第45話 試練の塔 再び 1

 あれから数日間休憩を挟んだ後試練の塔を前にしていた。


「ここに来るのは久しぶりだな」

「ライナー様も塔に登ったことがあるので? 」

「あるぞ。だがアダマ。『様』はやめろ。義理兄弟になるんだからよ」


 俺はその事実をこの前知ったんですがね。

 慣れない呼び方をしながらも俺達は試練の塔へ再度入ろうとしている。

 ライナーも入ったことがあるということはカエサル王国王族の恒例こうれい行事なのだろうか?


「恒例行事ではないな。実際に兄上は登っていないし」


 ライナーが言う。

 違うのか、と思っていると「だが」と続けた。


「クラウディアのように何の連絡もせずに塔に登ったのならわからないが」

「あ、兄上。報告はしたじゃないですか! 」

「塔の門番が、な。あの時俺達は焦ったぜ? 何せ一国の、しかも年端としはかない王女が監視の目をかいくぐって塔に入ったんだからよ」

「ぐ……」

「まぁ塔の門番の事を忘れていた辺りがクラウディアらしいが……、気付いた時には八階層にいたのは流石に驚いた」


 懐かしむようにライナーが言う。


「小さな頃のクラウディア隊長ってお茶目ちゃめだったのですね」

「……明日からエリアエルに訓練を科そうか」

「申し訳ありませんでした! 」

「ははっ。クラウディアは楽しくやっているようで何よりだ」


 こういった悪ふざけができる隊だ。

 楽しくやっているのには違いない。

 エリアエルの件は悪ふざけではないかもしれないが。


 他愛たあいない話をしながら先へ行く。

 そして塔が目前となり確認を行う。


「では兄上」

「分かっている。俺の基本的な戦い方はアダマと同じ、――拳だ。よって基本的に前衛となる」


 火力が高いメンバーだが本当に前衛が多いな、この隊は。


「しかしアダマと違う点が一つ。アダマのような盾役ではなく武闘家タイプと言うことだ」


 ライナーは拳を突き立ててそう言った。

 生粋きっすいの戦闘職ということか。

 言い方は悪いが見た目通りだな。

 ライナーの説明を聞いて続いて俺が彼に言う。


「ライナー。可能な限り俺の守備範囲から出ないでくださいね」

「……まだ言葉に硬さが残るが、まぁいいか。アダマの言葉は分かった。例の範囲防御の事だろ? 」


 ライナーの言葉に俺は頷く。


「俺だって積極的に痛い思いをしたいわけじゃない。アダマの言う通りにするよ」


 理解のある人で良かった。


「よし、各々準備は出来たな? 」


 隊長の言葉に全員が頷く。


「じゃぁ行くぞ! 」


 そして俺達は再度試練の塔へ突入した。


 ★


 ライナー自身も強いと聞いているが仮にも第二王子。

 怪我をさせる訳にはいかない。


 シグナが念入りに探知を行い先に進む。

 がやはり戦闘は回避できないようで。


「来たぞ」

「ライナー! 」

「任せろ! 」


 意味が違う!

 短すぎて意味が通じなかったのは俺が悪いが後ろに下がってくれ! 王子様!


 だが俺の願いもむなしく一人ウルフの群れに突っ込んでいくライナー。

 俺の範囲防御の中にいるから大丈夫だとは思うがやはり心配だ。


「……兄上にも困ったものだが、ウルフ程度ならば大丈夫だろう」


 俺の隣まで来た隊長がそう言いながら前を向く。

 俺もライナーを見るとそこには拳と足でウルフ相手に無双しているライナーがいた。


「……カエサル王国の王族は全員何かしらの訓練でも受けているのですか? 」

「そのようなことはないが」

「こうしてみるとオスケル様の戦闘も見てみたいですね」

「きっと非常識な戦い方をするに違いない」

「否定が出来ないのが苦しいな」


 ウルフの首をちぎりながら迫るウルフに投げつけるその様はまさに鬼神。

 クラウディア隊長のことも含めてカエサル王国の人達はどこかおかしい気がする。

 少なくとも俺の中の王族像がどんどんと壊れていっている。


「ハハハ、久しぶりに暴れたから調子に乗ってしまった」


 ウルフ達がいた所からライナーが近寄って来る。

 すっきりした表情で言うのだが、王族と言うのはストレスがかかるものなのだろうか。

 しかし彼を危険にさらすわけにはいかない。

 今日は見届け人のような形で参加してもらっているからだ。

 よって再度注意事項を言い、渋々ながらも受け入れてもらい、俺達は更に登った。


 通常パーティーに人が増えるとダンジョン攻略スピードは遅くなるものである。

 それは速度を一番遅い人に合わせないといけなくなるからだ。

 加えてもし同行人が非戦闘員だった場合護衛も行わなければならない。

 このような理由もあって普通パーティー全体の速度は落ちるものである。

 しかしながら今回はそのようなことはなかった。


「シグナ嬢の探索能力はすごいな」

「ありがとうございます」


 現在七階層。

 ライナーがシグナをめる。


「是非我が軍にその力を一端いったんを教え込んでやってほしいが……」

「申し訳ありません、殿下。流石に」

「だろうな。忠誠云々うんぬんというよりもまずアルメス王国の許可が取れねぇ」


 そう言いながら周りを見渡すライナー。

 なんだかんだでライナーの探索能力も高かった。

 このメンバーの中だとシグナ、クラウディア隊長に次いで高いんじゃないか?


 ライナーは自身で五階層まで行ったことがあると言っていた。

 よく考えれば探索能力が高くなければいけない訳で。


「次が見つかったぞ」


 いつの間にか上層へ行く転移魔法陣探しゲームとなった試練の塔攻略を続けた。


 すでに外に出る用の転移魔法陣は各所に設置している。

 よって遭難そうなんの危険性は殆どない。


 ただ上に登るだけ。


 それだけを考え八階層を超え、そして十階層へ来た。


「ボス部屋、だな」


 俺が言うと全員が頷いた。

 大きな扉がポツリと一つそびえていた。

 死者のダンジョンのような禍々まがまがしい感じは受けない。

 ただ大きな扉。そんな印象である。


「では諸君。開けよう」


 そう言い隊長が手をかける。

 少し押すとグググと開き——俺達を迎えた。


 ★


 中は普通の草原だった。

 外とあまり変わりない。


「何かいるな」


 シグナが手を上げ言う。

 この広い草原で早くも彼女は敵を見つけたようだ。

 前よりも索敵範囲が広がっている気がするのは俺の気のせいだろうか。

 そう考えていると奥から大きな足音が聞こえる。

 少しするとその姿が見えて来た。


「グレイウルフの群れだな」


 クラウディア隊長がそう言い魔法鞭マジック・ウィップを取り出した。

 

 グレイウルフ。

 その名の通り灰色をした狼の魔物だ。

 それ自体は強くない。しかし群れをなすことで脅威度はね上がる。

 加えてその巨体を見ると、どのグレイウルフも上位種か変異種のように見える。

 

 しかし難関ダンジョンのボスとしては弱いと感じる。

 精々上級ダンジョン一階層のエリアボス程度だろう。


「隊長。ここは私が」


 シグナがそう言うと隊長の言葉を待たずに突っ走っていった。

 止める間もなく行ってしまったのですぐに移動し彼女を防御範囲に入れる。

 だが俺が着くわずかな時間にグレイウルフ達は息えていた。


 力を増した彼女の剣技の前では難関ダンジョンのフロアボスも形無しであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る