第39話 試練の塔 1 八階層へ

 翌朝王族ロイヤルファミリーに見送られながら俺達は『試練の塔』へと向かった。


「デカいな」


 馬車にられること数時間。降りるとそこには馬鹿でかい塔が建っていた。

 大きさは見たことないくらい。少なくとも王城を縦に何十もかさねた高さだろう。横はばも広い。ここからも広い階層が広がっているのがよくわかる。外はくすんだ白色で年季ねんきが入っているようにも見える。


「実際中に入るとこの数倍は広いから気をつけろ」


 隊長が慣れた様子で先に進む。

 俺達も置いて行かれないようについて行き、そして中に通された。


 ★


 中は草原エリアだった。

 特に特色もなくただ青く広い草原が広がっている。


「じゃ、作戦通り私が先陣切ろう」


 そう言うといつものビキニアーマーのシグナが走った。

 同時に俺も走り後ろにエリアエルを抱えた隊長がついて来た。


 ゆっくり進むダンジョンならばそこまでシグナはスピードを出さない。これはエリアエルがついていけないからだ。

 かといって彼女が悪いわけではない。

 エリアエルのような魔法使いタイプは総じて足が速い方ではない。どちらかというといつもシグナといるせいか彼女は足が速い方だ。

 だが今回のような先を急ぐ場合ついてこれない事はある。その時は隊長のおんぶだ。


 エリアエルは俺におんぶをして欲しかったみたいだが俺が拒否。

 幾ら俺のスキルがあるからといって、俺は完全にこのスキルを信用していない。

 何故ならばこの前のロキとの一戦で「危ない感じ」がしたからだ。

 よってもしもがあったらいけないので前衛に後衛である彼女を連れる訳にはいかないのだ。


「あったぞ」


 シグナが次の階層への転移魔法陣を見つけたという声と共に魔物の悲鳴が聞こえてくる。

 隊長の言葉通り魔物は強くないらしい。

 俺がシグナの所まで近づくと無残な姿になったウルフ種がいた。


「はやいな」

「流石シグナだ」

「隊長。恥ずかしいです」


 後ろを見るとエリアエルが「おろしてくれ」といっている。

 しかし隊長は降ろさない。

 そして俺達はそのまま魔法陣の上に乗った。


 ★


 二階層も草原のようだ。


「一階層と同じだが徐々に広くなっていく。大丈夫だとは思うが気を付け給え」


 エリアエルを背にする隊長がそう言った。

 こうしてみると母と子のような感じを受けるから不思議だ。


「……今不愉快なことを考えませんでしたか? 」

「そんなことはない」


 エリアエルが鋭く指摘してくる。

 何故か変なことを考えていると皆勘が鋭い。

 何かスキルでも持っているのだろうか。

 そう考えているうちにシグナが出発した。


 彼女について行くと所々に軍のキャンプと思しきものが見える。

 これが隊長が言っていたやつか。

 かなり本格的だな。

 というよりも俺達がダンジョンに入っている間も軍の訓練は行うんだな、と思いながらも先に進む。


 転がる魔物の死体を過ぎ去りながらシグナが見つけた魔法陣の上に乗った。


 シグナ無双が続く中、ついに俺達は八階層に着く。

 途中魔物の軍勢が襲ってきたがエリアエルの範囲魔法で掃討そうとうされた。

 それなりに名のある魔物だった気がするが、彼女の前では形無しだったな。


「こんなにも早く八階層に来られるとは」

「これを予想していたのでは? 」

「確かにサクサク進むとは考えていたがここまでとはな」

「魔物も大したことありませんでしたしね」

「エリアエルを前にする魔物が可哀かわいそうだ」

「褒め言葉と受け取りましょう! 」


 そう言いながら新調しんちょうした魔杖を掲げつつ前を向くエリアエル。

 今は隊長に背負われていない。

 流石に五階層くらいから魔物の数が増えて来たので慎重に進んだ結果だ。


「まずは休憩地を見つけよう。ここからは通常通り拠点きょてんを作りながら進む」


 隊長の言葉に頷き足を進める。

 シグナが探索・索敵をしながら慎重に安全地帯を見つけていく。

 しかし途中でシグナが手を上げた。

 これは気を付ける時の合図だ。


「強そうか? 」

「今までの魔物とは比較にならないくらいには」


 シグナがそう言い周りを見渡す。

 再度索敵をし直しているようだ。

 何度も索敵をしてあげているのだろう。


「こりゃぁ……。数もいるな」

「リーダーが群れを引っ張っている感じか? 」

「そのリーダーがけた違いに強いが」

「私の時はそんなものいなかったが……、アダマ君」


 隊長の言葉を受けて絶対守護領域イージス金剛鉄鋼の神体アダマンタイトを発動させる。全員が守備範囲に入ったのを確認して俺は隊長に準備が出来たことを伝える。


「エリアエル。構えておけ」

「もちろんです」


 その言葉を受けてエリアエルは魔杖を構えた。


「さて。このメンバーで倒せないことはないと思うが、念のため私も準備しておこう。召喚サモン: 女王親衛隊ドール・ナイツ


 隊長はとなえて五体の騎士型人形を召喚する。

 クラウディア隊長は白銀の騎士五体に軍団魔法で強化をほどこす。

 隊長は一体一体を超戦士に仕立て上げ前を向いた。


「くるぞ」


 隊長の言葉の後、大きな足音が遅れて聞こえて来た。

 かなり遠いはずなのにその巨体が見えてくる。

 姿は銀色の狼。しかし良く見るとこちらを見る顔に黒い模様もようが見える。

 ウルフ種の突然変異種か?


「デカいな」

「ここから見て俺と同じくらいの大きさですね」

「ったくどれだけデカいんだよ」

「下に見える群れがありのようですね」

「あれでよく踏みつぶさないな」


 それぞれが感想を言う。


 しかしスピードはそこまで速くない。まさかと思うが下の群れに速度を合わせているのか?

 いや指揮官クラスがいる魔物の群れでは指揮官が一番後ろに陣取る事が多い。

 先陣をきっているが速度を合わせるのは、ある意味当たり前なのかもしれない。


「エリアエル。打てるか? 」

「もちろんです」


 そう言いながらエリアエルが魔杖を向けた。

 照準しょうじゅんを合わせながら魔法陣を展開していく。多くの青と黄色の魔法陣が展開されたと思うと電気をバチバチっと電気を発していた。


 巨大なウルフはそれを察知したようだ。

 すぐにこちらに向かおうとするがエリアエルの魔法から逃げられなかった。


「雷帝招来」


 ゴォォォォン!!!


 轟音ごうおんと共に白い稲妻が魔物達に、落ちた。

 悲鳴を上げる間もなく蒸発したかと思うと俺達の周りに魔法陣が展開された。


「「「!!! 」」」


 なんだこれは!?


「まさか転移魔法陣?! 」

「まさか魔物に仕込んでいたのか?! 」

「一体だれが! 」


 なんだと!


 すぐに周りに目をやる。


「シグ——」


 呼ぼうとした瞬間彼女が消えた。


「アダマ! 」


 クラウディア隊長の言葉が聞こえたかと思うと、俺は荒野に立っていた。

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