第42話 試練の塔 2 それぞれの試練 クラウディア

 クラウディアが目を開けるとそこは家の中だった。

 だが普通の家ではない。

 周りに大きなぬいぐるみが置いていたり逆に小さな机があったりと。

 一体誰に合わせているのかわからない大きさの物にあふれる所だ。

 その様子に警戒しながら召喚していた騎士人形達に周りを調べるように指示を出す。

 騎士達が動こうとした瞬間見覚えのある姿が彼女の前に現れた。


「……確かロキ、だったな」

「そうだよ。楽しい事大好きなロキさんだ! 」


 大きく手を広げクルクル回りながらクラウディアに言う。

 服装は前と同じだがどうこか胡散うさん臭い。

 クラウディアはそれを感じ取り警戒心を強めた。


「貴様が脱獄したのは聞いていたが、まさか試練の塔にいたとはな」

「はは。あの程度ボクにとってはなんてないよ」

「ならばやはりせないな。何故捕まったのか」

「簡単なことだよ。君達が愛してやまないアダマ君を警戒したからさ」

められたものだ。その言い方だと私達が脅威でないように聞こえるが」

「実際そうだもの」


 分かっていたが、実際に聞いて舌打ちを打つ。

 ロキは回るのをやめてクラウディアを見た。


「でもまぁそれも今日で終わりかな」

「ほう。私がお前の脅威になるほどに成長するのか。またおかしな術でも使うのか? 」

「おかしな術とは何さ。あれもれっきとしたスキルの一つ。万物ばんぶつ自在じざいに変化させるスキル『万物変化メタモルフォーゼ』さ」

「そんな出鱈目でたらめなスキルがあってたまるか! 」

「それを言うとアダマ君のスキルも大概たいがいでたらめだと思うけどな」

「……その手には乗らん! 」

「おっと。そんなに怒らないでよ。すぐに怒るから人間は怖い」

「お前が怒らせているんだろ」

「もう少し忍耐というものを持ってもいいと思うんだけどなぁ。まぁ神様であるボクは肝要かんようだから許しちゃう! 」

「神? 寝言ねごとは寝て言え! 」

「これでも本物の神様だよ。ま、信じるかは君次第だけどね」


 そう言いながらもしゃがみ地面に手をつく。

 すくう仕草しぐさをするロキの手におうじるかのように地面が変化し、彼の手で固まった。

 その異様な光景を見てもクラウディアは驚かない。

 何せ相手は人を魔物に変えた人物だからだ。


「これをこうして……出来た! 」


 何かねるかのような仕草をする。

 声を上げながら前に投げるとそれは黒い騎士となった。


「君の白銀の騎士に合わせて黒を選んだんだ。センスいいでしょう? 」

「それが常人ならば、な。貴様のような得体の知れない人物がやると不気味でしかない」


 そう言いながら騎士一体に命令を下す。

 そして黒い騎士に切りかかった。

 だがそれを受け止め二撃三撃り返す。

 何回か繰り返していく内に剣は折れ、クラウディアの騎士はボロボロと崩壊していった。


「! 」

「あはは。この程度か。当てが外れたかな? 」

「……なんだと? 」

「でも義兄にいさんが手を付けた彼に近い君達が一番便利なのだけど」

「何を言っている? 」

「べぇつにぃ~。ただ今の君の実力じゃ世界滅亡を救うには役不足だな、としか思ってないよ」

「べちゃくちゃべちゃくちゃとおしゃべりな奴め」

 

