第40話 試練の塔 2 それぞれの試練 アダマ

 ヒューっと砂ぼこりが俺を打つ。

 今さっきまで草原だったのにいきなり荒野?!


「ここは一体……」

「おう、ここか。ここは試練の塔四十階層のボス部屋。つまりこの塔の最上階だな」


 荒野全体に響くような声が聞こえる。

 周りを見るも人の姿は見えない。

 一体どこから。


「っと、このままじゃダメだな」


 その一言と共に雷が落ちたかのような音が聞こえた。

 遅れて白い稲妻イナズマが俺の目の前に落ちて砂ぼこりを巻き上げる。

 腕でほこりから顔を守っていると向こう側から声が聞こえて来た。


「お前がロキの言っていたやつだな! 」


 腕を除けて前を向くとそこにはいかつい顔をした筋骨隆々の男がいた。体中から電気を発するその姿はどう見ても普通じゃない。


「あの犯罪者に何か聞いたのか? 」

「ん? あぁ。なんかクソ爺が育てた面白れぇ奴がいるってな」


 クソ爺? 誰の事だ?


「その顔だとわかっていないようだな。ほら、神を名乗る爺さんがいなかったか? 」

「あ~、あの神様か」

「その神様だ」


 ……、ということは。


「お、分かったようだな。俺もその『神様』の一人だ」

「……神様多くないか? 」

「いるもんは仕方ねぇじゃねぇか。俺は『トール』。雷神トールと言えば、俺の事よ」

「……聞いたことないな」

「かぁ~、信仰心薄いなぁ! おい! 」


 そう言った瞬間俺は彼から飛び退いた。

 あふれる闘気をまとわせながらトールはこっちに寄って来る。


「じゃぁ始めようか。この塔に相応しい試練闘いを!!! 」


 ★


 雷鳴が、鳴り響く。


「オラオラオラ! どうしたお前の力はそんなもんか! 」


 音と共に繰り出される拳を腕で防御しながら様子を見る。

 くそっ!

 聞いたことがないとはいえ神を自称じしょうすることはある。

 久しぶりにダメージを喰らった!


「オラァ! 防ぐだけだとすぐに死ぬぞ! 」

「グフォ! 」


 俺の体が宙に浮く。

 上空高く上がったかと思うといつの間にかトールが上を陣取っていた。


「早く本気を出せや!」


 ドン!!!


 背中に強烈きょうれつな痛みを受け地面にたたきつけられた。

 少しバウンドした後すぐに立ちあがり拳を構える。

 奴が攻撃している時、少しびりびりする。

 多分その時が攻撃してくる瞬間だ。


「これは——どうだ! 」


 その一言に合わせて俺も拳を突き立てた。


「……少しはやる気なったか」

「訳も分からないままボコボコにされるわけにはいかないんで」


 ビリビリビリと電気が走る中更に好戦的に微笑むトール。


「だがよ。しんのねぇ拳程弱ぇもんはねぇ!!! 」


 トールがラッシュを繰り出してくる。

 それに俺も応じて拳を合わせていく。


「そもそも戦う理由がわからん! 」

「戦うのに理由が必要か! あ”あ” 」

「必要だろうがっ! 」

「理由がなけりゃぁ戦えねぇ程なさけねぇもんはねぇ——よ! 」

「がぁ! 」


 ドン! ドドドド……。


 幾つもの岩山を突き抜けながら息が漏れる。

 何て強さだぁっ!


