第48話 試練の塔 再び 3 カウツ・フォーシャ 2

「いつの間に! 」


 思わず隊長から言葉が漏れた。

 確かに俺達は注意散漫さんまんになっていた。だが変身を許すほどの時間じゃない。

 こんなわずかな時間に変身するとは。


 今カウツ・フォーシャと呼ばれる研究者の姿は六本の腕に八つの目と言う目をらしたくなる姿。加えて白衣は破れたのか上半身がむき出しになっており黒く変色している。


「いつの間に、という問いに答えるのならば君達が来る前からと答えるのが正しいだろうな」


 一本の腕をあごにやり少し考えるような素振りをしつつそう言った。

 来る前から?!

 だが最初は人間の姿だったぞ!


吾輩わがはいの研究成果によって私は完全に邪神の使徒しととなる事が出来たのだよ」

「研究成果? 」


 俺が復唱ふくしょうするとにやりと醜悪しゅうあくな笑みを浮かべた。


「あぁそうだとも。「何故魔物が発生するのか」と言うちょっとした疑問から生まれた研究だ」

だまされるなアダマ」

「ライナー」

「こいつの事だ。恐らくその疑問とやらを解消すために多くの人体実験をしているはずだ」


 それを聞きカウツ・フォーシャをにらみつける。


「おお、怖い怖い。だが結果として魔物が発生する原理の一つを解明し、そしてこうして自身を邪神の使徒へすることが出来たのだ。技術の進歩には常に犠牲が必要。女王にはそう言ったのだが聞き入れなんだ」

「貴様の欲望を満たすだけの研究に母上が耳を貸すはずが無かろうが! 」

国益こくえきにもかなっているはずだがな。得られる利益を考えれば吾輩の欲望も、そして犠牲も小さなものだ。それがわからんとは女王失格だ」

「お前にだけは言わせねぇ! 」

「落ち着け兄上! 口車に乗ってはダメだ! 」


 クラウディア隊長がライナーを引きめる。

 顔に怒りが満ちているがライナーよりかは冷静なようだ。

 

「……母子そろって吾輩の研究を理解できんとは。救えない王族だ」


 そう言いながらもカウツ・フォーシャは空いている手を前にかざす。

 すると多くの人型の魔物が出て来た。


「まずは小手こて調べ。行きなさい! 」


 そう言うと一斉に魔物達が迫りくる。

 だがすぐに行動したシグナによって切り裂かれていた。

 速すぎて動きが見えない!

