第13話 死者のダンジョン 7 アダマ、復活する

「もう行くのかの」


 そう言いながら神様は片手をかざした。

 すると何もない所から服が出てくる。

 肩から下がない上着は俺にくるまり、俺はいつの間にか長いズボンもいていた。


餞別せんべつじゃ」


 そう言い満足そうに言う神様。

 あれからどのくらい時間が経っただろうか。考えるのが億劫おっくうになるほどの時間が経過したことだけは分かる。

 そして何回死んだだろうか。これまた考えるのが億劫になるほど死んでしまった。

 しかしこの場では本当に死なないようで、少し時間が経つと体は元に戻ったのだ。


 まぁそれだけの攻撃をびたから俺の服は消滅したが。


「ほれ最後の一体じゃ」


 そう言い神界の生物が「Goooooo!!! 」と咆哮ほうこうを上げながら向かってくる。

 そして俺は拳を突き立て——


 ドン!!!


 風穴を開けた。

 ひざから崩れ落ちる巨大ないのししを見ながら神様は俺を見る。


「うむ。順調じゅんちょうな仕上がりじゃの。では頼むぞ」


 そう言い手をかざすと光る巨大な門が出現した。

 それを見て、神様を見る。


「……今まで聞けなかったのですが少し不思議に思うことを聞いても? 」

「答えれる範囲ならばの」

「何で俺にこの役目を? 」

「なぁに。簡単な事じゃ。スキルの強さ、経験、性格諸々もろもろを含め、下手へたな人間よりかはマシだったからじゃ」


 そう言い神様は行くように促す。

 うながされるまま俺は光の門を潜った。


 ★


「ふふふ......。人にしてはやる方だ」


 そう言いながらも死神は黒い球をいくつか作る。

 それをシグナに向かって放った。


「こんなもの! 」


 シグナは『壁渡り』を使いながら高速で移動する。

 動くシグナを追尾ついびするかのように黒い球は彼女を追う。


 (物理、魔法が効かないのならば自分の魔法で倒れろ! )


 迫って来る黒い球を見ながらさらに加速する。

 『空歩』で死神に近付き、そしてすり抜けようとした。

 だが——。


 ドン!


 今度はすり抜けずぶつかった。

 驚き転がるシグナはすぐに立ちあがり舌打ちをつく。


「物質はすり抜けるんじゃなかったのか?! 」


 死神は「パン」と手を叩き自分に向かっていた魔法を消滅させる。

 標的にされないように移動するシグナに向かって、まるで説明するかのように言った。


「我は自在。時に物理、時に幽体。見えることもあれば見えない事もある。意識すれば触れれる時もあれば、意識しても触れれぬこともある。だが......神が一柱に触れようなぞ、おこがましい! 」


