第12話 死者のダンジョン 6 アダマ、死す

 俺達の前には一つの扉がある。

 それは大きく禍々まがまがしい。


「これはまた悪趣味な」

「地獄がモチーフでしょうか」

「死者のダンジョンだからな。地獄がモチーフでも違和感がない。


 エリアエルに言いながら軽く見上げる。

 右上と左上のすみには大きな人の頭蓋骨ずがいこつが二つ。そこからアーチを作るように中央に向かって小さな人の頭蓋骨がかざってある。その上に大きなかまが交差しており『死』を連想れんそうさせた。


「死神か」


 ポツリと呟くと二人は「確かに」「そんな雰囲気ですね」と答えた。

 単に出た言葉なのだが妙にしっくりくる。


「まぁここで突っ立っていても仕方ない。行くか」


 俺が扉に手をやると二人共扉に手を付けた。

 そして三人で扉を開けた。


 ★


 草原の外とは異なり中は洞窟どうくつ

 暗い中を歩くが全く中が見えないという程ではない。


「思ったよりも綺麗だな」

「骸骨一つ落ちていませんね」


 扉の外見が外見だったためにもっとおどろおどろしいものと勘違いしていたが、そうでもない。

 んだ空気の中歩いていると、いきなり雰囲気が変わる。


「ご登場か」


 ぶわっと壁際かべぎわの炎が灯る。

 部屋が一気に明るくなったと思うとそこには一体の骸骨がいた。


死の王リッチ?! 」

「いや違う」


 全身から冷や汗がき出てくる。

 ヤバい。こいつはヤバい!

 本能が、体が逃げろと言う。

 だが逃げ場なんかどこにもない。


「……」


 灰色のボロボロのマントを羽織はおったスケルトンはちゅうに浮き、巨大な鎌を持って、こちらを見ている。まるで俺達を観察しているようだ。


 分かる。本能で分かる。

 こいつは死の王リッチなんてレベルの魔物じゃない!