 俺が味方に驚く中カウツ・フォーシャは冷静に分析した。


「この魔物達では君達の相手はつとまらないか」


 そう言いながらも彼は再度魔物を召喚した。


「だが吾輩の壁となり時間をかせぐくらいはできるだろう」

「逃げる気か! 」

「吾輩は研究で忙しいのだよ」

「逃がすか! 」


 逃げる気満々のカウツ・フォーシャに隊長がむちを伸ばす。

 しかし飛行する彼はそれに捕まらないように回避する。


「目の前の相手は倒したぞ」


 いつの間にかシグナが敵を倒していた。

 隊長はまだ空中戦をしているがまだ捕まえられないでいる。

 どうしたものかと思っているとライナーが声かけて来た。


「……あまり気乗りしないが奴を捕まえる案がある」

「案? 」


 俺が聞くと大きく頷いた。

 可能ならば今の彼に出て欲しくない。

 何せ開いては邪神の力を取り込んだ存在。イレギュラーなことで彼を危険にさらしてしまうかもしれないからだ。

 だが高速で逃げようとするカウツ・フォーシャを捕まえることができるのなら、それに越したことはない。

 結局の所ライナーの案に乗ることにした。


 ★


「いい加減に鬱陶うっとうしい」


 カウツ・フォーシャは迫りくる魔法鞭マジック・ウィップから逃げていた。

 普通の魔法鞭ならば彼の敵ではない。

 だが邪神の使徒となったせいか感覚が鋭敏えいびんとなっている。その感覚が「捕まったらまずい」と言っているのだ。

 よってこうして空を飛び鞭から逃げ帰還石を使うタイミングを見計らっているのだが、見つからない。


 カウツ・フォーシャは鞭の方へギロリと赤い目を向ける。

 後方十メートル先ほどに鞭はあるが、彼の目には無色透明な鞭のような物が足元まで来ているのを認識している。

 それを更に加速して補足されないように回避する。


 加速するカウツ・フォーシャを更に追い駆ける鞭。

 鞭は一定距離を保ちながら、無色透明な無数の触手のような物をだして下から横からと様々な方向から彼を捕えようとしていた。


 カウツ・フォーシャが危険を感じる通りこの鞭に捕まったら最後、恐らく彼は無残な最期をげるだろう。

 この鞭自体に彼の神壁を破る力はないが、クラウディアから流れる力によって壁を壊すことができるようになっている。

 よって少しでも触れれば壁は破られ通常攻撃をまともに喰らう体になってしまう。

 しかし無数の見えない鞭をもってしても彼を捕えることが出来ないでいた。

 そんな時——。


下品げひんな研究だな」


 カウツ・フォーシャの研究を馬鹿にするような声が聞こえて来た。

 一瞬何を言われたかわからない。

 しかしその意味を理解して激情に駆られようとするカウツ・フォーシャ。

 だがそれも一瞬。すぐに冷静さを取り戻し迫りくる鞭を回避する。


「研究結果がこれだけとは……。正直脱獄して気ままに研究した結果がこれとは。その昔天才の名を欲しいままにしたカウツ・フォーシャも落ちぶれたものだな」

「貴様、吾輩を、吾輩の研究を侮辱するのかぁ!!! 」


 ライナーの言葉は明らかに挑発。

 彼から冷静さを失わせるための、パンよりも安い挑発。

 しかしこれは研究者にとって禁句そのもので、ライナーの思惑は見事に成功した。


「しまった! 」

「エリアエル嬢! 」

「分かっています! 」


 空中で捕縛され身動きが取れないカウツ・フォーシャ。

 エリアエルはライナーの言葉に応じてすぐに魔法を発動させた。


「神滅の銀炎!!! 」


 展開された魔法陣から銀色の炎が彼に纏わりつく。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!! 」


 この世の者とは思えない悲鳴を上げながら体をじらせ逃げようとする。


「吾輩は、吾輩はまだ世界を知り尽くしていない! こんな所で終わってたまるかぁぁぁ」


 執念しゅうねんとも言うべき彼の欲望が更に彼を苦しめている。

 無くなった無効化スキルの代わりに再生能力が働いているからだ。

 だがそれも僅かな時間。

 神をも滅する聖なる炎によって彼は細胞の一つすら残さなかった。


 ★


「本当にあんな手に引っかかるとは」

「今まで必死に魔法鞭マジック・ウィップで追っていた私はとても複雑な気分なのですが」


 国際指名手配犯で邪神教団員の『カウツ・フォーシャ』は作戦とも呼べない作戦に引っかかった。

 倒せたのは良いがライナー以外は複雑な顔をしていた。

 それを見てライナーは髪を掻きながら俺達に言う。


「研究者ってのは変人が多いが、奴らが嫌うのは自分の研究を侮辱されることだからな。一般人の感性じゃ理解できないだろうよ」

「そうは言いますが」

「まぁ終わったことは良いじゃねぇか。で、この後どうする? 」


 ライナーが俺達に聞く。

 そして今塔の攻略中であることを思い出した。


「……一旦母上に報告した方が良いでしょう」

「クラウディアの言う通りだな。じゃぁ戻るか」


 ライナーの一言で今日の所は帰還となった。

 本当にこの塔は話題に尽きない。


———

 後書き


 こここまで読んでいただきありがとうございます!!!


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