 クラウディアは苦々しい顔をしながら騎士達に命令を下す。

 そして超戦士となった人形とロキの黒い騎士の戦いが始まった。


 ★


 その戦いは一方的だった。

 黒の騎士が超速で動き連携する白い騎士達をぎ払っていく。

 そして騎士達は倒され崩れていく。

 その様子を見た彼女はすぐに武器を魔法鞭マジック・ウィップに切り替えて対応した。


「ふ~ん。そっちの方が強いんだ」

「私の本領ほんりょうはこれからだ」

「ならこっちも頑張ろうか」


 そう言うと幾つもの黒い騎士を作りだすロキ。

 クラウディアはその様子に少し冷や汗をきながらも目の前の敵にむちを巻きつけた。


「起動」


 魔力を流し無数のやいばを鞭からやす。

 しかし無傷の黒騎士に驚き引き戻そうとする。

 だが騎士が逆に彼女を鞭で引き寄せようとした。

 すぐさま鞭から手を離して細剣レイピアを手に取った。


召喚サモン: 女王親衛隊ドール・ナイツ


 新たにクラウディアは騎士人形を召喚する。

 騎士人形達と連携しながら剣を振るうが先に剣がやられてしまった。


「あはははは。弱い弱い」

「黙れ! 」


 ロキは楽しそうに手を叩く。それに応じて黒騎士が作られていく。

 クラウディアも騎士人形を召喚する。しかし黒騎士達の質量ともに負けていた。

 その様子を見ていたロキが急に笑うのをやめてクラウディアの方を見た。


「……弱いんだよ。スキルが」

「黙れ! 」

「君がいつも強気な口調なのは自分の弱さを隠すため? 君が強い男と共にいたいのは――男の強さを自分の強さと思うため? 」

「黙れ黙れ黙れ!!! 」

「ははっ! 図星ずぼしだ」

「黙れと言っている! 」


 落ちていた騎士の剣を手に取ってロキに切りつける。

 しかしそれをひらりとかわしてり飛ばした。


「ボクを黙らせたかったら——スキルかたれ! 」

「私は弱くない!!! 召喚サモン: 女王親衛隊ドール・ナイツ


 ★


 自分はなんて弱いのだろう。クラウディアは戦う中でそう思った。

 剣を握ればシグナ以下。魔法を使えばエリアエル以下。アダマの様に特色とくしょくがあるわけでもなくただ指揮をるだけ。

 これならば一層指揮官を誰かに任せたい、そう思った。


 ダメだ!!!


 これはゆずれない!

 指揮は、指揮だけは、隊長である私の特権なのだと彼女は強く思った。


 一方とめどなく召喚され倒されていく騎士達に変化が訪れていた。


 (アア……フガイ、ナイ)


 自分達は人形だ。使われるだけのただの人形。

 それなのに目の前で倒されていく騎士人形同僚を、そして自分を見てそう思った。

 また別の騎士人形は思う。


 (ナゼ、コンナニモ……ヨワイノカ)


 自分達は親衛隊だ。

 女王を護る親衛隊。

 それは最強でなければならない。しかしながらこの現状は何だ。

 黒い騎士にやられていく仲間に、そして自分。


 (モット……チカラ、ガ、アレバ)


 そう願い力を欲する。

 そして二者の想いは現実となった。


 召喚された騎士達が突然光り輝き始める。


「おお。来たね、来たね」


 ロキが目を輝かせてその様子を見届ける。

 スキルの進化。

 彼らが行っている試練の結果である。

 そして光は収束する。白銀の騎士達はクラウディアにひざまこうべれた。


「……貴様の手のひらで踊っているみたいで気に食わないが」

「いいじゃん。これで邪神の軍勢を倒すことができるんだからさ」

「なに? 」

「じゃぁボクはこれで! 」

「おい待て! 」


 そう言いロキは部屋を出て行った。

 彼が出て行くと家の中は普通の草原へと変わる。

 黒い騎士達だけは残されてぽつんとしていた。


「……最後までわからない奴め。まぁいい。敵を掃討そうとうしろ」

「「「陛下に勝利を」」」

しゃべった?! 」


 驚くクラウディアを置いて彼らは黒い騎士達を切り裂いていく。

 騎士達が全滅させるとクラウディアは彼らを戻し、近くにあった転移魔法陣に乗り、最上階へ向かった。

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