第11話 死者のダンジョン 5

「い、生きてる。俺は……生きてるぞ!!! 」

「わたしも焦りました」

「打ったのはエリアエルだけどな」

「打っていいとアダマが言ったじゃないですか! シグナ」


 上半身裸の状態で俺は生きていることに感謝した。

 あの超温の小球をその身に受けて正直ダメかと思ったが何とか生き残っている。


「……にしても」

「どうしたエリアエル。俺は今生きていることに感謝しているんだ」

「アダマの耐久力は化け物じみてますね」


 あきれたかのような表情でエリアエルが言い俺は「ぐっ」と詰まった。


 確かにそうだ。

 今も体中火傷でいっぱいだが、何故か皮膚ががれ落ちて、新しくなってきているし。

 魔法を受けた時も拷問ごうもんのような灼熱しゃくねつの痛みを感じたが、徐々に痛みがなくなっていった。


 これら二つを考えると恐らく新しいスキルを会得えとくしたのだろうことがわかる。

 流石にスキル無しであれを生き残れるとは思わない。


「ま、結果オーライと行きましょう」

「そうだな。何かしらスキルを会得したのならば私達にもそれがフィードバックされるだろうし」

「……釈然しゃくぜんとしないが、生き残るためと思えばいたし方ないな」


 少しぼやきながらも一応帰還用の転移魔法陣を探す。

 しかしない。

 よってそのまま俺達は二十階層よりも下へと進んだ。


 ★


 下に降りるとそこへ草原だった。

 背の低い青々あおあおとした草に青い空。そして骸骨牛スケルトン・バッファロー


「台無しだな。っと」


 シグナの言葉が聞こえたと思うと彼女は消えるように移動して魔物を解体していた。

 魔物は一体だけ。

 そしてシグナは魔石を拾い上げながらこちらを向いた。


「今までとは打って変わって魔物が少ないな」

「その分魔物の強さが強くなっているんだろう」


 そう言いながらも次の階層への階段を見つける。

 低いながらも草があるおかげで見つからない。

 しかし歩いていると地面が動き遠くから蛇の顔がこちらを向いた。


大蛇ジャイアント・スネークか! 」

「いや大きさがおかしいだろ! 」

「蛇の上に草が出来ているのですね。どのように生えているのか少し興味深いです」

「そんなことを言っている場合じゃない! 」


 足元がぐらつく中俺はエリアエルを抱きかかえ地面に足を固定する。

 シグナがこちらをみて無事なのを確認したのか、空歩で宙に浮いた。


「斬りがいのある蛇だ。光剣」


 瞬間遠くにある首が落ちて「ズン!!! 」と衝撃が体に伝わる。

 地面が揺れ、収まるとシグナは俺達の方へとやって来た。


「さっきのはなんだ? 」

「『剣術』スキルを派生させた技に一つだ」


 着地すると彼女が説明してくれた。

 何でも光の速さで剣戟けんげきを繰り出すとか。

 もちろん単に力のみだけでは無理なので魔法やら様々な技術を合わせているらしいが――。


「……エリアエルもそうだがカエサル隊にはまともな攻撃役アタッカーはいないのか? 」

「その言葉に抗議します! わたしは「ちょっと範囲の広い魔法」を使い、「ちょっと威力の強い魔法」を使っているだけです。変人扱いは不本意です! 」

「私もエリアエルと同じ扱いはやめてもらおう。この破壊神と同じくくりは不本意だ」

「何を言いますか。わたしは「ちょっと範囲の広い魔法」を好んで使っているだけです。破壊神などではありません! 」

「先月壊した標的まとの数は? 」


 シグナがそう言うと言葉に詰まるエリアエル。

 壊した標的というのが何かはわからないが、多分魔法訓練用の——相当強度の高い的なのだろう。

 エリアエルは少し目を泳がせて草原を見た。


「さ、さぁ次に行きましょう」


 気まずくなったのかそう言い先陣せんじんをきった。


 結局の所下の階層を見つけたのはそれからかなり経っての事。

 魔物との戦闘は少なかったが体力を大幅にけずられた。

 もしダンジョンを作る人がいたのならばかなり性格が悪いに違いない。


「数は少ないんだがな」

「……わたしの出番がありません」

「無い方が良いんだが、先に進んでいる気がしない」


 ぼやきながらも二十三階層を行く。

 かなり疲れたが、まだ大丈夫だ。


 問題は二人。

 シグナは剣士と言うこともあって流石にまだ大丈夫そうだ。

 だがエリアエルはきつそうに見える。

 まぁ魔法使いがこれだけ歩くことは殆どないからな。仕方がないといえば仕方がない。


「一旦休憩を挟むか? 」

「いえ。進みます」

「エリアエル。きつそうだが……」

「この程度慣れなければなりません。これからも不測の事態が起こる事があるかもしれないので」


 そう言い更に草原を行くエリアエル。

 しかし休むことは重要だ。

 先でばててしまってはいけない。

 そう思い声をかけようとした瞬間――。


「アダマ! 」

「!!! 」


 シグナが俺に剣を向けた。

 なにが?!

 動揺している間に剣が俺の横を通る。


 グサリ。


 振るわれた剣の方向を見るとそこには大きなカマキリが一体、かまを構えたまま首を落とし、倒れていた。

 しかしそこで終わらない。

 シグナは勢い余ったのか彼女の剣が俺の横腹よこばらを斬った。


「! 」

「す、すまない! 」


 すぐに剣を収めて謝って来るシグナ。


「いや助かったよ」

「だ、大丈夫か? 」

「あぁ。斬られたと言っても触れたくらいだからな。心配ない」

「そ、そうか。大丈夫なら安心だ。次へ行こう」


 彼女は気まずくなったのか先を促す。

 肌麦色の背中がほんのりと赤くなっていた。


 ★


 階層を折りている時のシグナ・ルーンはというと……。


 (や、やってしまった!!! )


 激しく動揺していた。


 アダマのそばに魔物の気配をうっすらと感じ取った彼女だが、勢い余ってアダマを斬ってしまったのだ。

 カエサル隊の中では比較的まともと思われる彼女だが、彼女にも欠点の一つや二つはある。

 その内一つが、大雑把おおざっぱであるというものだ。


 生活が大雑把なだけならばなんとかなったかもしれない。

 しかし彼女シグナ・ルーンは攻撃も大雑把である。

 なので味方と魔物が近い場合こうして味方を斬りつけてしまうことが時々あった。


 (しかしあの斬りつけた時の感触……)


 進み魔物を切り裂いているとアダマを斬った時の感触を思い出すシグナ・ルーン。


 (とても硬くて……、あぁ、なんて斬りがいがありそうなんだ!!! )


 アダマの体の硬度はこの周辺の魔物ですら味わえない硬さである。

 思い出し興奮し光剣を連発し魔物を切り裂く。


 (もっと……もっともっと硬いものを! )


 その様子を後ろでドン引きしながら見ている二人に気付かず彼女は進む。


 結局の所、彼女も変人奇人がそろうカエサル隊の一人ということだ。

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