第43話 試練を終えて

 俺は一人無機質な部屋で考えていた。

 一回降りて皆の無事を確かめるべきか? いやいやそうすると俺が迷う可能性がある。


 ここはダンジョン最上階。

 ダンジョンコアはすでに掌握しょうあくしている。

 トールいわくロキは俺達を分散させてそれぞれに試練をすのが目的だったらしい。

 何故そのようなことをするのかはわからない。

 だけれどもろくな目的でないことは確かだと思う。


「降りたら俺が迷う可能性があるからな……」


 クラウディア隊長達が心配なのに降りない理由はこれだ。

 高速で八階層まで上がれたのだがそれはシグナの探索能力があっての事。

 俺が一人降りると広大な階層を一人迷子になる可能性がある。

 それにこの最上階に戻れる可能性も低いし。


「むむむ……、お? 」


 ブツブツと呟きながら歩いていると部屋の端にある三つの魔法陣が光った。


「皆! 」

「「「アダ……マ? 」」」


 俺を見て呼んだかと思うと隣を見て驚いた顔をした。

 そりゃぁそうか。三人同時に転移して真横にいたらそれは驚く。

 その様子をおかしく思いながらも、俺は彼女達を迎え入れた。


 ★


「ロキの試練ですか」

「俺も戦った相手——トールから聞いたところによると、だけど」

「私もロキと戦ったが、何か目的があって戦わせたような雰囲気だったな」


 隊長はロキ本人と戦ったらしい。


「今度ロキとやらに出会ったら、私の神滅の銀炎で焼き払ってあげましょう! 」

「エリアエルは何か新しいスキルを習得したのか? 」

「どうなのでしょう。会得えとくと言うよりも強くなった感じはします」

「私は習得だな」


 ヘルと名乗る死神と出会ったエリアエルとシグナは言う。

 二人はヘルと出会いバラバラにされたらしい。

 試練の内容は、エリアエルは迫りくる魔物をひたすら倒すこと、シグナは鍵を見つけることだったようだ。

 来た時かなり疲れた様子の二人だったが今は少し回復している。


「私のスキルは剣技を向上させるものと召喚だ」

「召喚? 」

「あぁ。といってもおいそれと使えるわけじゃないし……あいつらを呼びたくない」


 と苦々しい表情を浮かべるシグナ。

 そう言われると何が召喚されるのか気なるな。


「私はスキルの進化だな」


 シグナに続いて隊長が言う。


女王親衛隊ドール・ナイツが進化したわけだが……正直困惑している」

「隊長が困惑するなんて珍しいですね」

「こればっかりはな。実際に召喚してみれば君達も困惑するだろう」


 そう言い隊長は手をかざして騎士人形達を召喚した。

 その姿は以前よりも白銀に輝きが増しており威風堂々いふうどうどうとしていた。


 おお、これはすごそうだ。

 感激していると騎士人形は隊長の所まで行きひざをついた。

 顔をくいっと上げると——


如何いかがなさいましたでしょうか。我がきみ

「「「喋ったぁ?! 」」」


 人形が話した。


 え?! どういうこと?


 隊長の方を見るが首を横に振る。

 これが隊長が言っていたことか。

 確かに困惑するな。


「彼らがこれから一緒に戦う者達だ」

「左様で」

「他の者も挨拶させた方が良いのかもしれないがまずは君だ」

「他の者は構いませぬ。我ら親衛隊は一にして全。記憶は共有されておりますので」


 騎士人形は立ち上がり驚く俺達の方を見た。


「私はクラウディア閣下の親衛隊にして神滅軍隊。クラウディア閣下に仇名あだなすものを滅する者也」


 銀色に光る騎士はしぶい声で自己紹介した。

 その後も色々あったが一先ず隊長が騎士を戻して現状の確認を行うことにした。


 ★


「そのトールという者が本当の事を言っているのならば、ここが最上階ということだな」

「恐らく本当でしょう。こうしてダンジョンコアを掌握できたのですから」

「……ロキとの一戦で人外の力を見せつけられたかな。この一件がロキ主導しゅどうのものと知ると、我々をあざくために変質させられたダンジョンコアに見えてならない」


 そう言われると心配になる。

 しかし三人ともいきなり最上階に来れたのはどういうことだったのだろう。


「彼らが本当に神の一柱ならばダンジョンの階層を飛ばして最上階へ送る事も可能だろう。なにせ我々の常識から外れた存在。何をしてもおかしくない」


 隊長の言葉に頷く二人。

 よっぽど理不尽に手を焼いたようだ。

 しかし何はともあれ彼女達が無事でなによりだ。


「では宝をもらって帰るとするか」


 隊長がにやりと笑みを浮かべて言う。

 ここは他国なんだが良いのだろうか?


「構わないだろう。幾らまねかれたと言っても踏破とうはしたのは私達だ。ならばその権利の一部は私達にあると言っても過言かごんではない」


 過言な気もするが言わないほうが良いだろう。


「……納得していないようだな」

「そのようなことは」

「いや構わない。ならばこう付けたそう。「カエサル王国第一王女『クラウディア・カエサル』ひきいる部隊が踏破した。ならば宝を徴収ちょうしゅうする権利はある!!! 」


 言い切った!

 すがすがしい程に言い切った!


 まぁこれ以上言っても仕方ない。

 軽く溜息をつきながら宝物殿に繋がる魔法陣へ足を向ける。

 そして俺達は転移した。


「何度みても難関ダンジョンの宝物殿は一味違いますね」

「前のダンジョンなんかガラクタばっかりだったもんな」


 金銀財宝に囲まれながら俺達は歩く。

 俺達は独立ダンジョン攻略部隊として活動するしている。ダンジョンを攻略するごとにこうした褒美ほうびのような物を見てきたが、当たり外れがひどかった。

 しかしながらやはりここは難関ダンジョン。

 ダンジョンに眠るお宝のしつは他とは一線かくす様だ。


「私はこれにしよう」


 ふと目を離した瞬間にクラウディア隊長が見えなくなっていた。

 声がする方を見るとそこには一本の細剣レイピアむちを手に取った隊長が。


「ロキとの一戦で剣も鞭もボロボロになってしまったからな。丁度いい」


 ひゅん、と細剣レイピアを軽く振って使い心地を確かめる隊長。

 どうやら気に入ったようだ。

 それに剣もそうだが、鞭がなにやら光っている気がする。

 魔化がほどこされているのだろうか。


「この鞭も良さそうだ」


 ペシン! と音を立てて軽く打ち感触を確かめている。

 魔力を流したのだろう。鞭は火をつけたり電気を走らせたり風刃を発生させていた。

 ……今までの鞭よりも威力がけた違いに強くなっている気がする。

 ダメージは通らないと思うが、打たれるのは嫌だな。


「よし。これより帰還する。カエサル王国グローリア女王陛下に報告するとしよう」

「「「はっ! 」」」


 隊長の言葉に返事をし魔法陣に乗ろうとする。

 だが隊長が途中で立ち止まり俺達の方を向いた。


「……もう一回正規ルートで攻略した方が良いかもしれないな」


 それもそうですね。


———

 後書き


 こここまで読んでいただきありがとうございます!!!


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