第47話 試練の塔 再び 3 カウツ・フォーシャ 1

 十三階層に上がり似たような景色を俺達は行く。


「無効化スキル持ちが増えて来たな」

「そうです、ねっ! 」


 隣から攻撃してきた魔物を殴り飛ばして隊長に答える。

 無効化スキル持ちが増えたのもあるが、魔物の量も増えた気もする。

 

 何が起こるかわからない。

 なのでどんなに弱い魔物でもライナーには手を出さないように言っている。


 ダンジョンコアは掌握しょうあくしている。

 帰還用の転移魔法陣を設置したり魔物の量を減らしたりしたはずだが、この階層は何故か多い。


 イレギュラーが起こったため少し警戒しながら進むとそこには一つの白く巨大な建物が見えた。


「……なんだあれ? 」

擬態ぎたいする魔物か? 」

「いえ人工物にも見えますが」


 確かに人工物にも見える。

 だがここはダンジョン。魔物が擬態している可能性も十分に考えられる。

 しかしダンジョンコアには擬態する魔物に関する情報は無かった。

 ならやはり人工物ということになるのだが……。


「まぁ攻撃すれば分かりますよね」

「ん? 」

「そうだな。少なくとも国が把握はあくしている建物ではない。ダンジョンに構えているという所からも怪しさしかない。攻撃して様子を見るというのはありだろう」

「いやちょっと待ってください。エリアエルがやると様子見どころかちりも残りませんよ?! 」

「大丈夫です、アダマ。覚えたての魔法ではなく通常魔法でいきますので」

「大丈夫じゃない! エリアエルの魔法は兵舎へいしゃごと吹き飛ばすレベルの魔法だぞ?! 消し飛ぶに決まったいるだろ! 」


 俺が必死に止めるもやる気になったエリアエルを止めることはできない。

 彼女は魔杖ステッキを構えて魔法陣を展開していく。


「隊長止めてください! せめて中に入って参考人なりを捕まえるべきでは?! 」

「いやいやアダマ君。怪しさ抜群の建物に我々乙女おとめが入るわけにはいかないだろ? ここは安全策をとって遠距離から消滅させるに限る」


 隊長もやる気のようだ。

 もしかしたら中に犯罪組織の大物とかがいて重要な情報を手に入れることが出来たかもしれないのに。


 そんなことを思っていると魔法の展開が終わったようだ。

 バチバチっと音を鳴らす。

 異常を察知したのか中から人が出て来た。


「白衣? 」


 医者……ではなく研究員と言った雰囲気を受けるな。

 出て来た彼らは上空を見上げて持っている魔杖ロッドを手にしている。

 だがそれも意味をなさずにエリアエルの魔法が放たれた。


「雷帝招来! 」


 雷鳴をとどろかせながら建物が、人が消滅していく。

 その様子に唖然あぜんとしながらもエリアエルに向いた。


「ちょ、途中で止めることはできなかったのか?! 明らかに怪しい研究者って感じだったんだが! 」

「研究者だろうが医者だろうが犯罪者は犯罪者です。犯罪者なんてこの世から消滅すればいいのです」

「……このまま突き進むとエリアエルがその犯罪者になりそうなのだが」


 そう言うとエリアエルは顔をらした。

 溜息をついて隊長の方を向いた。


「隊長……何かの実験施設だったようですが」

「国に許可なくダンジョンで実験。明らかに非合法な研究施設だろうな」

「……情報を持って帰らなくてよかったのですか? 」

「……ここに研究施設などなかった。それで十分だろう」


 こ、この人隠蔽いんぺいする気だ!

 どうにかしてくれとライナーを見る。


「ま、そもそもな話踏破されていないはずの場所に建物があること自体がおかしい」

「いやまぁそうだが」

「なので「無かった」。それに尽きる! 」


 ライナーもこんな感じかよ!

 カエサル王国の透明性が心配だ。

 いや王族だからこんなものなのか?

 俺が気にし過ぎなのか?


 一人悶々もんもんとしていると消滅したはずの場所から声が聞こえて来た。


「全く誰だね。吾輩わがはいの研究所に攻撃を仕掛けてくる馬鹿は」


 すぐに全員臨戦態勢をとる。

 砂塵さじんが舞う中様子を見ると複数の研究者が現れた。


「邪神の力を取り込んでなかったら死んでいたぞ」

「全く常識はずれな事をする」

「……皆さんそれよりも攻撃されたことを気にしたらどうですか? 」

「ふん! そんな些細ささいなことはどうでもいい」

「言われた研究はもう終わったんだ。これからはもっと自由に研究ができるぞ! 」

「これからも攻撃を受け続けたら研究どころじゃないと思うのですが」


 何やら会話が聞こえてくる。

 それぞれが緊張する中三人の研究者が姿を現した。


「さてと。吾輩の研究に水を無粋ぶすいな輩は誰だね? 」

「誰であろうとここで始末しまつしますが」

「教団に仇名あだなす者であるのは確実。消しましょう」

「あれは『カウツ・フォーシャ』?! 」


 ライナーが声を張り上げ驚いた。


「ライナー。誰だそれ? 」

「カウツ・フォーシャ。元カエサル王国の研究者だ」

「『元』? 」

「あぁ。危険思想の持ち主で母上が処刑しようとしたのだが逃げられてな。国際指名手配していたはずなんだが、まさか国内にいたとは」


 ライナーが苦虫にがむしみ潰したような顔をして研究者達の方を向く。

 それにつられるように俺も向いた。


「吾輩の名前を知っているとは。やっと吾輩の研究が認められてきたということだな。これは僥倖ぎょうこう

「黙れ犯罪者! 」


 ライナーが感情むき出しにして言い放つ。

 しかし彼はそれを気にした様子はなくぼさぼさの髪をきながらにごった目で俺達をみた。


「……よく見れば吾輩を捕らえたあの女の脳筋息子じゃないか。ならば知っていて当然か」


 いきなり興味を失ったかのように声の大きさが小さくなる。

 しかし周りの研究者達は違ったようだ。


「ライナー・カエサルか! 」

忌々いまいましい。今ここで八つ裂きにしてやる! 」

「こいつに捕まらなければっ」


 そう言いながら一本の短剣を手に取った。


「「「我らに救世の力を! 」」」


 そして腕に突き立てた。


「あいつら何を?! 」

「……隊長。見覚えのある光景だと思いませんか? 」

「中央区に来る前の通った村、だな」

「あの賊はこいつらの仲間だったということか」


 そう言っている間にもカウツ・フォーシャを除いた研究員は変身していく。

 だが——。


「聖なる氷槍」


 蒼白い氷槍が彼らに突き刺さった。


「「「Gyaaaaaaa!!! 」」」


 大きな悲鳴が轟くもいたたまれない雰囲気が俺達に流れる。

 そして全員がエリアエルを見た。


「何で攻撃した?! 」

「いえかなり余裕ぶっていたので」

「た、確かにそうだが」


 エリアエルが当然とばかりにいう。

 彼女が言っていることは正しい。しかし何故か釈然しゃくぜんとしないものがある。


「ほほう。素晴らしいぃ! 邪神の力をも打ち消すその力、素晴らしぃ!!! 」


 その声で我に返る。

 研究所があった場所には異形の姿をとったカウツ・フォーシャがいた。

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