第51話 始動する悪
死の大地と呼ばれるところがある。
ここはダンジョンがひしめき合うダンジョン都市国家の中でもアルメス王国とカエサル王国の北側に位置している。
死の大地と呼ばれる通り食料が育たない。草木も生えず
よってアルメス王国やカエサル王国を含めた死の大地周辺各国の間で不干渉地域とした。
死の大地は犯罪組織にとってこれ以上ない隠れ家に思えるが実際そのようなことはない。
何故ならば食料もなければ水もない。
それこそ、そう。ダンジョンのような所がない限り。
★
時は少し
そこには黒い司祭服を着た男性『イビルガルド』と冒険者の
彼らは邪神教団員。
その中でも最も規模の大きな組織、『破壊の邪神』を
複数の団員が誰かわからない人を
運ぶ人が円の外側に着くと彼らを通すように二手に分かれる。
人が中央まで運ばれると呪文のようなものを唱え、イビルガルドとメアリの手により殺された。
異様。明らかに異様な光景だが、彼らは慣れているのか
そして一段落つき二人以外は解散した。
血生臭い中イビルガルドとメアリは向き合う。
イビルガルドが短い
「……試練の塔が攻略されたようですね」
「みたいだね」
「貴方も冷たいですね。我らが同胞カウツ・フォーシャが殺されたのですよ? 」
「かもしれない、でしょう? 」
メアリがそう言い少し詰まるイビルガルド。
「確かに試練の塔は攻略された。けれどあのドクだよ? 認めるのは
「……確かにそうですが」
「イビルガルドが彼の事をどう思おうと構わないけれどそれを僕に押し付けないでほしいな」
そう言われてイビルガルドは口を閉じる。
アダマ達はカウツ・フォーシャを討伐した。しかしその事実を知る方法はない。
彼らの情報の仕入れ方は原始的なもので、自分で出向くか団員から聞くかのどちらかである。
無論団員の中には
しかし幾つかの理由からそれらは使えない。
まずは
『魔法』系統のスキルは (例外を除き)それぞれに
念話や通話ならば傍受や魔力阻害、魔力
また距離の問題もある。
国境にいる各国の兵の対抗魔法をすり抜けてもカエサル王国と死の大地を
これらの他にも様々な要因が
少し黙るイビルガルドに「言い過ぎたかな」と反省するメアリ。
今日はいつものうざったい
「ま、脱出したのならこっちに来るんじゃない? 」
「……それにしては遅すぎる気がしますが」
「研究が命のドクだよ? どこかで
「そうだと良いのですが」
「あぁ~もう! イビルガルドが彼に肩入れするのは分かるけどさ。そろそろうざいよ! 」
メアリが叫んで怒る。
「そうですね。きっとどこか寄り道をしているのでしょう。彼とは約束しましたから。このダンジョン——『邪神のダンジョン』を我々の手で完成させると」
イビルガルドは天井を見ながら約束を思い出す。
『イビルガルド! 歴史に名を残す邪神のダンジョン。復活させてみないかい? 』
カウツ・フォーシャの言葉を。
イビルガルド自身その言葉がドク自身の研究意欲を満たすための
しかし、——メアリもそうだが心のどこかで
それは彼の本心であり、この世界を破壊する目的でもあった。
『本来死別するはずの友人と、親友と、家族と、恋人と——共に死ぬことが出来ればどれほど幸福なものか』
狂っている。
しかし、この狂っているほどの
故に誰にも理解されない。
故に孤独である。
しかし邪神教団の中で彼は孤独ではない。
同じ目的を持った
例えそれぞれの理由は
故に共に死ぬことを彼は望む。
故に世界を破壊することを彼は望む。
故に——ここにその友であるカウツ・フォーシャがいない事を
「あのドクだ。また
いつもの調子を取り戻したイビルガルドを見てメアリは少しホッとする。
次の作業に入ろとした時一人の団員が息を切らしながら二人に告げた。
「た、大変でございます! ドクが……同胞カウツ・フォーシャが倒されました! 」
その言葉に二人は固まる。
何を言っているのかわからない。
がイビルガルドが再起動し団員に詰め寄り肩を掴む。
「何を不確かなことを言っている! 」
「ほ、本当の事です! 」
「あのドクが、カウツ・フォーシャがやられるはずがないだろうが! 」
イビルガルドが強く言う。
メアリも「ありえない」と言い説明するように彼を非難した。
「そうだよ。嘘は良くない。ドクは完成された邪神の使徒となったんだ。もう彼に傷をつけることができる者はいないはずだ」
「ほ、本当の事でございます! ドクター・フォーシャに関する手配書が
イビルガルドはそれを聞きたじろいだ。
ありえない、とブツブツ言いながら黒い
イビルガルドの様子に団員は
「ドクが……やられた? ありえない」
「そんなバカな。神々の神聖な壁を超える者がいるというのですか」
ブツブツ言いながら二人の体は肥大化していく。
背中から腕が生え顔には複数の赤い目が浮かび上がる。
「ドク……。あぁ、我らが友——カウツ・フォーシャ。この世界を壊し、すぐに君の元へ行くよ」
イビルガルドらしき魔物から言葉が放たれる。
その瞬間二人の体から出る黒い瘴気がダンジョンを満たし、——邪神のダンジョンは完成した。
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