 死の王リッチを見たことがないが、今まで会って来た魔物すべてを集めてもこいつの足元にもおよばない気がする。


 考える。

 どうやったら生き残れるかを。

 だが——。


「!!! 」

「……なんじに死を」


 最後に映った光景は鎌を振るう骸骨だった。


 ★


「アダマ! 」


 骸骨が鎌を振り上げ、降ろしたかと思うとアダマが「バタリ」と倒れた。

 すきは見せていない。

 いつの間にか、そこにそれがいたのだ。

 その異常な光景に感知すら発動しなかったシグナが声を上げる。

 しかしアダマから返事は帰ってこない。


「ふふふ……。奴は死んだ」

「そんなことはない! 」

「死んださ。何せ一日に一回しか使えない即死魔法を使ったのだから」


 その骸骨は悠々ゆうゆう浮遊ふゆうしながらそう言う。

 それに激情げきじょうしたエリアエルが魔法を放つ。


「アダマは死なない!!! 霊体絨毯爆撃」


 音も出ない爆弾が骸骨を襲う。

 少し衝撃でらめくが、それだけだった。


「嘘っ! ハイ・レイスでも一瞬で消滅するのに?! 」

「ならば物理だ」


 驚くエリアエルを通りすがり高速でシグナが剣戟けんげきり出す。


「竜牙光剣!!! 」


 シグナが「ドゴン!!! 」と大きな音を立てる。

 しかしそれは骸骨から出たものではない。

 彼女が骸骨をすり抜けて壁に攻撃が当たった音だった。


 すり抜けたことを自覚した瞬間彼女はそこから移動する。

 舌打ちをうちながら回り込み、エリアエルを護るように陣取った。


「やはり霊体。でもあれが効かないなんて」

「ふふふ……。絶望する必要はない」


 あくまでも上から目線で骸骨が言う。

 魔杖を握りしめながらエリアエルは魔物を見上げた。


「我は死神。この世の『死』をつかさどる者也」

「え?! 」

「な! 」

「さぁ。運命にあらがってみせよ。人間!!! 」


 こうして二人の絶望的な戦いが、始まった。


 ★


「……死んだのか? 」


 起き上がり周りを見るとそこは森の中だった。

 右に左に顔を動かすとちらほら木が見える。

 少し歩き移動するとがけになっている。


「森……ではなく山だったか。しかしここは一体――」

「ここは神界と呼ばれる場所じゃよ」

「!!! 」


 すぐに振り向き構える。

 そこには黒い眼帯をした髪の白い一人の老人がいた。


「……いつの間に」

「その答えは複雑で簡単。いつもそばに、というのが正解じゃろて」

「見たことがないのだが」

「それは少し次元の座標ざひょうがズレとるからの。仕方ない」


 なにボケたことを言っているんだ? このじいさん。


「まだボケとらんわい」


 心が読まれた?!


「そりゃぁこれでも神の一柱なんじゃから心の一つくらい読めるわい」

「神?! 」


 こんな神様見たことないぞ。

 いや神様自体見たことないが。


「いやお主は見たことがあるはずじゃ。例えば……そう。ここに来る前にとかの」

「! 」


 自称神の爺さんはほがらかな顔をしながらとんでもない事を言った。

 神!

 あれが?!


「あれは死神。役割はその名の通り死を運び魂を回収することじゃ」

「なら俺はやっぱり……」

「いやお主はまだ完全に死んどらん。精々仮死状態じゃろう」

「! ならばエリアエル達の所に行かないと! 」


 そう言い山を下ろうとすると「まぁ待て」と聞こえて見えない壁にぶつかり転げた。


 痛ててて。

 結界か?!

 だが、痛み?!


「お主のスキルはわしの力の前では通用せんよ」

「早くここから出しやがれ! 」

「わしの頼みを聞いてくれたら出してやろう」


 老人は浮きながらゆっくりと俺の方に近寄った。

 頼み?

 俺は神様が頼むほどの事なんてできないぞ?


「出来るとも。お主にはその素質がある」

「素質? 」

「うむ」


 出来る、のか。

 簡単に答えるのはどうかと思うが、今は緊急時だ。

 了解しよう。


「そうかそうか。了解してくれるか」

「でその頼みとは? 」

「この世界を滅亡から救ってほしいのじゃ」


 いや無理だろう。


 ★


 この世界はもうすぐ滅亡する。

 自称神はそう言った。

 世界滅亡? そんな雰囲気は全然感じないんだが。


「感じないのも無理はない。何せ近い将来起こる滅亡は人為的で、小さなほころびから起こるものじゃからの」


 まさかの人の手によるものだった。

 しかしなんで未来予知のようなことができるのにこの胡散臭うさんくさい神様が潰さないんだ?


「人の手によるものじゃからの。人の手によって解決してもらいたいのじゃ」

「俺達人からすれば神様に救って欲しいが」

「それをするとなんでも神頼みになってしまうじゃろ? 」

「それで世界が滅亡したら意味ないと思うんだが? 」

「お主からすればたった一つの世界かもしれんが、わしからすれば数多ある世界の一つにすぎぬ。今回も偶々たまたま見つけたからこうして教えとるが、見つけなかったらそのまま滅亡じゃて」


 無責任な。


 神様の話を聞きながら山を下りた。

 するとそこには多くの――見たことのない魔物があるいており、その更に向こう側を見る黄金に光る巨大な宮殿が見えた。


 自称神が振り向き言う。


「さてここでは何度死んでも生き返る。時間もたんまりとある」

「俺はないんだが……」

「ここは外とは時間の流れが違う。幾ら過ごそうが向こうではあまり時間が経っていないから心配いらん」


 心配しかない。


「では始めよう。神をも殺せる力を得るために――スキルみがけ!!! 」

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