第50話 帰国の準備

 今回の難関ダンジョンは国家間の依頼と言うこともあり成功報酬の一部はアルメス王国に渡されるようになっている。

 しかしながら報酬は多く、また犯罪者討伐の褒美もあるので貰う金額は死者のダンジョンの時よりもはるかに多い。


 『カエサル隊の方々のおかげでカウツ・フォーシャを討伐できました。それに獅子しし身中しんちゅうの虫も』


 グローリア女王陛下はそう言ったが、後半の事はさっぱりだ。

 しかし役に立てて良かったと思う。

 なんだかんだあったが結果的に成功したのだから。


 試練の塔攻略後も数日カエサル王国の王城に泊まっている。

 本来ならば任務完了後すぐに帰るべきだろう。

 しかしカエサル王国側に引き留められ、アルメス王国からも「まだ居ても良い」と言われたら滞在たいざいするしかない。


 正直な所これをに観光がてら少し中央区へ出て様子を見てみたかった。

 しかし現在そこはお祭り騒ぎ。そしてそのお祭り騒ぎの張本人が行くとどうなるのか想像するまでもない。

 よって観光できず、こうして王城でひっそりと茶菓子を食べていたりする。


「これは美味しいですね」

「本当だな」

「何て名前なのですか? 」


 カエサル隊の女性陣が——いや俺以外女性だが——菓子を食べながら談笑している。

 確かにこの菓子は美味しいが名前が気になるほどではない。


 カエサル隊に入ったことでこういった甘い物を食べる機会が出来た。

 それまで甘い物にえんがなかったから食べた時は衝撃が走ったのを覚えている。

 しかし金を払ってまで食べたいかと言われれば少し疑問が残るのも事実。

 それよりも俺は肉が食べたい。


「どうだ? この国の食べ物は」

「小さな領土ですがこの国には様々なものがありますので、お気にしたらいいのですが」


 俺達が休憩しているとライナーとオスケルが入って来た。

 試練の塔を攻略する時ライナーに『様』付けを禁止された。そのままの口調で王城へ戻ったらオスケルからも『様』付けを禁止されてしまった。


 最初は緊張したが何度も呼べば慣れるもの。

 流石におおやけの舞台ではきちんとした言葉で話すが、こういったプライベートな時間は砕けた口調で話している。

 聞くと敬語で話されると肩がこるようで。

 王族と言うのも大変なんだな、と改めて思った。


「しかし本当にうたげを開かなくてよかったのか? 」

「普通は開くものですが」

「……貴族の生れでない俺にはあの空間はきつすぎます」


 俺に聞きながら二人は椅子に座る。

 メイドが下がりオスケルとライナーは不思議そうな顔をした。


 普通の貴族ならば功績を上げるたびに宴やパーティーを開くだろう。

 しかし俺は農民からの成り上がり。

 幾ら他国とは言えカエサル王国内の貴族達からいい目で見られない事は確かだ。

 

 それにあのキラキラした雰囲気がどうも俺には合わない。

 まだダンジョンに潜っている方が楽だろう。


「だがよ。慣れておく必要はあると思うぜ? 」

「ライナーの言う通りですね。今後の事を考えると慣れておかないと」


 そう言う二人に苦笑いで返す。

 俺を現実に戻さないでください!


 そうこうしている内に時間は過ぎていった。

 ちなみに女性陣は夕食を食べるのが苦しかったようだ。


 ★


 試練の塔を攻略して数日が経過した。

 中央区は更ににぎわいを見せている。

 そんな中だが俺達の帰国の日程が決まった。


「今日出るぞ! 」

「……いつも思いますが事前に連絡をください。隊長」

「日常に刺激は必要だと思うが? 」

「スケジュール系に刺激は必要ありません! 」


 談話室で隊長に突っ込んだ。


「だが特に荷物もないだろう? 」

「確かにそうですが一緒について来た外交官の人が困りますよ」

「困るのか? 」

「あ、いえ……」

「大丈夫みたいだな。よし行こう! 」


 外交官の人が目をキョロキョロさせて俺に止めた。

 どうにかしてくれ、と目線で訴えてきているが俺にはどうしようもない。

 なので彼に目線で一言伝える。


 『グッドラック』


 外交官は絶望に満ちた顔をした。

 もしかしたら彼は今から仕事があったのかもしれない。

 何せ俺達が本当に試練の塔を攻略してしまったのだ。

 アルメス王国側としてもカエサル王国側から少しでも何かを持ち帰りたい。そう考えても不思議ではない。


 もしかしたら俺達の滞在期間延長もそのための時間だったのかもしれないな。

 死者のダンジョンを攻略した俺達だ。試練の塔を攻略した場合の対応も考えていたのだろう。

 そして外交官からすれば功績を上げる貴重な機会。

 そう張り切った所で、クラウディア隊長の帰国宣言。

 彼には同情するが俺にはどうしようもないのも事実で。


「お。もう帰るのか? 」


 その声に全員が入り口の方を向く。

 するとしこにはライナーがいた。


 朝激しく動いたのか体から蒸気のようなものが立ち昇っている。

 たきのように流れる汗をタオルできながら俺達の方へやって来る。

 そう言えばライナーはどうして鍛錬たんれんをしているんだ?


「カエサル王国の男子たるもの鍛錬をやしたらいけないからだ」

「それだとオスケルも含むが」

「あいつもやってるぞ? 鍛錬」


 訓練をして滝のように汗を流すさわやかイケメン。

 絵になるが実際にしている様子が思い浮かばない。


「帰るのなら一度母上の所へ挨拶に行くんだぞ、クラウディア」

「……わかっています」

「何も言わずに家出をしたクラウディアが言っても信憑性がないな」


 その言葉に完全に沈黙するクラウディア隊長。

 出発に女王謁見えっけんが含まれていなかったからライナーが言っていることも間違いじゃないと思う。

 それを言い残してライナーは朝風呂とやらへ行くために部屋を出た。


 出発前にくぎを刺されたせいかクラウディア隊長は本当に渋々と言った感じでグローリア女王陛下の元へ向かった。


「……今日聞いたのですが」

「今日決めたので」


 それを聞きグローリア女王は大きく溜息をついた。

 今日決めたのですか。

 隊長の突拍子もない行動は今に始まったことではないが、今回は規模が違うな。


 チラリと外交官の方を向く。すると驚いた表情をしていた。

 言いたいことは分かるぞ。だが諦めろ。そして慣れるんだ。


 少し外交官の表情変化を楽しんでいると隊長と女王陛下が話を始めた。

 結局の所、外交官だけおいて帰ることになった。

 そして帰ろうとした時扉から激しいノックの音が響く。


「大変です! 死の大地に大規模ダンジョンが発生! 同時にスタンピードを起こしました!!! 」

「「「な?! 」」」


 文官の言葉に絶句した。

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