 言葉と共に黒い瘴気しょうきのような物が放たれた。

 まずい、と思ったエリアエルが魔法結界を張る。

 が誰も意図いとしていない事が起こった。


「……失敗しました」

「幾ら苦手と言ってもこれはないだろう」

「まさかあの死神とやらに結界を張ることになるとは」


 彼女が張った魔法結界はエリアエル達を守るように張られず、逆に死神を中心として張られてしまった。

 結果として瘴気のようなものは結界の外には出てないが、いたたまれない雰囲気がその場を支配する。


「シグナ。少し後ろにいてください」

「やりたいことは分かるが......危険だぞ? 」

「生きるか死ぬかの状況です。今以上の危険なんてありません」

「わかった。だが不味まずそうだったら抱えて離脱するからな」

「頼みます」


 やり取りをしているといつの間にか死神が結界の外に出ていた。

 しかし彼女達は見慣れた様子で構える。


「む。次は貴様か」

「アダマにかつを入れるためにも痛い目を見てもらいますよ」

「現実を受け入れないとはおろかなり! 」

「樹海迷宮」


 エリアエルが魔杖をかかとなえた瞬間、死神を中心として巨大な緑の魔法陣が描かれる。

 そこから巨大な樹が立ち昇りきりが出て来た。


あさはかな。たかが迷宮くらいで我を止められるとでも? 」

「これだけではありません。滅魂の獄炎パニッシュ・インフェルノ


 木々に霧に炎が移る。

 本来火がつくはずがないものにまで火がついた。

 死神を取りまくそれらは一気に襲う。


「うおおおおお?! 」


 滅魂の獄炎パニッシュ・インフェルノ

 魂そのものにダメージを与える超越級の魔法である。


 魔法は初級から始まり上級、超級、超越級と分類される。

 そしてそれらは各属性と神聖属性、死霊属性などに分かれるが、今彼女が使っているのは死霊属性超越級魔法。


 魂に刻まれたその罪科ざいかに応じてダメージを与える効果を持つ。

 今回は、どういう仕掛けかエリアエルは分かっていないが物理・魔法双方に耐性のある『死神と言う名の魔物』と判断した。

 魔物ならば罪科は多いはず。

 少しでも彼女達に接近する時間をかせぐために迷宮を作り上げ罪科の炎で焼き殺そうとしたのだが——


「まさかこのような魔法を使うものがいるとは。見事なり! 」


 死神はそこに立っていた。

 そしてエリアエルの魔力が尽きる。


「エリアエル! 」


 すぐにシグナが彼女を抱えて距離をたもつ。

 しかしそれを追う様子もなく死神は声をはっした。


褒美ほうびに幾つか教えてやろう」


 そう言いながら悠々ゆうゆうちゅうを浮きながら移動する。


「一度死んだ物を生き返らせるには幾つか方法がある」

「「?! 」」

「送られた先にもよるが、我が送ったように魂が死者の国ヘルではなく英雄の館ヴァルハラに行ったのならば、そこに行き引き戻せばいいだけ」

「……私達に一度死ねと? 」

「愛する者をよみがえらせたいのならば相応そうおうの対価を支払うのは普通であろ? 」

「あ、愛するなど! 」

「わたしが行きます」

「エリアエル?! 」


 顔を上げきりっとした目で死神をにらむエリアエル。


「わたしがアダマを引き戻してきます」

「一度死ぬことになるが、それでもいいのか? 」

「構いません。それに戻ってくることもできるのでしょう? 」


 エリアエルの言葉に死神は口を大きく開ける。

 そして両腕を広げ笑いながら言った。


「ははははは。その通りだ。私の手で死亡した者の魂は世界を行き来できる。あっぱれ、あっぱれだ! 」


 笑いながら鎌を構える死神。

 そしてそのかまを振り下ろそうとした。


「その必要はないぞ、エリアエル! 」


 瞳をつむりその時を待っていたエリアエルは、聞き覚えのある声に瞳を開けた。


 ★


「ア、アダマですか?! 」

「あぁ。そうだ。待たせたな! 」

「生き返ったのか?! 」

「……向こうで何回も死んだが」


 振りかざされた鎌を受けた手を放す。

 同時に死神が離れて行った。


「……ここにいるということは乗り越えてきたということか」

「あぁ。向こうで色々と聞いたよ」

「ならば我の役目は終わり、ということか」

「まぁ待て」


 鎌を収めてどこかに消えようとする死神の肩をつかむ。

 後ろから驚きの声が聞こえるが、一先ず放置だ。


「俺の仲間が世話になったようだな」

「……必要な事よ。我に因縁いんねんをつけられても困る」

「いやいやたとえ必要だとしてもやったことに変わりない」

「ま、待て。乗り越えたということは今のお前の力は! 」

「いっぺん死にさらせ!!! 死神の分体ごときがっ!!! 」


 ゴン!!!


 骸骨がいこつの顔を殴り地面にたたきつける。

 会心の一撃は奴にも効いたようだ。

 徐々に顔が崩れて行っている。


「……我は『死』を司る神なり。人間よ。精々足掻あがくが良い!!! 」


 そう言いながら死神は消え去っていった。

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