「てめぇをクソ爺が見込んだってならじじいの見込み違いだな」


 瞬間上から衝撃が走った。


 ★


「おいおい本当に硬いだけが取りか? 」

「……生まれてこの方硬さにしか取り柄がないんでね」


 ボロボロになりながらも俺は立ち上がる。

 顔を上げるとそこには膨大な闘気を纏ったトールがいた。


 強い。

 ただ単純に、強い。


 トールはここがダンジョンの最上階と言った。

 つまりトールを倒せばダンジョン踏破だ。

 しかしそのトールを倒せる気がしない。


「あまり乗り気じゃねぇようだな」

「戦闘狂と戦う程酔狂すいきょうじゃないんでね」

「言うじゃねぇか。なら少し——本気を出させてやろう」


 そう言いトールが手を掲げる。

 するとそこには巨大なハンマーが浮かび上がった。

 それを構えつつ俺を見てにやりと笑みを浮かべる。


「こいつは俺の名前の代名詞ともいえる技だ」

「……どうしてそこまで戦いたがる! 」

「こまけぇことはロキの野郎が考えてるみたいだが俺は単純に戦いが——好きだからだ」


 くそっ! やっぱり単なる戦闘狂だった!!!


「お前がどうしてその力を手にしたのかは俺にはわからねぇ。だがよ。神をも傷つけることができるその力を持っていながらどうして使わねぇ? 戦いを楽しめや」

生憎あいにく俺は戦闘狂じゃないんでね! 」

「そうかい。ま、それもお前の人生だ。仕方ねぇ。しかしよ。お前がその力を使わねぇと、お前が力を手にした理由ごと、消し飛ぶ——ぜ? 」


 そう言った瞬間巨大なハンマーが振り下ろされる。


 消し飛ぶ?

 俺が力を手にした理由ごと?

 神様からは世界を滅亡から救えとか言う大層たいそうな理由をつけられた。


 だが本当にそうか?

 俺がたしたい目的は本当にそうか?


 いや違うだろ!

 俺は護りたいんだ!

 仲間を、好きな人を、皆を!!!


「ウォォォォォ!!! ――」


 突き上げろ!

 拳を!

 吹き飛ばせ!

 理不尽を!!!


「――ラァッ!!! 」


 ゴォォォォン!!!


 拳がハンマーとぶつかった瞬間肌が焼ける。

 負けるかぁぁぁぁぁぁぁ!

 焼ける肌ごと突き上げる。


 そしてハンマーを、――跳ね返した。


 ★


「はぁはぁ……結局何でこんなことをしたんだ? 」

「はぁはぁ……あん? そりゃぁ、俺が楽しみたかったからだ」


 ハンマーを跳ね返した後俺とトールは殴り合った。

 二人共体中打撲だぼくで青ざめているが気にせず殴る。

 そして体力尽きた所で聞いたのだが、あいも変わらず戦闘狂発言。


「その、ロキとか言うやつに何か言われてこうして戦ったんじゃないのか? 」

「ん? ああ~そういや「神壁しんへきを破れる人間がいる」とかいってお前を紹介されただっけ? 」

「いや俺に聞かれても」

「だが、正解だった。本当に神壁を破れる者がいるとはな」

「その神壁ってなんだ? 」

「あん? それを知らずに戦っていたのか? 」


 こ、この脳筋戦闘狂に呆れられたっ!

 これほどの屈辱くつじょくはあるだろうか!


「神壁ってのは俺達神族が生まれ持つ……、体にまとってる防壁のようなもんだよ」

「それがあるとどうなるんだ? 」

「普通の人間の攻撃が一切効かなくなる」


 普通の攻撃が効かなくなる?

 それどこかで……。


「一つ聞いていいか? 」

「ん? まぁ楽しませてくれた礼だ。答えれる範囲で答えてやろう」

「それって邪神やその眷属けんぞくまとえるのか? 」

「纏えるぞ」


 それを聞き合点がってんがいった。

 アルメス王国の東区ダンジョンも、そしてこの前村で出くわした賊も何かしらの力で邪神の力を手に入れたんだ。

 それで普通の攻撃が効かなかったと。


「ま、これでこの階層は合格と言うことにしておこう」


 トールがそう言うと一気に風景が変わる。

 荒野が広く無機質な部屋になった。

 手を振り「じゃぁな」とどこかに行く素振りをしたと思うと立ち止まる。

 なんだ?


「そういや思い出した」

「何をだ? 」

「ロキのやつがお前達を分散ぶんさんさせたとき、「これは彼女達の試練」だってな」


 どうやら今回俺が本命ではないようだ。

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