アダマ君。流石私の婿むこなだけはある」

「正直死ぬかと思ったぜ」

 

 俺も死ぬかと思ったぞ、シグナ。

 しかしずっとこうしているわけにはいかない。溜息をつきながら魔物がいた所を見る。

 そこには何もなかったように魔物がいなくなっていた。

 更にその先を見ると黒くよどんだものを見つけた。


「あれなんでしょうかね、隊長」

「恐らく邪神のダンジョンと呼ばれるものだろう」

「ならば一旦引き返し戦線をここまで上げますか? 」

「その必要はない」

「? 」

「我々は『独立ダンジョン攻略部隊: カエサル隊』だ! 無論、独立してダンジョンを攻略する! 」


 クラウディア隊長は声高らかにそう言った。


 ★


「いやぁすごい一撃だった」

「な、な、な、何ですかあの魔法!? 」

「エリアエル嬢の魔法だろう」

「それは分かりますが、いえそう言う意味ではなく」

「ヒステリカ。この世には信じがたいものは幾つもあるんだよ。だから今はあの魔法について考えるよりも記録することに注力した方が建設的だと思うけど? 」


 多くの兵士達が行きかう中唖然あぜんとしたヒステリカに注意するスミス。

 ヒステリカの仕事は記録だ。

 スミスの言う通り手を動かした方が建設的だが、ヒステリカが動揺する気持ちはこの場にいる者ならば誰もがわかるだろう。


 エリアエルが魔法を放った後、衝撃波やら砂塵やら訳の分からないものまで軍の方に飛んでいった。

 防御体制に入れた者は良かったが、そうでないものは見事に体にダメージを受けた。


 防御体制に入った者、つまりエリアエルの非常識な破壊活動の巻きえを日常的に受けているアルメス王国の軍人達の立て直しは早かった。

 彼らは即座に動き、前線を上げ、アダマ達が入っていった『邪神のダンジョン』から少し離れた所にキャンプを作り始めた。

 そして現在、遅れて他の軍勢がキャンプを作り始めた所である。


 ヒステリカが仕事モードに入ったことを確認しスミナは周りを見渡した。

 そして見覚えのある可憐かれんな少女が彼女に近付いていた。


「あ、あのっ! さっきの魔法は! 」

「おお。これはリリシア嬢じゃないか」

「リリシア様と呼べ! この不届ふとどき者が! 」

「悪いね。我々に常識という者は皆無かいむなんだ。それに呼び方何でどうでも良いじゃないか。護衛A」

「誰が護衛Aだ! 私は『神託の巫女』リリシア様の護衛というほまれ高いにんを受けた聖騎士『エルドリア』だ! 」


 スミスはそれを聞きチラリとリリシアを見る。

 すると顔色が暗くなったのを見逃さなかった。


 (これは大変だね)


「君がエルドリアでもドリアでもエルエルでも何でも良い。で一つ聞いても良いかい? 」

「何だ不届き者A! 」

「君はどのような権限を持って、そこの彼女と僕との会話に割り込んでいるのかな? 」

「! 」

「彼女が神託の巫女だろうが、伝説の聖女だろうが、何だろうが関係ない。彼女はリリシアという一人の女性だ。そもそもそんな些事さじを気にするようなやからは僕達独立ダンジョン攻略部隊にはいないからね」


 それを聞きリリシアは顔を上げて少し顔を明るくする。

 逆に護衛は顔を赤くしていた。


「こっ! ――」

「第一、もし彼女が権威けんいある人物でその行動が優先されると仮定しよう。ならば何故君は彼女の言葉を遮っている? 聖騎士だ、なんだ言って、結局他人の力をかさにする金魚のフンじゃないか。君は――黙り給え」


 スミスから言い知れない圧力が加わる。

 エルドリアに集中されたその力はどんどんと彼女を押しつぶしていく。


「はぁはぁはぁ……」


 神託の巫女・リリシアの護衛と言うこともあってその実力は保証されている。

 冒険者ギルドがさだめるランクにしてS。教会の最高戦力と言えよう。

 しかしそれを一睨ひとにらみするだけでひざを折らせるスミス。


 支援部隊とはいえ独立ダンジョン攻略部隊はやはり異常である。


 が急に圧力は消え去る。

 スミスがリリシアに興味を戻したのだ。


「で何だっけ? 」

「あ。今さっきの魔法について、……です」


 それを聞き「あ~」と気まずく頭をくスミス。

 正直に言うべきかはぐらかすべきか、彼女は悩むがリリシアを見て正直に答えた。


「実は僕もあまりわからない」

「そうなのですか?! 皆さんあれがわかっているかのようにすぐに動きましたので、てっきりなにかご存じかと」

「いやあれは分からないが、あれを打った人物のはた迷惑な魔法には慣れているからね。「いつものこと」、と思ってアルメス王国の軍人は動いたのだよ」

「そ、そうだったのですか」


 スミスの言葉を聞いて少ししゅんとするリリシア。

 スミスはさっきのやり取りにどこか彼女を気落ちさせる要素があったか考えるが答えは出なかった。


「なんであの魔法が気になったのかい? 」

「いえ、何となくですが……魔法陣が神秘的に見えたので」

「神秘的? 」


 スミスが聞き返すとリリシアは顔を上げて空を見た。


「どこか空に繋がっているかのようなそんな感じです……。あ! すみません! 」


 僅かな瞬間自分の世界に入ってしまったことを謝るリリシア。

 しかしスミスはどこか真剣な表情で考えていた。


「その話。詳しく教えてくれないかい? 」


 スミスはそう言いリリシアを勧誘した。

 スミス隊は研究者の集まり。

 もちろん魔法に関する研究者もいる訳で。


 これを機に魔法系スキルの実態解明が進むのだが、これはまた別の話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る